第二章 リスタの奇行
第一話
「明日の天気は午前中は晴れでしょう……——その後、夜にかけて少し雨が降るかもしれません」
夜のニュース番組がテレビで流れている。
白湯の入ったコップを両手で持ちながら、レイナはソファの上に座ったまま、テレビをボーっと見ていた。
やがて、シャワーを浴び終わったリスタがリビングにやってきた。
上下青いジャージ姿のリスタはバスタオルで茶色い髪を拭きながら、ヨタヨタとレイナのところまで歩いていく。
「ふう……」
といって、リスタはレイナの隣に座ると、持っていたバスタオルを首に回して、ソファの上にくつろぎだした。
レイナは隣に来たリスタのそのくつろぎっぷりをただ眺めていた。
「えっと……体あったまった?」
「うん……すんごく……ありがとう」
「あ、うん……ええと……なにか食べる?」
「……あ、うん……そうだな……お腹減った」
リスタはそう言うとぺったんこになったお腹をさすった。
レイナは立ち上がるとキッチンの方に行って冷蔵庫を開け出した。
しかし、金曜日の夜、コンビニで済ますつもりでいたレイナの冷蔵庫の中はほとんど空っぽだった。
「卵が三個と……ヨーグルトしかない……あとネギ……ううん」
レイナは固まっていた。
自分の自炊能力のなさをしばらく嘆いていた。
思えば、まともに平日は自炊したことがあまりなかった。
「あ、そうだ——」
ふと思いついて、近くにある炊飯器を開けてみる。
やはり、朝に炊いた分が残っていて、白米は中にあった。
——30分後。
「お待たせ……卵雑炊しかできなかったけど……いいかな……へへ」
茶碗に入った卵雑炊はネギが上に乗っかっている。
リスタは初めて見るその物体をまじまじと見ていた。
「ありがとう」
両手で茶碗を受け取った後も、しばらく卵雑炊を眺めていた。
「ええと……卵雑炊って食べたことある?」
「タマゴゾウスイ……ていうの?これ」
「……うん」
リスタはレンゲで掬った卵雑炊を口の中に入れてみた。
「うお……ん……あつっ……お…………うまい」
リスタの顔が明るくなった。
「これ……うまいな」
ニッコリと笑うリスタに、レイナはほっとした。
「よかったあ……まだおかわりもあるから食べてね」
「うん、ズズズ……わかった」
それからリスタは残りの分もすべておかわりし、レイナの作った卵雑炊を完食した。
食べ終わった茶碗と鍋を洗いながら、レイナはふと、誰かの食べた分の食器を洗うのはいつぶりだろう?と思った。
上京してから遠距離になっていた彼氏が最後に家に来てくれたのはもう半年前になる。
レイナは食器を洗いながら、なんだか新鮮な気持ちになっていた。
リビングの方に眼をやると、ニュース番組をボーっと見ながらソファの上でくつろいでいるリスタが見える。