第1章 堕天使リスタ


第1話

「おい、ちゃんと持て!ドーラル!」
「け、けどよお、ミンタス……ほんとにいいのかな?こんなことしちゃって」

二人の男天使たちは白い雲の上で何かを運んでいる。
男天使たちの背中には白くて大きな翼がそれぞれついている。
せっかちで口の悪いミンタスと、その子分のように言うことを聞く大柄なドーラル。
ミンタスとドーラルが運んでいるのは一人の男天使、リスタだった。
ミンタスとドーラルは白くて大きな布を二人でそれぞれ両端に持ち、その上にリスタを乗せて運んでいる。
リスタは目を閉じたまま、眠っていた。
茶色い髪に白い肌。
美しい容姿をした男天使だった。
リスタの背中にはもちろん白くて大きな翼が二つ揃って折りたたまれていた。

「いいんだよ……!こいつさえいなけりゃ……フレディアはきっと俺に夢中なはずなんだ」
「ミンタス……それって嫉妬……」
「うるせぇ!……それにこいつは前から気に食わなかったんだよ!……誰にも敬語を使わねえし気も遣わねぇし……それなのに周りからちやほやされやがって」
「ミンタス……だからそれ嫉妬……」
「うるせぇ!黙れ黙れ!……ほら、お前しっかりそっちの布持ってろ」

二人は雲の端まで歩いていた。
その先は何もない。
青空がただあるだけだった。

「ミンタス……マジでやるのか?」

ドーラルはあたふたしながらも、ミンタスに聞いた。

「へへへ……なあに……誰も見てねえよ……いっちょ堕としてやろうぜ……このかわいい人気天使リスタちゃんが人間界に堕ちるんだ……面白えだろ?」
「俺たちバレたらヤベェって……」
「だからバレねぇって……それにお前もミーナのこと好きだったろ?」
「え、なんでそれを?」
「バレバレだっつーの……それにミーナもリスタに惚れてんだぜ?ドーラル」

ドーラルはそれを聞いて思わず両手で持っていた白い布を離してしまった。
布からリスタがずるりと落ちる。

「おい!バカ!何してんだよ……ちゃんと持てよ……眠り薬で眠らせてるとはいえ、起きたらヤベェだろが」

慌てるミンタスの向かいでドーラルは固まっていた。

「ミンタス……そ、それって本当か?」
「へへ……ああ残念ながらな……ミーナはリスタにゾッコンよ……なのにリスタはミーナなんかすっ飛ばして他の女とイチャイチャしてんだぜ?……ミーナの一途な気持ちも全部踏み躙られてんのさ」
「そ、そんな」

ドーラルはミーナのことが好きだった。
綺麗な長い金髪のミーナ。
美しくて優しい顔のミーナ。
考えただけでドーラルは胸の中が苦しくなった。

「ミーナのことを散々振り回した挙句、この野郎は他の女といちゃこいてんのさ……どうだ?許せねぇだろ?」
「く……許せねぇ」
「だろ?……ほら、わかったらお前はそっちの足を持て」

ミンタスはリスタの両肩を、ドーラルはリスタの両足を持って、それぞれリスタを持ち上げた。

「いくぞ、ドーラル!せーっので投げるぞ!」
「うん、ミンタス!」
「よし!んじゃいくぞ……せーっの!」
「むんっ!」
「おりゃ!」

二人は勢いよく雲の上から眠っているリスタを投げ飛ばした。
投げ飛ばされたリスタはあっという間にその体が小さくなるまでどんどん下に落下していった。
天界から落ちてしまったリスタの行き着く先は人間界である。

「じゃあなリスタ……天界から堕ちたおめぇはもう天使でも何でもねぇ……けへへ、ざまあ見ろ」

ミンタスはそう言ってニッと笑った。
その後、ミンタスとドーラルはすぐにその場から逃げるようにしていなくなってしまった。
あとに残るのは白くて大きな雲だけだった。
そこは天界の端っことなる場所だった。
通常、天界から堕とされてしまった天使は堕天使となって翼を失ってしまう。
一度翼を失った天使は自力で天界に上がることもできない。
天界から堕とされてしまったリスタは、これからは一体どうなるのか……。
それは誰にもわからない。

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