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なんでだろう、夏祭りって。


今日はこのあたりの地域は、あちこちでお祭りの日だ。
8月の最初の土曜日。子供の頃から変わらない特別な日。
朝から街中がきらきら、そわそわしているようだ。

大人になってからお祭りだろうが仕事はあるし、他の日と変わらない土曜日になったのに、あのころのワクワク感が心の底でこそこそと動いている。

夏の思い出は、ほとんどがこの日に詰まっている。

子供の頃は、夏休みに入る前から駆け引きは始まる。
誰とお祭りに行くか。
誰からも誘われないなんて悲しい夏にしたくない。1人になりたくない。絶対的な約束が欲しい。大好きなあの友達と一緒に行きたい。あの子は同じように思ってくれてるかな。
小学生の小さな世界でも、立派な人間関係の悩み、駆け引きを味わう瞬間だった。
無事に仲良しのあの子とお祭りに行く約束さえ取り付けてしまえば、あとは楽しい悩みだけだ。

浴衣の色は何色か、髪型はどうするか。この日だけは足の爪のネイルも許可が出る。
お気に入りだったのは、ひいおばあちゃんが作った白地に大きな赤い花の浴衣だった。爪にも母が赤い花を描いてくれた。
あとは当日を待つだけ。
地元の夏祭りは規模は小さく、同級生のお父さんお母さんがお店を出しているものも多く、出店の通りなんて5分も歩けば端から端まで歩けてしまう。
そんな小さなお祭りでも、子供の私には特別だった。
友達と夜遅くまで過ごせることも、短い通りで好きな子とすれ違うだけで話なんか出来ないのに嬉しかったことも、焼き鳥の匂いも、だんだんに涼しくなる夜の空気も、帰り道の寂しさも。

それから少しづつ歳を重ねても、やっぱりお祭りは特別だった。
大好きな人と手を繋いだ夜道も、2人で通った小学校の裏道も、みんなで花火をしたことも、大好きなあの子の手を掴めなかったあの時も。

人混みの中で前を歩く鮮やかな色のあの子のカバンが少し遠ざかる。
受験生だった私たちはお祭りにも行けず、学校での模擬試験を終えて、浴衣を着た楽しそうな人の流れに逆らって駅へと向かう。あの子は後ろにいる私のことは気にしないのか、どんどん人の間を進んでいく。あの時、なんで振り返ってくれなかったの?手を掴んでくれなかったの?私はなんで、「待って」って言えなかったの?

あの時、「待って、寂しいよ」って手を掴んでいたらなにか変わってたのかな。
なんて時間が経った今考えるけど…
多分、今の私でも「待って」は言えないし言わない。2人の未来は結局同じだと思う。
あの日から私はそれなりに元気でいるし、あの子もどこかで元気でいる…と思う。それでいい。

夏の暑さに浮かされて、普段思い出さないような、あの一瞬一瞬が波のように押し寄せて、少しだけ私を振り返らせる。そんなこともあったよねって笑えるくらい大人になったけど、やっぱり生ぬるい夜に浮かぶ提灯のオレンジ色は特別で、切ない。
散らばった思い出達を1つずつしまって、帰り道、車を走らせる。


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