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小説『道』 3:世界

「お前が声を捨てたら何が残る」
 人間は一つのもので成り立っているの?
 そういう意味で言ったのではないとは思う。けれど、どうしても考えてしまう。
 それは、存在自体を否定する言葉ではないのか。
 それを考える場面でないのはわかっている。でも、どうしても考えてしまう。
 自分のためを思い言ってくださったのだと分かっている。
 分かってはいるが、そればかりが頭をぐるぐると巡っていく。
 巡るはその時、その言葉。

 舞台に立つ。
 メイクをして、衣装を着て、オーケストラが鳴り響く。
 ここで自分の中にあるものを全て出せたらどれだけ気持ちが良いだろうか。
 でも、どうしても押さえてしまう自分がいる。
 思いっきり、自然に、自由に、解放してしまいたい。
 だが人前に立つと、体の使い方を考えると、発声のことを考えると、考えれば考えるほどぎゅっと縮こまってしまう。
 鳥になりたい。自由に空を飛び回り、思いっきり羽ばたきたい。
 狼になりたい。自由に大地を走り抜け、どこまでも遠くに声を響かせる。
 馬鹿になりたい。あるがままに、思うがままに、ただただ大好きな音を奏でる。音楽馬鹿に。

 なんて自分は醜いのだろうか。
 ドス黒いものが自分の中に渦巻くのを感じる。
 これは何だろうか。
 欲望?
 感情は綺麗なものばかりではない。
 喜びや幸せ、ワクワク、ドキドキなどの感情もあるが、憎しみや恐れ、悲しみや妬みなどの感情もある。
 自分の中にある光だけを見ていたい。けれど、自分の中にある闇もまた自分自身。
 光の中にいる自分。闇の中にいる自分。あの時の自分はまだそこにいる。

 妖怪が好きだ。
 お化けやバケモノは嫌だが、龍や童は好きだ。
 ネットで龍について調べていると、とあるブログに辿り着いた。
 闇の蛇と龍についての嘘のような本当の話。
 前世は騎士で、龍と共に闇の蛇と戦っていた。しかし、龍が目を離した隙に闇の蛇は騎士の中へと隠れて身を潜めてしまった。
 そして今世では、ある出会いによって闇の蛇は浄化され、苦しみから解き放たれた。
 その話に興味を持ち、更にそのブログからあるブログへと辿り着いた。
 そこには妖怪たちとの様々な出会いや別れ、日常などが綴られていた。
 ものすごくワクワク、ドキドキした。物語の中にいるようだ。
 そして、そのブログの読者の集いが開催されるという。
 また違ったドキドキを感じながら、僕は参加の申し込みをした。

 気、エネルギー。
 目には見えないそれらを信じない人は多いだろう。
 妖怪たちのブログから、そのエネルギーに出会った。
 本当は誰もが身近に体感しているエネルギー。その際たるは電気だろう。
 電気はあらゆる所に存在し、生活の一部となっている。静電気や雷などは目に見えるが、それよりも細い電気は目には見えない。だが、そこにある。
 空気もそうだ。誰もがそこにあることを知っているし、それがないと生きてはいけない。目には見えない。見えないけれどあると知っている。
 でも、気やエネルギーの話になると怪しい、信じられないと言う。
 自分はあの出会いから、更にエネルギーを身近に感じるようになった。
 自分の中にある光や闇。言って仕舞えばそれもエネルギー。
 感情と向かい合うようになった。
 自分自身と向き合うようになった。
 自分の能力について考えるようになった。
 自分のやりたい事について考えるようになった。
 我、成すべきことを為さんがため、ここに在り。


 不思議な本だった。
 自分の見ているものは狭い世界であった。
 世界に目を向けると、まだまだ知らないことばかり。
 知りたい、知りたい、もっと、もっと知りたい。



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タマラ rawi 晃佑
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