小説『道』 4:ひとり
無視ゲーム。
話したら罰金だって。
何でだろう。僕が何をしたんだろう。なんで話しかけると無視されて、クスクス笑われないといけないのだろうか。
中学に入ったばかり、夏休みの少し前、僕は家から出られなくなった。
学校に行きたくなくてベッドで寝ていると、無理矢理起こされ、起きないと叩かれた。
それでも学校に行きたくなくて、トイレに閉じこもる。
年月が流れ、その状態も落ち着いた。
落ち着いて考えてみる。まず、無視をしていたのは同じ班の子。そのリーダーは僕がちょっと良いなと思っていた子だった。
もしかしたら、それがだめだった?
好きになってはいけなかった?
分からない。だって、まだ学校が始まって少ししか経っていなかった。
原因が分からないから、それ以上考えようがない。
ただ、胸が痛い、苦しい、気持ちが悪い。
誰も僕の気持ちなんて分かってくれない、助けてくれない。
この胸の中にあるモヤモヤしたものを取り出せたら良いのに。
爪を立て、掻きむしる。
苦しい、痛い、もう嫌だよ。
だれか、たすけて。
少しずつ買い物などで外に出られるようになった。
でも、まだ怖い。
どうしてこんな時間に子供がいるの、学校は?
そんな無言の言葉が聞こえてくるように感じた。
映画も観に行ったし、旅行にも連れて行ってもらえた。
少しずつ、少しずつ、一歩、一歩。
学校にも少しずつ行けるようになった。まあ保健室だけど。
何をするでもなく行って、折り紙をしたりして過ごした。
ついには合唱コンクールや運動会にも参加できた。
担任の先生が変わってから、よく家まで来てくれる。
最初は話したくなくて会いもしなかったけど、でも、少しずつ話せるようになった。
だから、少しづつ学校に行けるようになって、色々と参加できるようになった。
あの時はひとりだと思っていた。誰も助けてくれないと。
でも、そうじゃなかった。
休んでいる間、アニメを観たりゲームをしたり、音楽を聴いたり本を読んで過ごしていた。
その時見たアニメのライブDVDから、世界は更に広がった。
こんな世界があるんだ。
アニメのキャラクターは声優という職業の人がやっていて、歌って踊ったりもするんだ。
もっと知りたい、もっとこの世界を見てみたい。
東京の高校へと進学する事に決めた。声優の勉強ができる高校があるからだ。
決めてからは早かった。猪突猛進、先生に相談し、自己PRの作文の書き方も教わった。
面接のやり方も教わって、また色々な先生に助けてもらった。
東京や一人暮らしは少し怖いけど、頑張ろう。
胸が張り裂けそうだった。
この世の中、色々なことが起きている。
ただ、生きていて良かった。
生きてさえいれば、何とでもなる。
生きよう。