Cahier 2020.11.28
11月も終わりに近づき、遠くに大みそかの足音が聞こえ始めてきました。
朝晩の空気が冷たく乾いていくこの季節。昔の人は「霜月」なんてゆかしく表現していたんですよね。雪が降るようになる少し前の、空気がひんやりと湿り気を帯びている様子。11月の東京で朝霜を見ることはほぼないと思うけど、霜の降りた静かな朝を思い浮かべてみると、本格的な冬へ入る前のひとときもなかなか良いもののように思えたり。
街のイルミネーションもキラキラと眩しいこの季節。一年分蓄積した疲れに終わらない仕事。ややもするとぐったりとしがちなこの時期、ハレの光を浴びながら気持ちを奮い立たせることしばしばです。光は心の中まで照らし、明るくしてくれる。きっとそう。
というわけで、今日は銀座の光スポットをご紹介します。
まずは数寄屋橋交差点にある東急プラザ銀座・キリコラウンジ。
現在休業中で近影がないのが残念ですが…外観からも少し分かるように江戸切子をモチーフにした大きなガラス張りのテラスです。ここは絶対夜の訪問がおすすめ。フロア内は照明を抑えてあり、大きく取ったガラス窓から夜の銀座の煌めきが一望できます。切子硝子のように自ら光を発するのではなく、外部の光を集めて輝くのですね。銀座の光、といえばまずはここです。
続いて、メゾン・エルメス。
ポンピドゥーセンターでも知られるイタリアの有名建築家、レンゾ・ピアノ氏による設計で、全面ガラスブロックで覆われています。エルメスの名品「カレ」を思わせるこの分厚いガラスブロックは表面に凹凸があって、建物の内外の光を柔らかく映すので冷たさとは程遠く、むしろランタンのような温かみを生み出しています。建物の中に入るのなら昼間がきれいですが、外から眺めるならば、やはり夜。店内を照らすオレンジ色の柔らかな光がモザイク画のように見えてそれは美しい。ソニービルがソニーパークになってからはビル全体がよく見えるようになって、新しい景色ができたみたいです。
次はGINZA SIX。
オープン当時、草間彌生さんの作品が大きな話題になったあの吹き抜けに、現在、吉岡徳仁さんの作品《Prismatic Cloud》が展示されています。
高透過の細いガラスが光を集めて、まるで太陽を包み隠した雲のように。光が集積してほわんと宙に浮かんでいるその様は、煩わしい概念やら雑念から解放されているかのように純粋で壮大です。銀座随一の商業施設の中にあって、最もラグジュアリーな体験を提供していると言ってもいい気がします。
リニューアルした銀座駅構内にも吉岡さんの作品があり、こちらはパブリックアートとして常設されています。
その名も《光の結晶》。6角形のクリスタルガラスを600個以上用いて制作されたこの作品。光源の乏しい地下鉄駅構内で狙い通りの光のプリズムを生み出すために2年半もの間、何度も試行錯誤されたのだとか。詳しくはCasa BRUTUSのこちらのインタビューに詳しく掲載されています。まるでダイヤモンドのような輝きは、永遠といったら大げさだけど、でもそれくらいの恒久的な願いを込めて作られているんですね。
最後は少し足を延ばして、京橋へ。
銀座駅同様、リニューアルと同じタイミングで中西信洋さんの《Stripe Drawing - Flow of time》がパブリックアートとして展示されています。やはりこちらもガラスを使った作品で、ガラスの重なりによって光の色が様々に変化します。オパールのように捉えどころのないその色の動きこそ、まるでFlow of time、流れゆく時間を描き出したものなのでしょうか。こんな光の中にいられるのなら、いつまでも時の移ろう様を眺めていたいものです。永遠・悠久のイメージをまとった《光の結晶》との対比も面白い。
銀座と言えば、2丁目のカルティエのビルの辺りは明治時代に初めて電気灯(アーク灯)が灯された場所で、「日本最初の電気外灯建設の地」という碑が今もあります。ガス灯通りには当時のものを模したガス灯があるし、明治の頃から銀座は光の街。それまで行灯のようなぼんやりした光しか知らなかった江戸の人々は、電気の光のその眩しさに驚いたと言います。
銀座って、歩いているだけでちょっと気分がウキウキしてきませんか?名だたるメゾンの華やかなブティックに、押しも押されぬ風格漂うザ・老舗店、道行く人もちょっとだけお洒落していたりして。どちらかと言えばハレの場だけど、それは日常を照らすための光の場。スカーフ1枚、もしくは奮発してコートやバッグを買っちゃったり、あんぱんやかりんとうを買うのだっていい。「銀座でお買い物」は、あの街の光のかけらを手にすること。
たまには心を照らしに、銀座へ。
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