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不死王暗殺事件

この国を長らく治めてきた、かの『不死王』が崩御したのは一週間前のことだ。
永世に続くと思われた先王の治世だが、当の本人は微塵もそうは考えていなかったらしい。
彼は事前に後継者を指名しており、その結果として継承の儀はつつがなく行われた。

王座の空白期間すらないその鮮やかさと、現国王が元より受ける民の信頼の厚さから、国内は何事もなかったかのように平静を取り戻した。

だが、表面上は落ち着いたかのように見えても、いや平穏無事だからこそ人々の好奇心は掻き立てられるものだ。

国民は王家の統治を享受しつつも、口々に『不死王』の死の真相を勘繰りあう。

ある者は、王は不死という神への大罪から罰を受けたとか。

別の者は、現王が王座を奪い取る為に先王を暗殺したとか。

またあるいは、先王は不老であって不死ではなく、天寿を全うしたと擁護する者もいた。

そんなくちさがない噂話に興じる者達にも、共通する願望はある。
それは事の真実を知りたいという、危険な好奇心であった。

「それで、私に真実を確かめて欲しいと?」
「だそうです、はい」

竜の為に整備された洞窟内、そこで人間向けにつづられた書物に向かって大きなその身を縮こまらせて読み進める黒曜石めいた鱗の持ち主。
彼は自分に向かって述べられた事の次第に、モノクルの奥の瞳を細めて勘案する。

「ワトリア君、人間達の秘め事に竜である私が首を突っ込むのは、些か野暮ったくはないかい?」

竜に一言注意を告げられた学士の女性は、分厚いメガネをずれ落ちさせつつも食い下がる。

「でも先生、何があったのか気になりません?」
「気にはなるさ、かの不死王はなにせ聞くところによると私より年上だからね。でも人間達の秘密を竜である私が暴きたてるのは……」
「もし、その王族からの依頼だとしたらどうです?」
「フムン」

当の王族すら疑問を抱く、不死王の死。

【つづかない:文字数795】

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