僕を必要だって言って欲しいんだ
じーちゃんの言うことにゃ、昔は働かないと生きていけなかったらしい。
それに比べたら現代は最高だとも。だけど
「ドミニオン、次の僕の就業予定は?」
「6ヶ月先までありません」
「マジかぁ……」
無機質なワンルームのベッドで無気力感にふんぞり返る。
ワークレス症候群。働かなくて良くなった人類が罹患した精神病。
端的に説明すると、人間って奴は全く働かずに他者に貢献していないと、それはそれで病む生き物ってことらしい。
独り暮らしになってからは、かくいう僕も毎日ごろごろだらだら、ドミニオンの言うとおりの時間に起きて、朝食取って、適度に運動して……夜になったら寝る。
そういう表面上は健康的な生活を送ってたのにどんどん精神的に不安定になった。
「僕の存在価値ぃ……」
特に何かに貢献出来なくても、生きていていい。ドミニオンはそう言ってくれるけど、やっぱり誰かの役に立っている実感が持てないのは辛かった。
キンコーン
ほとんど誰も来ないはずの僕の部屋のベルが鳴った。誰だろう。
おっくうながら玄関を開けると、そこに立っていたのは僕よりちょっと年下の女の子。
髪の毛は栗色で艶やか、肩より長く伸ばした毛先をうなじの辺りでまとめて肩に流してる。
名前は……なんだっけ。確かお隣さんだったのは覚えてる。
「こんばんは、何か用?」
「えっと、良ければ晩御飯ご一緒しませんか?ちょっと作りすぎちゃって」
「作り過ぎて……って、自分で?」
僕らの食事はほとんどドミニオン任せだ。
彼ら管理AIが何でも人間に必要なものを用意してくれる、用意出来ないのは仕事位だ。
「はい、私が作ったんです」
「行く、行くよ。ドミニオン、今晩の夕食はキャンセルして」
「わかりました」
ただ食事に誘われただけなのに、この時の僕はやけに浮わついていた。
人から求められる、というのは案外精神の安定に寄与するらしい。
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