滅びよ!資本主義!
『あなたの将来的な人材資産価値は六十六兆二千億円です』
スマホに表示された文面を読んで、僕は過呼吸からベッドにひっくり返ってしまった。
「ッハーッ!ハーッ、ハーッ……ウソでしょ?」
これが宝くじなら、両手をあげて大喜びしたはずだ。やった、一生遊んで暮らせるって。
でもこれは違う、そうじゃない。
「やっぱり六十六兆二千億円……」
将来人材資産価値って言うのはその人が死ぬまでに得られる仕事の資産価値だ。
つまり、この診断の結果は僕が死ぬまでに日本の年間国家予算並みの成果を出す。そう言ってるんだ。
「あり得ない」
そう、あり得ない。富豪だってせいぜいが一兆円くらいなのに。六十六倍だなんてバカげてる。
「ウソであってください……」
本当に、心のそこからそう願った。
僕はごく普通の、中学生だ。ただ彼女作ってささやかな青春が謳歌できればそれでいいのに、六十六兆円もの責任を負わされるなんて悪い冗談だ。
そんな時、僕の住んでるワンルームのチャイムがなった。こんな夜更け、しかも宅急便以外はめったに来訪はない僕のうちにだ。
玄関のレンズを覗きこんだ僕の目に、SFコメディ映画から飛び出たような黒いサングラスに黒服の二人組がうつりこむ。
(……!)
反射的に叫び声をあげそうになったところを何とかして押さえ込むと、足音を殺して玄関から離れる。
なんだこれ、ウソでしょ?きっと僕は悪い夢を……そうだ幻覚を見てる、そう言い聞かせるより早く玄関のドアが乱暴にノック音を立てた。
「ヤバい」
なにがなんだかさっぱりだが、僕はヤバい状況らしい。
なんせ六十六兆の男だ、一億でも人が死ぬんだから僕のためになら何百人殺されてもおかしくないんじゃないか?
こっそり、こっそり、ベランダに出ると、屋根に飛びうつっていく。
こんなこと、するはめになるなんて思わなかった。
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