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BWD:力を振るう覚悟
「死よ、死よ、ほろびがおまえをむかえにきたぞ」
逆光の中に立つ乾いた血色の外套をまとう男!周囲に「殺仏殺祖」「二乃太刀不要」「仏敵必殺」「一切灰塵」「屍山血河」「本来無一物」「悪因悪果」「我地獄也」「雲耀一閃」なる恐るべきイニシエート・カンジワードの墨字を浮かばせ仏敵を威圧する!
ーーーーーー時は半日前にさかのぼる!ーーーーーー
「大量意識不明事件?」
「はい、ギルドはアクマの関与があると判断。あなた達に依頼する事を決定しました」
都心のビルにひっそりと入居するいつものバー「涅槃」。
そこで袈裟の意匠をあしらった黒いケサ・コートをまとったボンズはギルド事務員からのホログラフィック映話通信を受けていた。
「で、おいくらまんえん?」
「いつもの事ですがブディストなのに対価を求めるんですね」
「ハッ、無償奉仕するのはブディズムを必要とする無辜の者が相手の時よ。金持ちの政府機関がボンズをただでこき使おうとは言うまいな?」
「ええ」
キャシャーン!!!電子ホログラフィック映像にワークの代価が表示される!
「こいつは重畳」
「被害者を収容した医院の見解では意識が戻らないだけでなく徐々に衰弱していることを確認しているとのことです。迅速な解決を求めます」
貴方たちなら出来るでしょう?と言わんばかりの冷淡な態度に適当に手を振ってこたえる黒ボンズこと、カリュー。映像が途切れる。
「だ、そうだ」
「うひょ~、手厚い信頼に俺ちゃん涙がでちゃう」
カリューの振りにざーとらしく顔に手を当てる相方の白探偵、セージ。
「ま、調べはついてるぜ。各所に設置された監視カメラをハックして動画を抽出したが被害者がバタバタ倒れる中で一人だけ平気な顔して歩き回ってるやつがいた」
「たまたま助かった、という線はあるか」
ボンズの疑問に肩をすくめる探偵。
「ないな。こいつを見てくれ」
タブレットを指先フリックで操作すると表示されるマップ。そこにはあたかも台風の進路めいてターゲットの移動ルートと被害者の発見地がマッピングされて表示された。
「こいつが移動した経路でバタバタ犠牲者が出てる。ギルドが直接俺達のケツを叩いたのも納得って奴だな」
「ならば征くとしよう」
「はいっ!」
元気よく割って入った給仕服の少女に懐から数珠を投げ渡すボンズ。
「これは……お数珠?」
「ついてくるなら必要になる、身に着けておくんだ」
カリューの言に素直に頷く少女カスミ。
「マスター、行ってくる」
「おう、夜までには戻ってきてくれ。最近カスミがいないと人手が足りなくてな」
「あいよ」
ーーーー場面転換!----
異界へとつながるゲートを抜けるとそこは草木薫る風の吹く草原であった。
「ここがターゲットが選んだ世界か、赤い酸の降る鋼鉄の大地とかでなくてよかったが」
「その、そんな世界に行かれる方もいるんでしょうか」
「いるぜ、ヘソ曲げた天邪鬼なヤツは人間が到底生きていけないような世界に行くしな」
探偵の言葉にほぇーといった面持ちで聞き入れる少女。
探偵は言葉を続ける。
「ターゲットの少年は前々から異世界移住をもくろんでいたようだ、世界間パスポートがすでに持っていたってことは。っつーことはこの後行く先は決まってる」
「どこでしょう」
「アールピージーみたくはじめの町を拠点にするってことさ」
一同が降り立ったのは草原の丘陵であった。眼下にそれこそ幻想めいた牧歌的集落が視界に入った。
ーーーー場面転換!----
そこには音がなかった、生の音が。
地球では中世相当に当たる文化の集落は既に生の気配が抜け落ち、死の静寂だけが漂っていた。言葉を詰まらせる少女、一方冷静に倒れた婦人を抱き起して脈をとるボンズ。
「……完全にこと切れてはない、ギルドの報告にあったように意識不明の状態だ」
「ジャックポット、だってこったな。急ごうぜ二人とも」
二人を促す探偵の視線は倒れ伏した死の行列を醒めた目で流した。それはあたかも地獄への道のように大地に、その果ての穴へと続いていた。
ーーーー場面転換!----
「誰だ……?いや、来るな、来ないでくれ!」
洞窟の闇の中、叫ぶ少年の影!そこより這い寄る黄泉のツンドラめいた底冷えする気配!
「喝ーッ!!!」
先頭に立つカリューのボンズ・シャウト!黄泉の気配が霧散していく!
「あ、あんた一体……」
「ボンズだ。こっちはクソ探偵と元JK」
おびえる少年に対する身も蓋もない紹介に苦笑して答えるセージとカスミ。
「ギルドの依頼でおまえをさがしていた。大量の人間を意識不明に陥らせたのはおまえだな?」
「……そのとおり、です」
うなだれてボンズの追及に答える少年。つづいて言葉を探偵がつづる。
「へい、ボーイ。おまえさん他の奴から命奪うイマジナリィ・アーツが覚醒したと思い込んで異世界移住を決意したろ、あってる?」
「……!?初めて会ったばかりなのにそこまでわかってるんですか?」
「その反応は合ってるってことね、はいはい。そりゃあ俺っち探偵だからね、これでおまんま食ってるもの」
へらへら笑って少年の緊張を解こうとする探偵、威圧的仏頂面のカリューと相対的だ。
「探偵さんの言う通りで、俺、数日前にこの力に目覚めた事に気が付いたんです。クラスのムカつく奴等に怒りを覚えたらあいつらバタバタと倒れて、俺がやったんだって思って」
「これ幸いとかねてから計画していた異世界移住を決心したと」
「そのとおり……です、でも、でも」
顔を落とし涙声で弁明を続ける少年を責めず、三人は聞き入れた。
「おれ、知らなかった、あんな、死んだ人間があんなに冷たいだなんて……それにこっちに来てから殺す相手を選べなくなって会う人会う人皆死んでいって……人殺しがこんなに辛いものだなんて、誰も教えてくれなかった……!」
嗚咽する少年をカスミがしゃがみこんで抱き締める。
「大丈夫、です。その事に気づけたならあなたもきっと立ち直れます」
「少年よ、それは幸か不幸かおまえの罪ではない」
ボンズの言葉に顔を上げる少年。
「え……?」
「何故なら人々の魂を奪い死の淵に追いやったのはおまえを隠れ蓑にしたアクマの仕業ゆえよ!」
カリューの投げ放った独鈷杵が少年から伸びた陰に突き刺さる!
黄泉の悪霊めいて陰がアクマへと変じる!
「ヌゥーッ!」
「おう、でおったか。少年を隠れ蓑に人々の天命を曲げ死の淵へと誘ったその罪許し難し!」
「人々の命を奪う死の神、冥府のあるじ、なによりもその巨大なアギト、貴方はウガリット神話に語られる地下世界の神モート、ですね!」
「おっと、俺っちのセリフ取られちまったか。流石オカルトマニアってね」
見栄を切る三人に途方もない広さの洞窟を満たすほどあぎとを広げ牙を剥くアクマ、モート神!
「一度ならず二度までも人間風情がワレの覇業を阻むか!」
「二度と言わず何度でもおまえに負けの味を教えてやろう!はじめての相手がドイツかは知らんがな!」
モート神の口腔から放たれる暗闇の牙をカリューは手にした数珠で叩き落す!続いて送り込まれる無数の悪霊!
「おっとコイツは銃の効きが悪いな!」
「霊体なら私がやっちゃいます!!」
襲い来る黒雲の如き悪霊は三者の前で見えざる荒縄にからめとられたがごとく縛り上げられ締め上げられれば次々と霧散していく!
「ヒューッ!いいぜカスミちゃん、本体は俺達に任せな!」
手にした二挺の銃より放たれる強制成仏弾!
「そんなものがワレに、ガァーッ!」
叫喚するモート神!なんたる恐るべき銃撃か、セージはモート神の牙に跳弾させ喉奥を幾度となく貫いたのだ!
「おのれ、おのれーっ!」
同じ神霊ならいざ知らず人間風情に二度までも苦鳴をこぼす屈辱に身を震わせるモート神!彼奴はその果てなきアギトを広げるとかつての仇敵を殺したように三人をもろともに捕食し飲み下す!絶望に震える少年!
「く、くくく……大見栄を切ったがはじめの奴ほどではなかったか」
「あ、ああああああ……」
「くはっははははああああ!さあ小僧、再びワレの傀儡となるがいい。ワレが居ればおまえの望む通り邪魔者は皆殺しよ。おまえもそれを望んでいただろう」
アクマの契約に少年は叫んだ!
「イヤだ!おれはもう誰も殺さない!殺したくない!」
少年の叫びに答える声あり!
「よく言った!」
「バカな、ワレは死ぞ、ワレから逃れられる者など」
「それがどうした、俺はここにこうして生きているぞ!まだな!」
モート神の腹から凄まじき光量のライトセーバー降魔の利剣が飛び出る!
「吼えろ!不動明王剣!」
「アバッ、アババババッーッ!」
アクマの腹を裂いた光はそのままアクマを両断する!まばゆき光が闇を払う!
光が消えた後にはバニッシャー三人と少年だけが残されていた。
南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏……
ーーーー場面転換!----
「一度、ならず二度までも……否、否、何度であろうとワレはこの世界を……」
モート神は滅びていなかった。彼奴は伝承においてすら幾度となく黄泉がえり現世を支配せんとするしぶとさを誇っていた。だがしかし!
「死よ、死よ、ほろびがおまえをむかえにきたぞ」
逆光の中に立つ乾いた血色の外套をまとう男!周囲に「殺仏殺祖」「二乃太刀不要」「仏敵必殺」「一切灰塵」「屍山血河」「本来無一物」「悪因悪果」「我地獄也」「雲耀一閃」なる恐るべきイニシエート・カンジワードの墨字を浮かばせ仏敵を威圧する!
「きさま、きさまはぁーっ!?」
「ふん、誰彼かまわず食い散らかしやがって。おかげで俺は死人をつなぎとめるのに大わらわよ」
その身に無数にまとった刀剣から男は一際禍々しい赤黒の大太刀を抜く!その刀身に祈りめいて刻まれた「万象必滅」の文字!
「ワ、ワレは死ぞ、死を人間が滅ぼ」
「斬ッ!」
「ア、アバーッ!」
陽光が浮かびあがらせる影の中、アクマの影が真っ二つになって散った。地上の花火めいて爆発的に放たれる青白い霊魂達!
「森羅万象、滅びぬ物などありはせん。冥土の土産におぼえておくがいい」
ーーーー場面転換!----
「被害者達は意識を回復したのを確認しています。依頼達成を感謝します、カリュー」
「あいよ」
途切れたホログラフィック映像に惰性で手を振るボンズ。そのままカウンターに突っ伏す。
「一時はどうなる事かと思った……」
「いやぁ弱ってたわりに強かったぜ」
「私お役に立てましたか?」
「もちのロンよ。カスミが咄嗟に霊体で防御しなきゃまとめて冥土逝きだったからな」
カリューの答えに破顔して笑顔を見せるカスミ。しかしすぐに首をかしげる。
「でも、モート神にとどめを刺したのは誰だったんでしょうか。私たちが外に出た時には跡しかなかったですし……」
疑問を呈する少女に疲れ切った顔でげっそりと答えるカリュー。
「アレな、多分俺のセンセイだ。斬撃痕に見覚えがある」
「うへぇ、マジかよ。鉢合わせなくてよかったぜ」
「カリューさんのセンセイ……どんな方なんですか?」
きょとんとした顔のカスミにかぶりを振ってPTSDを払うように答えるカリュー。
「人型災害」
「えっ」
「いわく『俺の禅の極みは死地にこそあり』とか言って死合に身を置き続ける人でな、ブディストなのは確かなんだが史上稀に見るクレイジーバトルボンズだ」
「な、なんだかよくわからないけどすごそうです」
困惑するカスミにマスターの声がかかる。
「はい、トリのディアボラ風グリル」
「あ、いってきますね」
お盆を手に給仕に戻る少女をカウンターに突っ伏したまま見送る二人。
「ま……少年が罪を重ねずに済んだのだからよしとしますか」
【終わり】
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