電子太陽と実体月の対峙
太陽が踊っている、壁に掛けられたデジタルサイネージの中で。
太陽は光を余さず返す金の髪に、翠の宝石の様な瞳、幻想存在めいた長く尖った耳に整った美貌を持っていた。彼女が身を翻して舞うと、伸びやかな肢体を覆う緑の衣がその長い身丈をステージ上で風の様に踊らせた。
「……はぁ」
電子的に作られた太陽の偶像を、サイネージを隔てて月がじっと見つめていた。
月は控えめに輝く黒曜の瞳に、夜の帳が波だった様な髪をベールめいて伸ばし、その身にも夜の森がもたらす深い深い闇のごとき長衣をまとっている。月の姿は、まるで夜に佇む枝葉の伸びた木の様にのっぺりとして掴みどころが無い。
「良いよね、彼女」
びくりと身を震わせた時、月は自分の隣に人がたっていてた事に気づいた。隣の青年は何気なしに言葉を続ける。
「アバターも綺麗だけど、それ以上にダンスや普段の所作が優雅で見とれちゃうんだ。でも、今どき自分の動きをモーションキャプチャーしてるとは限らないのかな」
「……ちゃんと、自分で動いてますよ」
言い切ってから、自分の口を塞ぐがもう遅かった。音に変わった言葉はもう自分の中には帰らない。
「えっ?」
「あ、う……そう、言ってました、確か」
「そ、そうなんだ」
とっさに伝聞として落とし込むと、すぐに頭を下げてその場から駆け出す。ちらりと振り向くと青年は呆然としていたが、追っかけてくる様子はない。路地裏に駆け込むと、ほっと一息をつく。
「言っても信じてもらえないよね……自分がそうなんです、なんて」
月へと届く太陽の輝きは、実に極々わずかであった。
空想日常は自作品のワンカットを切り出して展示する試みです。
要するに自分が敬意を感じているダイハードテイルズ出版局による『スレイト・オブ・ニンジャ』へのリスペクト&オマージュになります。問題がない範疇だと考えていますが、万が一彼らに迷惑がかかったり、怒られたりしたら止めます。
現在は以下の作品を連載中!
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