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リメンバー・オスシ

 朝と夜が液体食料の自分にとって、昼メシだけが真っ当な食事だ。
 管理AIのヤツに言わせると「必要な栄養素は含まれています」だそうだ。まあ歯の維持のために噛まされるグミもあるが、アレはなんというか……義務で食ってる感じが抜けない。まずくはないが。
 監獄めいた自室……牢獄ではなく、自室だ。俺は出ようと思えばこの部屋から出られる。そこに今日の昼食が部屋壁の一角に取り付けられたシャッターから無愛想に押し出される。
 黒い衛生的な金属板の上に、お行儀よく並んだひとつまみほどの白い塊。そして塊の上に、赤、黄、銀と赤のツートーン、オレンジのツブツブ、そしてつやめかしい白といった物体が平たくのせられたのが今日の昼食だった。
 セットでついてきた小皿には、黒褐色のどす黒い液体が注がれており、それにつけて食えって事がひと目で分かる。
 いかにも脆そうな見た目の物体のうち、赤いのがのってるのをつまんで黒い汁につけ、一口にほおばる。
 ……美味い。まず、舌の上で白い塊が無数のツブツブに分かれると噛みしめるほどに甘みが染み出してくる。上の赤く平べったい代物は噛むと柔軟にちぎれては先の白い粒と混ざり合って踊る。そこにあの黒褐色の液のしょっぱさに加えて鼻にツンと来る何かが、一連の要素に複雑な味わいを添えていた。
 黄色いのはふんわりとした舌触りにくせになる甘じょっぱさで、オレンジのツブツブのヤツは粒を舌で潰すたびに濃厚な旨味が弾ける。実に美味い。
 美味い美味いとつまむたびに塊はどんどんなくなっていき、10分もたたずに食べきってしまった。結構味わったつもりだったのにあっという間だった。
「おい、ありゃなんつー食いもんなんだ」
「西暦2000年前後に流行した『寿司』という食品を再現した物です」
「寿司?」
 俺のおはようからおやすみまで張り付いて見ている管理AIの愛想のないが美しい声が淡白に回答を返してきた。
「かつて地球上に存在した魚という生物をスライスして穀物の一種である米にのせた料理です。この『寿司』の余りの美味しさのために当時魚介争奪戦争が起こり、最終的に魚介類は完全に死滅しました」
「へぇ……そいつはご先祖サマ共はアホな事したね」
 先達が魚とやらを生かしておいてくれれば俺は本物の寿司を食えたかもしれない。もっとも、本物とやらがさっきのまがい物より美味しい保証なんざどこにもないんだが。

空想日常は自作品のワンカットを切り出して展示する試みです。
要するに自分が敬意を感じているダイハードテイルズ出版局による『スレイト・オブ・ニンジャ』へのリスペクト&オマージュになります。問題がない範疇だと考えていますが、万が一彼らに迷惑がかかったり、怒られたりしたら止めます。

現在は以下の作品を連載中!

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主にロボットが出てきて戦うとかニンジャとかを提供しているぞ!

#小説 #毎日投稿 #空想日常 #掌小説

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