ヴァーディクト・ブレイカー
日本時間正午をもって、世界主要都市は壊滅、居住者の大半が死亡した。
その日事象として発生したのは、鈍色の骨格無人兵器、白亜の竜種、名状できぬ触手生物、錆色の巨人、腐敗の不死人、未確認飛行物体、奇怪地球外生命体、光なる神霊、異形たる悪魔といった人間の想像力を逸脱した脅威が一度に、出現と同時に人類を強襲した事態である。
一種でも手に余る脅威が、もはや数えきれない程の種別と物量でもって殺意を向けた事態。それを解決できる能力を人類は保有していなかった。
東京都心。屍山血河と化した路上を、母親の残滓を抱いた少年が走る。
走るほどに彼方此方から上がる断末魔と、舞い散る肉片に気を取られた少年は目の前にいる男へと気づく事無く衝突した。黒髪の男のコートに、べちゃりと母親だった物の血糊がへばりつく。
「あ……!」
少年の背の先に、大顎の恐竜を認めた男は振り返り様に、がっとカギ爪の如く曲げた指先で空を裂いた。
刹那、地平線の彼方、空の果てまでもが六つに分断され、先頭の恐竜を筆頭に、脅威もビルもあっけなく崩れおちていく。
「少年」
「う……」
「仇は討ってやる、お前は生きろ」
男の言葉に、少年は涙ぐむままに頷くと再び駆け出す。彼の前方にもまた、無数の脅威が混沌とひしめいていた。
男は迷わずに少年の前に踏み込むと、無造作に拳を振り抜いた。
拳撃が、空間を、世界を揺さぶり月をも撃ち抜く。果て無く届いた一撃に、脅威の悉くがあっけなく四散した。
僅か二撃をもって、東京地上部の侵略者はその種別を問わずに死滅。
そして男の背後に光が蛍の様に寄り集まれば、それは一体の像を成す。
蒼穹に彩られた装甲をまとう騎士めいたそれは、機械仕掛けの神。
背に三つの光翼、全身に輝く血脈、そして瞬く双眼。
それが現出した瞬間に、空を埋め尽くす侵略の影が例外なく戦慄に震えた。
「征くぞ、相棒」
男の呼びかけに応えて、蒼穹の機神は瞳に火を灯す。
「皆殺しだ」
【続く】