光の辻説法者、闇系の暗黒ガールに接敵する
「あ～俺が漫画の感想書くだけで天から金がガボンガボン振ってきて発狂した学級会の奴らが血を噴いて惨死しねぇかな～」
「ナンダソレ。まあCORONAなら既に降ってきているな」
週末、クリエイターとその作品を求めてきた人達でごった返す超巨大自由売買商業施設”Note”。その一角にひっそりと存在する胡乱窟、バー「メキシコ」には朝早くから通い詰めるうろんなクリエイター、通称「パルプスリンガー」達がたむろしていた。
その中のテーブルの一つに着座し、CORONAをあおっているのが冒頭のセリフをぶっぱした紅い天狗面にアロハシャツという一際胡乱な風体のパルプスリンガー、光の辻説法者ことA・Tである。そして対面に座っているのがうろんみ控えめではあるがやっぱり胡乱な見た目の黒づくめの男、R・Vであった。
「だってよー、俺ってば集団行動とか組織とか向いてね～ぇからこうして日々の辻説法でインターネッツ・オヒネリもらってるわけじゃん？ならもっとこー、一回での辻説法でバーッとオヒネリ投げ込まれてひがな一日エンタメ摂取してぇわけよ！」
「そりゃあな、気持ちはわかるぜ。俺も組織なんてもんの中じゃ危険物過ぎて冷遇されるのが常の側だし」
「だろう～！？もっとエンタメ取りまくってその余波で日映配とか灰になるようにしてぇなぁ」
A・Tの胡乱雑談に苦笑しつつもチャの入ったお碗を傾けるR・V。と、R・Vの情報端末が震えて通知を知らせる。板面を見るR・V。
「すまん、訪問者だ。迎えに行ってくる」
「おう、行ってこい行ってこい」
席を立って「メキシコ」を出ていくR・Vにブンブン手を振って見送るA・T。朝っぱらからCORONAをあければ日が高くなる前に早くも上機嫌になってくる。
バー「メキシコ」では他にもパルプスリンガー達が作品をテーブルに列挙しては度々訪れる訪問客に披露しており、しめやかながらも奥ゆかしい活気に満ちていた。ふと、A・Tのお面越しの視界に一人の訪問客が目に映る。
バーの入り口をくぐったその人物はまず漆黒の喪服めいた服装に身を包んだ小柄な女性、体格は痩せぎすで、見るからに華奢だ。黒い帽子の下は茶色い癖ッ毛をショートに抑えた感じの髪型で、顔立ちは整っているが不健康さが目元に出ておりクマらしき物も見える。左手には革製のトランクケースを手にしていた。
(お、う？)
その喪服の女性の姿を認めるとA・Tはあたかも呼吸にも似てよどみなく立ち上がり、タツジンのスパイめいて音もなくターゲットに割り当てたその女性の間近に歩み寄った。
「ドーモ、お嬢さん。このバー・メキシコに何かご用かい？」
「……ええ、ここに探している人がいるはずで」
落ち着いた、しっとりとした声色にA・Tのハートはグングン高鳴る。ドンピシャではないが、かなり好みのタイプだ。89点はイケるとA・Tは判断した。ゆえに、攻める。
「ハッハ、そんな君をほったらかしてどっかいってるヤツなんて置いといて私とぱらいそにいかない？」
「そういう貴方は……天狗？」
「そうそう、私こそが天がつかわした光のインターネット辻説法者、A・Tです」
「そう、天狗……」
うっとりと頬を朱に染め、天狗面の長鼻を撫でる喪服の女性。これはイケるか？とA・Tが判断した直後、女性は口の端を三日月の様に釣り上げて笑った。
「ふふ、天狗は一体どんなゾンビになるんでしょうか？」
「ッ！？」
天狗第六感がとてつもなくヤバイ危機を知らせ、喪服の女性からカカっとバックステッポゥ！５メートル距離を取る！懐に手を差し入れて灰色のポプリめいた小袋を取り出す女性！間髪入れずその小袋を目の前に投げ放つ！
「ワシが！ワシこそが真の全裸中年男性パルプスリンガーじゃ！！！！！」
折り悪く二人の間に割って入った全裸中年男性に灰色の小袋が直撃！灰めいた粉末をばらまき全裸中年男性を包み込んだ……粉末の煙が晴れると中からは変わり果てた姿の全裸中年男性ゾンビが！
「アーッ……ゼンラ……ロシュツ……アーッ」
「アイエエエエエエエエッ！！！？ゾンビ！ゾンビナンデ！？」
突然の全裸中年男性ゾンビ・インシデントに訪問客達はパニック！ゾンビリアリティショックを受けながら雪崩をうってバー・メキシコから逃げていく！いにしえより伝わる死霊術師の秘術、ゾンビパウダーである！
突然の緊急事態にバー内に居たパルプスリンガー達はそれぞれ戦闘態勢に移る！書を開くM・T！特撮めいて変身するM・J！アサルトライフルを構える６・D！プロレスラーめいた威圧体勢を取るH・M！二振りの斧を構えるJ・Q！大振りのショットガンを向けるS・C！鋼の六角棍を握るS・G！可変するノコギリを振るうT・K！アフロからネコ＝チャンを召喚しネコ＝マシンガンスタイルを取るM・N！
そしてA・Tもまたホルスターに下げた銃に手をかけながら高速思考を巡らせていた！喪服の女性に操られA・Tの前に立ちはだかる全裸中年男性ゾンビ！
(オイオイオイオイ一体全体コイツはどういうこった！？パルプスリンガーを始末するための刺客か？いや待て、刺客ならこんなやり方じゃなくて天井裏からでもさっきのゾンビパウダーをばらまけばこの場にいる全員お陀仏で即日まとめてゾンビだろ？じゃあ俺一人を直接狙った？いやいやいやそれならベッドに連れ込んだタイミングでパウダーぶちまけられたら密室で逃げ場なくてジ・エンド・オブ・メキシコだっつーの！そもそもこの女の倫理観がヤベェ！インターネッツのなりきり低倫理とかなんちゃってサイコパスとか目じゃねぇ！倫理って概念がないのかってくらい迷いなく俺をゾンビにしようとしやがった！)
なんと、この間のA・Tの思考速度は0.001秒に達した！同時に迷いなく銃を引き抜いて正面の全裸中年男性ゾンビ！そして喪服の女性へと向ける！その時であった！
「こーらっ、見ず知らずの他人様をホイホイゾンビにするなって言ったろ？」
「あいたっ」
音もなくニンジャめいて喪服の女性の背後に立ったR・Vが悪戯を咎めるような軽いノリで女性を小突いたのだ！
『ハ？』
突然の横やりにその場に居たパルプスリンガー達は一様に声をハモらせて困惑した。
ーーーーー
「いやー、すみません。レア物が目の前にノコノコ出てきたのでつい……」
「えっ、なに、待って。この子そんな『あっ！レアな虫だ！標本にしちゃえーっ！』みたいなノリで私をゾンビにしようとしたの？」
ふいんきに見初めてナンパしようとした相手がとんだ倫理・ZEROの暗黒ガールだった事に流石に戦慄するA・T。そして平謝りに頭を下げるR・V。他のパルプスリンガー達は平常運転に戻っており、全裸中年男性ゾンビは逆ゾンビパウダーで蘇生して「アレは夢……いい夢……いや、悪夢じゃった……」などとつぶやきながら警備員に連行されていった。
「すまんなほんとうにすまん、N・Mは年がら年中こういうヤツで、だからこそ俺が直接迎えに行ったんだが行き違いになっちまってだな」
「ここに居るって以前言ってたじゃないですか、R・V自身が。まあそちらの天狗さんもどうせ私の身体目当てだったんでしょうし、私が貴方の身体を目当てに襲い掛かってもイーブンという事で謝る必要ないですよね？」
喪服女性ことN・Mの余りの言い分に天狗オメーンに手を当てて天を仰ぎ見るA・T。おお、偉大なる我らが天狗の始祖よ、一体全体どうしてこうなった？しかしてしばし天狗の始祖に祈りをささげるといつもの調子を取り戻す。
「ガッハッハッハ！確かに言われてみればお互い相手の身体目当てだったんだからイーブンだな！悪いなお嬢ちゃん！」
「ええ、そういう事です。その発言も思いっきりセクハラですけど私は寛大なので許してあげましょう。感謝してくださいね」
尊大！なんたる増上慢か！N・Mの背中を押して案内に仕向けるR・Vは手ぶりで(今度なんか埋め合わせする)と伝えると無理やりN・Mをパルプスリンガー達の作品巡りへと案内し始めた。
「どなたの作品がいいでしょう、あ、あの眼鏡の中性的な容貌の方私の好みです」
「案内するけど、彼をゾンビにはするなよ？」
「しませんよぅ。私の技術じゃまだまだ容貌保ったままにできないからゾンビにしちゃったらあのお顔が台無しになってしまいます」
「それって容貌保つ技術があったらするって事じゃんかい」
「ふふ、それはどうでしょう」
物騒極まりない会話を見送りながら脱力してへなへなと椅子に着座するA・T。目の前にはまだあいていないCORONA。呑むしかない。
大量に並べたCORONAを片っ端から開けてラッパ飲みするA・Tの前の席に着座したのは肩にインコを伴ったハツラツとした雰囲気のイケメン。A・Tの普段の相方であるM・Cだ。
「よう、どうしたんだいA・T。そんなCORONAを渇喰らって」
「M・C……俺は悟った。やっぱりワイフが一番だってな……」
黄昏てこぼすA・Tに変な物でも食ったのかという視線を送るM・C。
「何らしくない事言ってんだ、いつもなら『あーっ！無責任に現地妻粗製濫造して子種ばらまきてーなっ！』ってのがA・Tだろ？」
M・Cの言葉にハッと顔を上げるA・T。そうだ。自分は光の辻説法者A・T。ちょっとナンパした相手にゾンビにされかけた程度で委縮してなるモノか。
「目が覚めたぜM・C！俺はこれからもバンバン粉かけていくわ！ガッハッハッハ！！！」
バー「メキシコ」は今日も平和なのであった。
【光の辻説法者、闇系の暗黒ガールに接敵する：終わり】
作者注記
本作品は俺が仕事している時に思いついたトンチキうろん話だ。
パルプスリンガーズの日常回なんだが、登場人物の男女比がスゴイ事になってるので俺の知己に友情出演してもらうべかとか考えた結果、こうなった。
という訳でご本人達に許可をいただいた上で出させていただいた訳だ。
なのでA・TはもちろんN・Mにもモデルが居る。しかも割と作中の再現度が高い。
とはいえ、いつも通りあくまで現実の人物をモチーフにしているだけで物語の中では俺のイマジナリィ・キャラクターだ。ご本人様とはちょっとばかし、いや結構キャラが違うかもしれないがそこはまあ、すまん。
なお、大事な事だが本作中の全裸中年男性はパルプスリンガーの全裸中年男性のパイオニアの彼とは無関係なのでご了承のほどをお願い致します。マジで。
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