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綾樫求は不思議に出会いたい

「ですからぁ!何で今時の作品は妖怪を人間そっくりにするんですかぁ!?あ、竜姫さんコロナおかわり」

日が傾く頃合い、夕陽の差し込むカフェのカウンターでいかにもオタクめいた青年がベロベロに良いながら不満を店員にぶつけていた。
不満を受け止めていた店員は青みがかって見えるストレートの黒髪、豊満なスタイルを品の良いバーテンめいた服装に包んだ美女だ。
竜姫と呼ばれた店員はカウンター内の冷蔵庫からコロナを出してはライムを瓶口に押し込み青年の前においてやる。

「妖怪が人間そっくりな見た目なの、そんなにおかしいかしら?」
「おかしいですよ!なんでわざわざ人間の真似するんですかぁ!そのままの方が魅力的です!マスターもそう思いますよね!」

青年に急に話を振られて反応が遅れたのは竜姫と同様カウンターにてグラスを磨く筋骨隆々たるスポーツガリの偉丈夫だ。竜姫と同様のバーテン姿だがその服装は筋肉に押し上げられてパンパンに膨らんでいる。

「んむ?俺は、そうだな……ソウルが魅力的なら見た目なんてそこまで重要でもないんじゃないか?」
「えー……見た目は大事ですって!」

なんでわかってくれないんですか……とぼやきながらカウンターに突っ伏す青年。よりによって美少女にしろ、ではなくするな、とごねているのでこのオタク青年のこじらせっぷりがわかるというものであった。

「妖怪なんていもしない存在探すなら写真集の続刊出してください。ボクはもふもふした冬毛のタヌキが見たいです」

隣でコーヒーカップを手に本を読んでいた学生服にもじゃもじゃした栗毛髪の少年が丸メガネ越しに青年にジト目を向けてきた。
年下らしき子になじられてしょんもりするオタク青年。

「あー……新刊は来週出ます、お望み通り、タヌキです」
「本当ですかっ!?……コホン、働いてるなら良いです。出たら買います」
「アリガトウゴザイマス」

著作を買う、という言葉にも棒読みでの切り返ししか出来ないほど酔っ払い始めたオタク青年を眼鏡少年とは反対側のカウンターに座ったブロンドの女性が慰めた。見事なブロンドをシニヨンという頭頂部でまとめる髪型に整った肢体をナイトドレスめいた服装で包んだその女性は細やかな指先で青年の頭をなでなでしている。

「はいはい、わがままは駄目ですよ求さぁん?」
「うう……ショッギョムッジョ……この世にブッダなんていないんだ……」

ブロンドのベイヴにヨシヨシされるという見るものによってはかなりうらやましいシチュエーションすらスルーして愚痴り続ける求と呼ばれた青年。
いつしか愚痴もこぼれなくなったかと思えば寝息を立てて盛大にカウンターで寝始めたのだ。

「寝ちゃった?」
「ええ、完全に睡眠状態に陥っています」

竜姫の問いかけに眼鏡をクイっと持ち上げて率直に返す眼鏡少年。オタク青年が寝落ちしたことを確認すると店内にいた個性豊かな四人は視線を合わせた。

「ふふっ、まさか自分が愚痴ってる相手がその人間の振りをしている妖怪だなんて思いもよらないでしょうね」
「ダメですよー竜姫さん、若い子あんまりからかっちゃ」
「あらシツレイね。大人として悩みは聞いてあげないとダメじゃない?」
「それはそうですけどぅ」

一見人間の様にしか見えない竜姫の瞳が人間のそれとは異なるすぼまり方をして見せた。まるで爬虫類のソレにも似ているが、それはほんの一瞬の出来事であった。

「いいんですよ、こっちの苦労も知らずに好き勝手言ってる人なんて一生ない物ねだりしていればいいんです」
「あら、ショーゴ君何か苦労してたの?お姉さんが聞いてあげようかしら」
「結構です!どんな見た目に化けても劣情向けられるのがわかるボクの心労なんて同族にしかわかりませんよ」
「それはそう、ねぇ」

相槌返す竜姫に心底深いため息をついて読書に戻るショーゴと呼ばれた少年。そんな二人を間近で見やる筋骨隆々なマスターとブロンドの女性。

「ま、人間の振りする以上どの妖怪にも悩みはあるよな」
「そういうマスターはどうなんです?」
「俺はあんまりねぇな、つい力んだ時にうっかり物壊しちまうくらいか。メイちゃんはどうよ」
「今時この見た目で和名名乗ると訝しがられるのが悩みです、ね。でもこの髪色には思い入れがあるので結局名乗る名前を変える事にしちゃいました」

おだやかに微笑むメイと呼ばれた女性。そんなメイにマスターは豪快に笑って茶々を入れる。

「流石人間社会慣れしてるベテランは違うぜ」
「私、この中じゃ一番若輩ですよぅ」
「でも俗世には慣れているんだろ?俺はブッダのお慈悲で現世でよろしくやらせてもらってるがよぅ、こっちはこっちで色々めんどくせえよな」
「マスターは上手くやれてますって」

談笑する二人をショーゴが人差し指を立てて制止する。求が目を覚ましそうである事に気づいた彼が咄嗟に合図を送ったのだ。すぐさま他愛のない話に切り替える二人。竜姫も素知らぬ顔でカウンターから下げたグラスを磨いている。

「あれ、俺寝ちゃってました?」
「はぁい、深酒は駄目ですよ求さん?」

メイにおでこをつつかれて赤面する求。流石に人前で悪酔いして爆睡する事に恥じ入らないほど厚顔ではなかった。慌てて床に置いた商売道具の詰まったリュックを担いで伝票をマスターに捧げる。

「すみません、ごちそうさまでした。次の取材が終わったらまた来ます」
「いいっていいって、生きてりゃ愚痴の一つもあるってもんだろうさ」

いかつい顔立ちに人好きのする笑顔で会計を済ませると求を励ますマスター。マスターの度量の広さにますます恥ずかしく縮こまる求。深々と頭を下げてドアのベルを鳴らして退出。

「はぁ~……何やってんだろ、俺」

リュックを担いだまま家路につく。明日からはまた写真撮影で地方に出向く。願わくばそこで追い求める妖怪にシャッターを切れることを本気で祈る求は筋金入りのオカルトマニアである。

もっとも、自分が追い求めるオカルト存在につい先ほどまで囲まれていたことなど、ニブチンの彼には思いもよらないのであった。

【終わり】

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