正義斬り、承る
「『この者、罪なき者を死に追いやった咎にて断罪す』……これで今月に入って五件目だぜ、クソッ」
吾妻刑事は、現場の路上に残された血文字、そして邸宅の柵にて百舌鳥のはやにえのごとく晒された生首にウンザリした気分で吐き気を抑え込む。
「現代の今時に、天誅殺人たあ全くどうかしてるぜ……」
吾妻は手にしたスマホでSNSをスクロールする。
犯人は被害者が殺された所を、被害者のスマホでもって拡散していた。
当然情報規制など行う事も出来ずに、恐慌はインターネットを駆け巡る。
「被害者は今回もデマのバッシングでバズってやがる……しかし、一体全体どうやって個人を特定してんだ?」
刑事の感、という物が役に立たないほどこの連続殺人は不可解に満ちていた。吾妻は無意識のうちにごま塩の無精ひげをさする。
一つ、犠牲者同士は一切関連無し。
一つ、犯人はこれほど目立つ行為を行っていながら未だに手がかり無し。
一つ、犯人が犠牲者をどのようにして特定しているかも不明。
「まっさか、現代のジャックザリッパーってヤツを受け持つ事になるとはよ……おい、どうした毒島。顔色悪いぞ」
吾妻の後輩であり、相方である毒島は現場入りしてからずっと黙りこくっていた。彼の顔面は蒼白、脂汗がびっしょりと流れ落ち、まるで死刑寸前の罪人の様だ。
「先輩、今までの被害者、皆バッシングでバズってるんですか……?」
「それしか共通点がねぇってだけ……お前まさか」
「違います!違うんです!俺、俺そんなつもりじゃ……あんなにバズるなんて思わなくて!」
必死に弁明する毒島の首がずるり、とずれ落ち、主が無くなった胴体からは紅い噴水が上がった。何が起こっているか理解が及ばず呆然とする吾妻。
「この世に正義なる妄執は無し、有るのは人の我欲ばかりよ」
毒島の首を下げた、ぼろ布で全身を覆った男が地の底から響くが如き声で吾妻に告げた。
「止まれ!」
返り血にまみれながらも、吾妻は拳銃を犯人に向ける。
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