一斗缶生活は元自宅の少女と共に
「お願いだから!元のオウチに戻って!ください!」
もう日が暮れる閑静な住宅地、そして俺の家があった土地、それから見た目だけならパーフェクトな大和撫子(現:美少女、元:自宅)を前にして俺の悲痛な叫びが響き渡った。
「え、え……あの、ダメだったですか?旦那様のお好みに合わせたつもりなのですが」
「いや見た目は良い、最高!口調も声も!でも家が無くなったら俺週末の台風どうしのげばいいの!」
俺の訴えに、元自宅の少女はハッとした表情で重大な事実を理解する。
「そうでした……!私が邸宅でなくなったら旦那様はホームレスになってしまいます!いえ私が居るのでホームはレスしていませんが!」
「してるよ!滅茶苦茶ホームをレスしてる!」
そもそも家財道具とか配管とかは一体どうなっているんだろうか?更地になった俺の所有地には、雑に途中から断ち切られたように各生活インフラの断面が残っていた。ガス管についてはご丁寧に閉められているようだったが。
「なのでお願いです、せめて次の住居のめどがつくまでは元の姿に」
「……戻れません」
「なんですとぅ!!?」
「邸宅の姿に戻る必要を考えておりませんでしたので、戻り方を身に着けていませんでした……」
「そんな……バカな……」
完全に解体が済んだようにしか見えない土地の前で俺と元自宅の少女はそろってがくりと膝をつく。
彼女はアレだ、多分こう、付喪神様って奴なんだろう。
実際この家は三代続く古家だった、付喪神になっても全くおかしくない。祖父母も両親もこの家の事を大事にしてたし。超常現象を受け入れると俺は立ち上がる。
「よし、前向きに考えよう。俺は住むところと引き換えに人生のパートナーを得た」
「パートナーだなんて、そんな過分な」
「でも住むところがないと俺は死ぬ、わかりましたね?」
「アッハイ」
こうして俺と、元自宅現少女の一斗缶ホームレス生活が始まってしまった。
週末の台風はどうしよう……
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