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UE:ハウリング・ロア ep-1
ギターめいた巨大な斧が迷彩装甲巨人の胸甲に突き刺さると、紫電が切っ先から噴き出しては別の哀れな巨人達に肉薄、一撃で放たれた雷撃が巨人の堅牢なはずの巨体を消し炭に変えていく。
斧を振るうのは両肩と胸部に表情豊かなる狼の頭部を負った恐るべき冥王。冥王は突き出した斧……いや、ギターを回転させ演奏体勢を取るとジゴクめいた早弾きで果てなき樹海に冥界の雷鳴を解き放つ。
「なんだっておまえらって奴らは俺のライブの邪魔すんだっつーの!?」
「ふん、私達の力が欲しくてたまらないんだろう。迷惑な話だ」
騎手らしき若く張りのある男の怒声に胸部の白い狼が冷厳と切り返す。
つづいて両肩の漆黒の狼達も不満を垂れる。
「好きなだけくればいい、噛み砕くだけだ」
「えー、ボクもうライブの邪魔されるのウンザリだよぅ」
一機だけにも関わらず地獄の冥王は実にやかましい。頭部それぞれに人格……いや、狼格があるのか騎手と合わせて四人分のうるささだ。
そんな冥王の抗議を意に介していないかの如く増援の装甲巨人達が樹海を割って迫りくる。
「だーっ!もう懲りねぇヤツラだ!こうなったらライブの終わりまでとことん付き合ってもらうからな!」
怒りが頂点に達した騎手のバンドマンは愛機を操れば、その意志に答えて冥王はギターを狂乱のごとくかき鳴らして吼え猛る!あたりにまき散らされる紫電!巨人達を喰らうように強襲しては次々と消し飛ばしていく!
見る間に灰塵と化す友軍をかいま見てなお迫る迷彩装甲巨人達!一体彼らの何がそれほどまでにこの圧倒的なまでの力を振るう冥王へと迫らせるというのか!雷撃の合間を縫って迷彩巨人達が手にした重機関ライフルを掃射!無数の銃弾が冥王の身に食い込む……!
「……っへ、へ、盛り上がってきたぜ……!!!」
おお、なんという事か!冥王の機体に食い込んだ銃弾は吐き出される西瓜の種めいて排出!銃痕は時間が巻き戻るように修復されていく!銃撃の嵐すらも冥王にとってはわずかな障害にしかなっていない!
「ハウリング・ウィズ・ザ・ムーン!いくぜ!」
騎手のシャウトと主に三頭の狼もまた咆哮をあげる!そのアギトから放たれる吼え声は両肩の二頭からは煉獄の炎を!胸部の一頭は氷獄の吹雪を!そして全身からは紫電が吹き荒れ樹海は見る間に現世の地獄と化した!
三位一体の災害が重装甲の迷彩巨人を!無数のミサイルを負った軽装の巨人を!呑み込んでいく!
吹き荒れる災厄が絶唱の終わりと共に止んだ後には何十機も居た迷彩巨人達は全て粉微塵に砕かれたジャンクと化していた。ついでに樹海も炭屑の折り重なる黒く塗りつぶされたような大地へと変わった。
「……ふぅーっ、やり切ったやり切った」
「何一人で満足しているのかしら。毎回こうも殴り合いの騒ぎになるようではライブと言うより場外乱闘よ」
「ハッハ、勝てもしないのに突っかかってくるヤツラが悪いのさ」
「ねー、ボク達だけじゃなくていい加減護衛の人雇わない?」
三者の狼が口々に好き勝手のたまい始める。騎手の意向を組んで額に手を当てる冥王。
「わーった、わーったって。次は護衛雇おう、それでいいよな?」
「ええ」「まあ、よかろう」「やったー!これで次はライブに専念できるね!」
無人となった炭の大地の上空遥か彼方、大鳥型ドローンのカメラが勝利の雄たけびをあげる冥王を見下ろしていた。
【UE:ハウリング・ロア:ep-1 終わり ep-2へ続く】
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