その果実は禁断の……?
「禁断の果実ってさ、本当に林檎なのかな」
「なんだよ、藪から棒に」
夕焼け差し込む校舎で、差し向けられた問いかけに僕はぶっきらぼうに流した。
補習なんてやってる場合じゃないんだ、本当は。
「だってさ、良く聖書の禁断の果実はリンゴでしたって書かれるけど……良く考えたら原典にはそんな事書かれてるのかな」
「知らね、お前そんな事ばっかし考えてるから頭良いのに補習することになるんだぞ」
「だよねー、でも気になっちゃうんだもん」
補習仲間の藤堂澄華は栗色のショートを揺らしながらぽやぽやした様子で受け答えを返す。
こいつ、地頭は良いはずなのに授業と関係無いことばっか考えてるせいでこうやって俺と補習自習をしてる訳だ。
「じゃあ、どんな果物なら納得すんだよ。キウイか、ミカンか」
「えっとね、聖書が成立した時期と地域に既にあった果物じゃないかな」
澄華の回答に返答に窮した僕は素知らぬ顔で自習に視線を下ろす。まだ半ば位が空白のままで、まだまだ帰れそうにはない。
「知らないよ、そんなの。それより自習終わったの?」
「うん、思ったより簡単だったから」
また、僕は唖然とする。
要するに彼女は退屈だったから僕に話題を振ったのだ。
「堺君はまだなの?」
「……まだ」
ここで僕にある葛藤が生じる、澄華がもう終わってるなら頭を下げて教えてもらえばいい。
僕には『超合体ジジババンガー』の実況が待っている。いつまでもだらだら自習してられないんだ。
「その、藤堂」
「なあに?」
「自習課題……教えて、ください」
「いいよ!でーもー、その代わりにー」
「僕に出来る範囲にしてほしいんだけど」
振り向いた澄華は華のような微笑みとともに要求を告げる。
「私と一緒に禁断の果実ってなんだったか考えて欲しいなー」
「考える、考えるから教えてくれ」
どうせスマホで調べれば答えはすぐに出るだろうとか、そんな軽い気持ちで僕は安請け合いしてしまったんだ。
【続く】