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外から見た日本語14 あなたの心に小さな火を灯す日本語のいいまつがい

帰国する2か月ほど前、ショートメールが着信。そこには

「爆乳どうですか」

と書いてあって、私の目は鳩の目のように丸くなった。送信者は私の友人で主治医であり、私の日本語の生徒でもある女性。日本語のレベルは初級レベルの上だが、まだ読める漢字はそう多くない。なのに「爆乳」って、どこでそんなことば拾ってきたの??それに「どうですか」と言われましても…。

で、しばし訳がわからず呆然とした後、あ、そっかと理由がわかってひとりで爆笑。本人に確かめたわけじゃないけど、間違いないだろう。

その頃はアメリカでコロナのワクチン接種が始まったばかりで、接種を受けるには予約を取らなければならず、予約がなかなか取れない時期だった。早く接種を受けたい人はパソコン画面に張り付いて予約サイトとにらめっこしていた。

彼女は私が帰国することを知っていたので、その前にワクチンを接種したいだろうと気遣って聞いてくれたのだ。

ワクチンどうですか。

と日本語で入力しようとしたのだろう。vaccineの場合、日本語にはVの音がないからBに変換される。すると、vaccineはバクチンとなり、カタカナでバクチンと書こうとして間違ってバクチチと入力し、ばくちち→爆乳と変換されたものと推測された。

実際、彼女の計らいで、私は帰国に十分間に合うようにワクチン接種を受けることができた。

知的で上品なドクターからいきなり「爆乳どうですか」なんてショートメールがきたときはギョッとしたけど、なかなか秀逸ないいまつがいだ。ほぼ日の「ピンクのいいまつがい」に投稿したら採用されるに違いない。

                 🔳

もうひとつ、日本語の生徒さんが言い放った、私がこれまででいちばん笑ったいいまつがい。

ずいぶん前になるが、日系人の男子学生(30歳くらい)に日本語を教えたことがある。ときは夏。レッスンにやってくるとき、彼はいつも短パンにTシャツ姿、頭は坊主刈りで、体が大きくてジャイアンみたいだった。彼は小学生の頃、毎年夏休みは日本で過ごしていたそうで基本的な日常会話はできた。それはいいが、話しことばは「それでね、僕ね」、「僕〜なの」などと子供のときのまま。聞いてるとすごく可愛かった。本人はそれが嫌で直そうとしていたので、もちろん、口が裂けても「可愛い」なんて言わなかったけど。

ひらがなやカタカナを覚え始めたばかりの生徒は、よく「い」と「こ」、「ソ」と「ン」、「シ」と「ツ」を間違える。彼もときどきその手の間違いをした。ふつうは間違いを指摘して終わるのだが、あるとき、「いろいろな人」というところを「い」と「こ」を間違えて「ころころな人」と読んだ。彼は坊主頭で丸顔で童顔、ちょっところころな体型だったので、私は吹き出しそうになったが、ここで笑ってはいけないと必死でこらえた。でも、笑いをこらえればこらえるほど、鼻が笑っちゃうんだよね。笑いをこらえるの辛かった〜。

レッスンの後、マンハッタンのブロードウェイを、私は下を向いて歩きながらずっと肩を震わして笑っていた。ひとりで笑いながら歩ってるところを見られたらおかしな人だと思われるだろう。でも、こらえられなかった。

もう、これだから日本語を教えるのやめられないよ。



らうす・こんぶ/仕事は日本語を教えたり、日本語で書いたりすること。21年間のニューヨーク生活に終止符を打ち、東京在住。やっぱり日本語で話したり、書いたり、読んだり、考えたりするのがいちばん気持ちいいので、これからはもっと日本語と深く関わっていきたい。

らうす・こんぶのnote:

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