久々に面白いディベートだった
日本時間の10月2日の朝、アメリカの副大統領候補者のディベートが行われた。前回の大統領候補者のディベートがひどかった(多くの人はトランプが酷かったと言うだろうが、私はトランプが話している間ずっと、顔を横に振ったり蔑むような表情をしたり、相手を嘲るように笑ったりを繰り返していたハリスの品のなさにあきれた)ので、今回のディベートに期待していた。
見終わった直後の率直な感想を短く言うと、
久々にまともで面白いディベートが見られた!
明日あたり政治アナリストや政治系ユーチューバーが解説してくれるだろうから、私は日本人の一野次馬として今回のディベートの感想を言ってみたい!
共和党副大統領候補JDヴァンス(40)は白人貧困層の出身でイェール大学を卒業し、オハイオ州選出の上院議員となった。映画化もされた自伝『ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち』の著者としても知られる。今では死語になったアメリカンドリームを体現した人物と言ってもいいかもしれない。一方、民主党副大統領候補ティム・ウォルツ(60)は、高校教員を経て上院議員になり、その後ミネソタ州知事になった人物だ。
二人の候補者に対する私の認識はその程度だった。つまりほとんど何も知らなかった。ネット情報をざっくり見たところではヴァンスは冷たい感じのするエリート、ウォルツは近所の気のいいおじちゃんというイメージを持たれていたようだった。
ディベートを最初から最後まで見た上で気づいたことなど。
ディベートは両者ともに相手をリスペクトし、相手の話に耳を傾け、ルールを守るかたちで進んだ。前回の大統領戦では罵り合い合戦みたいで聞いてられなかったし、司会者のアンフェアな司会進行も酷かったが、副大統領候補の態度はどちらも終始紳士的だったのはとてもよかった。
私の判定はヴァンス勝利。この人がアメリカの大統領になればいいのにと思った。落ち着いていて話しもわかりやすく、終始安心して見ていられた。今回の大統領選で共和党が勝利したら、暴走しがちなトランプが脱線しないようにヴァンスがうまくやってくれるだろう。そう思ったのはきっと私だけじゃないと思う。やっと政治家らしい資質を感じさせる人が出てきてくれた。2028年はこの人が共和党の大統領候補になるだろう。
ウォルツは高校の校長先生ならとてもいいと思うが、大統領に万が一のことがあったら大統領を代行しなければならない、副大統領というポジションには向かないと思う。
ヴァンスは時間内に的確にポイントを絞ってわかりやすく話していたが、ウォルツは同じことを繰り返すのが気になった。例えば、自分のミネソタ州知事時代の話を何度も持ち出していたが、これはアメリカ合衆国のリーダーを決めるためのディベートで、地方政治のリーダーを決めるディベートじゃないよと言いたくなった。
わずか1、2分で意見を求められる場合、同じことを繰り返すと無能だと思われても仕方ない。言いたいことは山のようにあり、限られた時間を有効に使いたいはずだから、無駄なことを話している時間なんてないはず。ウォルツは準備不足で司会者の質問に答えられないので、準備せずとも話せる自分の経験を話すことで間を持たせるしかなかったんだろう。
また、人口中絶問題については、これしか民主党が優位を保てる政策がないので、ウォルツはここぞとばかり熱心に語っていた。ある女性が自分の住む州では人口中絶が合法化されていないため、手術を受けるために電車で他州に行かなくてはならず、その途中で亡くなったという話を紹介していたが、政策論争の中で、突然、ある女性(確かウォルツはその女性の名前も言っていた)のパーソナルなストーリーが持ち出されたことに、私は違和感を持った。政策論争の場に情緒的なストーリーを持ち込んだのは民主党の作戦だったのだろうが、安っぽい戦略だ。そんな小手先のことで有権者が心を動かされると思っているのだろうか。
そもそも人口妊娠中絶に関してはトランプも女性の権利として認めており、詳細は各州の判断に委ねると言っているので、大きな争点ではない。民主党が大きな争点にして、トランプを女性の敵のように見せたがっているだけなのだ。事実、ウォルツは「私たちは女性の味方だ」という意味の発言を繰り返した。
ヴァンスが全てにおいて余裕があったのに対して、ウォルツは終始カメラをまっすぐ見て話していて、緊張しているのが感じられた。まるでカメラから目を逸らして他のところを見てしまうと、一夜漬けで覚えたスピーチの内容を全部忘れてしまうのを恐れている高校生のようだった。
CBSのライブ中継を見ていたが、右側に出てくる視聴者の意見や感想を見ているのも面白かった。あまりに速く意見が流れていくのでほとんど読めなかったが、共和党は赤、民主党は青のハートマークで応援している人たちが多いので、その色でどちらが優勢かわかった。ディベートが始まってしばらくは赤と青が拮抗していたが、次第に赤いハートマークが増え、終盤は3分の2がくらいが赤いハートになっていった。
ディベートの後、アメリカの各テレビ局がどちらがよかったか視聴者にアンケートをとった結果では、わずか1~2%程度の差でヴァンスが優勢だったが、そうかなあ??私が見た感じでは10ポイントくらいは軽く差がついていい。20ポイント差がついても納得だけどなあ。
話は変わるけれど、1960年にJFケネディとリチャード・ニクソンの大統領討論会が初めてテレビで行われた。テレビ映りも計算したケネディに対して、ニクソンは病み上がりで見た目が貧相だったのが敗因だと言われている。私もその映像を見たことがあるが、確かにケネディの方が若く、自信に溢れ、頼もしそうでアメリカの大統領に相応しい人物に見えた。ひと言で言うなら「かっこよかった。」今日のディベートは1960年のケネディとニクソンのディベートを彷彿とさせた。ただ、ケネディは民主党でヴァンスは共和党だということが、64年前とは違う。
見た目の印象はとても重要だ。人の中身は外に出る。人は嘘をつく。政治家はなおさらそうだ。それを本気で言っているかどうか、誠意があるかどうか、私たちはその人物から出ているオーラのようなものでそれを感じ取っている。言っていることよりも、むしろオーラから受け取る情報の方を信じている。
ちょっと想像してほしい。ハリス&ウォルツがロシアのプーチン大統領やインドのモディ首相と交渉している様子を。私はハリス&ウォルツが、こうした一筋縄ではいかない大国の首脳と対等に渡り合う様子は全く想像できない。私には、ハリス&ウォルツは、なんでも大笑いでごまかす中身のないおばさんと気のいい近所のおじさんコンビにしか見えないのだ。でも、トランプ&ヴァンスがロシアのプーチン大統領やインドのモディ首相と対等に交渉する様子はイメージできる。どうしてだろう。私だけかな。イメージできることは実現するが、イメージできないものは実現しない。理屈ばかりで考えるといろいろなことを見誤るような気がする。
まとまりのない文章になりましたが、これで野次馬の感想は終わりです。
らうす・こんぶ/仕事は日本語を教えたり、日本語で書いたりすること。21年間のニューヨーク生活に終止符を打ち、東京在住。やっぱり日本語で話したり、書いたり、読んだり、考えたりするのがいちばん気持ちいいので、これからはもっと日本語と深く関わっていきたい。
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