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「世界ピン芸人協会大賞」で私も上沼恵美子

SNSはたまにヘンテコな情報が流れてくるところで、お笑い好きが「Mー1グランプリ」の話題で盛り上がっているときに、

M-1と真逆? 地下芸人が高円寺に集う「日本一小さいお笑い賞レース」のヤバい実態

なんていう投稿が流れてきた。これが渋谷とかだったら行こうとは思わなかったけど、高円寺だったので行ってみようと思った。1回戦、2回戦、3回戦、準々決勝、決勝とあるが、参加者が少ないから、1回戦に出場した人がみんな決勝戦に出られるんだって(爆笑)。

で、失礼ながら芸人さんたちの芸にはあまり期待してなかったけど、ついその”アングラさ”に惹かれて行ってみた。すると、参加するピン芸人は20人以上いたのに観客は私も含めて9人。私以外に若い女性がふたりいて、あとはオタクっぽい男性が6人。残念なことに全然オタクっぽさがない(ないよね?)私は浮きまくっていたと思います。

で、20人のピン芸人が持ち時間2分でピン芸を披露する。最初の2、3人が滑りまくっていて、「うわっ💦こういうのが20回も続くのかなぁ。耐えられるかなぁ💦」と思っていたら、ポツリポツリと、ずるずる滑るのも含めて💦おもしろい芸も出てきて、当初の心配は消えた。場所は高円寺の集会所(区民会館でもなく、図書館でもない)の一室。とにかく狭い空間で、しかも出演者とスタッフの人数が観客の倍以上なので、動物園に行って動物を見ているつもりの人間が実は逆に動物に観察されている、みたいな感じ💦

他の観客はお笑いオタクなのか芸人さんたちの友人知人なのか皆目見当がつかなかったが、けっこうよく笑っていて、「へぇ、こういうところが笑うツボなんだ」なんて思いながら、その反応を見ているのもおもしろかった。女性の一人は笑うツボがたくさんあるみたいで、笑い袋みたいに時々そっくり返って大笑いしていた。ああいうお客さんがいると、芸人さんたちはありがたいだろうな。

実は、この第1部が昼間にあって、そこでも20人くらいの芸人さんたちが芸を競い合い、そこで勝ち残った5人と、私が見た夜の部で勝ち残った5人が最終決戦に挑む、という段取りになっていた。だから、このイベントに参加した芸人さんは40人以上いたことになる。

芸歴が長くてお笑い芸人という雰囲気が身に染み付いてしまっている人もいれば、まだ喋り方の基礎もできていないような、勢いだけの若手芸人もいた。多かったのは30代後半くらいかな。40代や50歳だという人もいた。女性は4人でみんな20〜30代に見えた。「地下芸人」というのは自虐的な呼称で、もちろんみんな日のあたる「地上芸人」を目指しているんだろう。

でも、私は、その、やや鬱屈した日の当たらない感じが面白かった。薄暗くて狭い芝居小屋でアングラ劇を見ているような。芸人も観客(私も含め)も、どこか日の当たらない場所で生きているような雰囲気が。クリスマスイブにこんな所に来て笑っているというだけで、もう日の当たらない人生街道を歩いている感がハンパない💦。でも、日の当たらないところだけに存在する文化があってもいいんじゃないかな、なんて言ったらこの地下芸人さんたちに失礼だろうか。

20人の芸が終わると、審査員の挙手によって票を多く獲得した5人が最終戦に臨むことになる。審査員ってそこに来てた観客9人のことです。だから、私も審査員。審査員は何回挙手してもよく、私は4、5人に手をあげ、そのうちの3人が最終戦に駒を進めた。

午後の部で最終戦に残った5人とこの夜の部で勝ち残った5人で最終戦。勝ち残った芸人さんたちは2つ目のネタを披露する。そして、また審査員の挙手(何人に挙手しても良い)が行われたが、二人が同数を獲得して1位に並んだ。同数と言ってもM−1みたいに965票とかじゃなくて、6票なんですけど💦そこで、勝ち残った二人に対して審査員が決戦投票することになった。今度はどちらか1人だけに挙手をする。

勝ち残った1人は高田ぽる子ちゃんというかわいらしい若い女性で、得意のイラストを使った紙芝居のような芸を披露した。面白いと思ったのは、紙芝居にはカタツムリや羊、かわいいい女の子が出てくるのに、発想がぶっ飛んでいてキモいところ。例えていうなら、かわいい顔した赤ちゃんのボディがムキムキの筋肉質でお腹が割れてるみたいな、そんな気持ち悪さ。。。笑うような芸ではなくて、「ほ〜気持ちわるっ」そんな芸だった。地下芸にぴったり。

もう1人は芸歴11年。スイミングスクールでインストラクターをしているという芸人さんで、海パンにキャップ、ゴーグルといういで立ちで登場し、スイミングスクールあるあるネタで勝負した。これは面白くて、一番たくさん笑いを取っていた。長年スイミングスクールで働いていた人じゃなければ気が付かないような「あるある」で、素直に一番笑えた。

どちらも同じくらいにいいと思ったのでちょっと迷ったが、私はぽる子ちゃんに1票入れた。スイミングスクールネタは面白いけれど、すぐにネタは尽きるだろう。そうしたらそこからどうやって芸を発展させていくのだろうと余計な心配をしてしまった。地上芸人になって海パンでデビューしても、スイミングスクールネタが切れたらもう海パンスタイルではやれなくなる。それに「あるある」はハマれば面白いけど、「あるある」というスタイル自体に新鮮さはないから、どんなに今の芸を磨いてもこのスタイルでは絶対にM−1には行けないだろう。

方や、ぽる子ちゃんの芸はまだ海のものとも山のものとも判断がつかないが、これからどんなふうに発展するんだろう。次はどんな「キモカワ」を見せてくれるんだろうという、気持ち悪いもの見たさの期待を抱かせてくれた。まだまだ伸びしろがありそう。そういう理由で私は最終決戦でぽる子ちゃんに1票入れた。

結果、わずか1票の僅差でぽる子ちゃんが優勝。と言っても、5対4なんですけど。私が違う判断をしていたら結果は違っていたはずで責任重大。何しろ優勝賞金2万1000円がかかっているのだから。これはクラファンで募ったお金だそうだ。とにかく、高田ぽる子ちゃんが昼間の部と夜の部に参加した40人の地下芸人の頂点に立ったのでした。

「世界ピン芸人協会大賞」という壮大なタイトルのアングラな賞レースは見るのも審査員するのも楽しかった。ここに集まってきた芸人さんたちはもちろん地下芸人でい続けるつもりなんかなくて、全員、地上芸人、売れっ子芸人を目指しているに違いない。でも、私は「地下芸人文化」みたいなものがとっても面白いと思った。

ここからは私のモーソーだけど、芸を磨いたから地上芸人(そんな言葉はまだないと思う)になる、というのじゃなくて、地下芸人文化を作ってそれを発展させ、地上芸人文化を張り合うっていうのはどうだろう。地上芸人になるための修行期間とか、売れない芸人という意味の地下芸人じゃなくて、地上芸人文化とタイの関係になれるような地下芸人文化ができたら面白い。そして、地下芸人は決してテレビなんかに媚を売らず、地下芸人のプライドを持って地下に住み続け、地下芸を磨き続けるというのもかっこいいと思う。

もちろん、地上芸と地下芸は同じじゃだめ。日の当たらない地下には地下の芸があって然るべきで、私はぽる子ちゃんの芸は地下芸だと思った。あのキモい感じはオタクっぽい文化を持っている人には受けると思うけど、日の当たる場所でしか生きたことのない人には受けないのではないかと思った。湿っぽい地下では生き生きと見えた芸でも、地上に出たら、日に当たってたちまち干からびてしまうなめくじのような運命を辿る気がする。

多くの人に支持される「Mー1グランプリ」のような地上芸ではなく、一部のオタクだけに愛される地下芸という文化に育っていったら、私は地下芸推しになるだろうと思う。でも、芸人さんたちはみんな売れたいだろうし、そう思うのが当然なので、地下芸文化は私の妄想で終わるかな。



らうす・こんぶ/仕事は日本語を教えたり、日本語で書いたりすること。21年間のニューヨーク生活に終止符を打ち、東京在住。やっぱり日本語で話したり、書いたり、読んだり、考えたりするのがいちばん気持ちいいので、これからはもっと日本語と深く関わっていきたい。

らうす・こんぶのnote:

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