見出し画像

ニューヨークタイムズの意図

この写真を見てどんな印象をもちましたか?

私は、ナチスの集会で党員のひとりが右手を高々とあげて、「ハイル・ヒットラー」とヒットラーに忠誠を誓っている様子を想起しました。背景が暗く、手を挙げている男性の目のあたりが黒っぽく写っていて、不吉な感じを受けます。

実は、この写真は10月29日のニューヨークタイムズの「How Trump Exploits Divisions Among Black and Latino Voters(トランプは黒人とラテン系有権者の分裂をい​​かに利用しているか)」という記事の中に掲載されていた写真です。私はこのラリーの様子をネットで見ていましたが、まるでスーパースターのコンサートのように大盛況でした。ところが、この写真にはそんな楽しげな様子は全く感じられません。なぜでしょうか。

もし、この写真に下記のようなキャプションがついていたらどう感じますか。

「ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデン(MSG)で、トランプラリーが開催され、スピーカーのひとりが熱狂する2万人の聴衆の前でドナルド・トランプの応援演説を行いました。」

これは事実です。ですが、「熱狂する2万人の聴衆の前で」と入れたことで、もともとヒットラーを想起させるような写真に、さらにナチス色が強まったように感じませんか。やろうと思えば、意図的にこういうこともできます。

この男性はコメディアンで、ラリーの最初に登場してコメディアンとしてのパフォーマンスを行いました。アメリカのスタンダップコメディーは差別ギリギリのエスニックジョークなども平気で飛び交うところで、ちょっと危ない発言もあったのですが、彼はコメディアンとしてパフォーマンスを行ったのです。この写真の男性がコメディアンに見えますか。そして、コメディアンがジョークを飛ばして聴衆を笑わせている様子に見えますか。たくさんの楽しそうなシーンがある中で、ニューヨークタイムズはどうしてこの一枚を掲載したのでしょうか。そこにはニューヨークタイムズの意図があると思います。

                🔳

不法移民問題については次のような記述がありました。

「Mr. Trump’s social media posts warn Black and Latino voters that immigrants are coming for their jobs.(トランプ氏はソーシャルメディアで、黒人やラテン系の有権者に対し、移民が職を奪いに来ていると警告している。)」

さらに、

「At the Trump rally at Madison Square Garden on Sunday, a lineup of Trump campaign surrogates unleashed the most plainly anti-immigrant, racist remarks of the campaign(日曜日にマディソン・スクエア・ガーデンで行われたトランプ氏の集会では、トランプ陣営の代理人たちが、同陣営の中で最も明白な反移民、人種差別的な発言を連発した。)

トランプとトランプ陣営の人たちは常に合法的な移民と不法移民を注意深く分けて語っていますが、この記事では「不法移民」とすべきところを「移民」としているところが多く見られました。不法移民問題をよく知らない読者がこれを読んだ場合、「トランプは移民(合法的移民も含めて)の受け入れに反対している」という印象を抱くのではないでしょうか。記者が意図的にそうしたのか不注意だったのかはわかりませんが、記者であれば、言葉の定義や使い方に対して厳格であるべきだと思います。

また、「 the most plainly anti-immigrant, racist remarks(最も明白な反移民、人種差別的な発言)」とありますが、差別的な発言かどうかは受け取る人によって異なるでしょう。具体的に誰がどんな差別的な発言をしたのかそのまま引用しなければ、読者は記者の主観に過ぎないことを事実だとを思わされます。こういう卑怯なテクニックはメディアが流す情報の中にしばしば登場します。私は具体的に誰が何と言ったか知りたいです。そして、それが差別的であるかどうか、私自身で判断したいです。

記事中には、ゲストスピーカーのスピーチに関して次のような引用もありました。

「Stephen Miller, a Trump policy adviser, said “America is for Americans and Americans only,” a version of a slogan used by the Ku Klux Klan.(トランプ政策顧問のスティーブン・ミラー氏は、「アメリカはアメリカ人だけのものだ」と述べた。これは、クー・クラックス・クラン(KKK)が使っていたスローガンをアレンジしたものだ。)」

“America is for Americans and Americans only,”というコピーがこのラリーに相応しかったかどうかは確かに疑問があります。ですが、このフレーズは特徴があるコピーとも思えず、KKK(過激な思想を持つ白人主義団体)が使っていたスローガン(オリジナルはAmerica for Americans)をアレンジしたものだというのは飛躍しすぎでは?本当にこのように言ったのか、また、どのような文脈で言ったのか、私はまだ確認していません。この記事の内容は、徹頭徹尾トランプの政策やMSGのラリーを非難する内容なので、偏った見方をされている可能性もあると思います。
  
                🔳

カマラ・ハリス初め、ジョー・バイデン、ヒラリー・クリントン、ナンシー・ペロシらが、こぞってトランプはヒットラーを信奉している、ファシストだ、MSGでナチスのラリーを再現するつもりなのでとても危険だ、などと非難しています。MCNBCに至っては、1939年にMSGで開催されたナチスの集会の映像をトランプのラリーと対比させて流していました。

ニューヨークタイムズはMSNBCのように下品ではありませんでした。ヒットラーの集会を思わせるような写真を掲載(私は意図的にそうしたと思います)したり、「移民」と「不法移民」を混同させて使ったり、スピーカーの言葉尻を捉えてナチスやKKKと結びつけたりと、高級紙と言われているだけあって、プロパガンダも露骨ではなく目立たないように上品にやっているな、という印象を受けました。最近、民主党の大物議員たちが次々とトランプとヒットラーを関連づける発言をしたことに対して、ニューヨークタイムズが忖度してこっそりとこのような写真を掲載したのではないでしょうか。

私は、露骨なMSNBCより、多くの人から信頼されているニューヨークタイムズの目立たないプロパガンダの方が怖いと思いましたが、皆様はどう思われたでしょうか。




らうす・こんぶ/仕事は日本語を教えたり、日本語で書いたりすること。21年間のニューヨーク生活に終止符を打ち、東京在住。やっぱり日本語で話したり、書いたり、読んだり、考えたりするのがいちばん気持ちいいので、これからはもっと日本語と深く関わっていきたい。

らうす・こんぶのnote:

昼間でも聴ける深夜放送"KombuRadio"
「ことば」、「農業」、「これからの生き方」をテーマとしたカジュアルに考えを交換し合うためのプラットフォームです。






いいなと思ったら応援しよう!