そしてみんな年をとった
ドラマでキムタクがボディガード役で主演していた。50代になっても体を張ったアクションのキレが良くて、さすが長年第一線で「キムタク」をやってきた人だけのことはあるなと思った。それでも、ドラマの中で後輩ボディガードからおっさん呼ばわりされたり、自ら「年だけは食ってますから」とさらりと自虐をかましたりと、肩の力が抜けてる年齢相応のシングルファザーのボディガードを演じている。
アイドルだった若い頃の方が圧倒的にイケメンで、見た目はかっこよかったなあと思うが、いつまでも20代や30代の見た目をキープできるはずもなく、若造りでもなく妙にジブすぎもせず、ちゃんとキムタクらしい年相応のかっこよさを見せてくれているところがいい。
最近、ふと気がつくと、私と同年代の女優さんがおばあちゃん役をやっている。数年前、田中裕子が長かった髪をバッサリ切っておばあさんの役を演じているのを見たときはショックだった。高齢者の役はまだ早すぎると思った。デビュー以来ずっとロングヘアだった女優にとって、「髪は女優の命」のように見える。それを中途半端なセミロングなどではなくバッサリと切ったところに、若さへの未練を断ち切った田中裕子の、「自分はこれからは老人の役をやっていくのだ」という女優の覚悟と凄みを感じた。
若い頃はもちろん今でもチャーミングな風吹ジュンや原田美枝子が映画やドラマの中で認知症の役を演じていたり、清純派の役が多かった大竹しのぶがかつてのイメージを捨てて「犬神家の一族」で、迫力ある犬神佐兵衛の長女松子を演じているのを見たときは、かつてはトレンディドラマの主役を張っていた女優たちも、いつの間にか華やかな恋愛ドラマの主人公ではなく、人生の重みを表現する役がしっくりくるような年齢になったんだなあと感慨深かった。
私はずっと大竹しのぶが好きじゃなかった。舌足らずな喋り方や、私にはぶりっ子っぽく見える演技が不自然に感じて嫌だった。たまたま役に恵まれて人気が出ているようにしか思えなかった。でも、犬神家の一族での演技はまるで若い頃の自分と決別したかのような凄みがあって、年齢を重ねた大竹しのぶの演技を他の作品でも見てみたいと初めて思った。
そんなことをぼんやりと考えていて、ふと気がついた。戦後〜70代ごろに活躍した大女優、映画会社の看板女優と言われた女優さんたちで高齢者の役をやっている人はほとんどいない。私が知る限りでは、お婆さん役をやったのは田中絹代くらいかな。
おそらく、かつては女優は美しくあるべきで、歳をとって容色が衰えたら銀幕から去っていくのが当たり前だったのだろう。銀幕のスターたちはトイレに行くこともなく、永遠に美しいままのようなイメージを持たれ、偶像化されていた。庶民とは隔絶した世界に住んでいると思われることが大事だったのかもしれない。
当時は主役を張る女優さんと老け役を担当する女優さんとは、はっきりと役割分担がされていた。主演するのは映画会社などが売り出したスターと決まっていて、そういう大物女優がおばさん役をやることはなく、いつも脇役でおばさん役担当だった人が、たとえコメディであっても主役を張る、ということもなかった、というのが私の子供の頃の記憶。
でも、今はそうじゃない。バブルの頃にトレンディドラマの主役を張っていた女優さんたちが老け役を演じている。若くて美しいときだけではなく死ぬまで演じ続けてほしい。それがプロの役者としてのあるべき姿だろう。
自分と同世代の女優さんたちの演技を見ていると、同じ時代を生きてきたからこそ、その人の人生や役者としての成長が感じられる。私にとってはそれを見ることがその作品の大きな魅力になっている。
らうす・こんぶ/仕事は日本語を教えたり、日本語で書いたりすること。21年間のニューヨーク生活に終止符を打ち、東京在住。やっぱり日本語で話したり、書いたり、読んだり、考えたりするのがいちばん気持ちいいので、これからはもっと日本語と深く関わっていきたい。
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