![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/173289594/rectangle_large_type_2_99a984e3d815d46113f5c55a5622cfa7.png?width=1200)
中国で歴史的ヒットのアニメ映画『哪吒之魔童闹海』①監督の餃子氏が打ち破ってきた中国アニメ史の大きな壁
2025年1月29日、春節の初日に公開されてから破竹の勢いで興収を伸ばす中国のアニメ映画『哪吒之魔童闹海』。春節が終わってからも全く勢いが落ちることはなく、の2月6日未明時点での興収は56.27億元(約1181億円)、本日中に現在の1位である『長津湖(1950 鋼の第7中隊)』の興行収入57.75億元を超えるのはほぼ確実で、AIによる最終興収予測はなんと94.20億元(1978億元)と、今までの中国映画の歴史を大幅に塗り替えるド級のヒットとなっています。
→6日昼、ついに歴代1位の興収となりました
![](https://assets.st-note.com/img/1738821097-vqFQZr1CPOM4VLGIHDBK3RSx.png?width=1200)
日本でも公開された前作『哪吒之魔童降世』(ナタ~魔童降臨~)でも中国アニメ史を変えるヒットを残した本作を、前後半の2編に分けて紹介していきたいと思います。
前編では前作と合わせた『哪吒』シリーズの物語、そして監督の餃子氏と中国アニメの歩みを振り返りながら、監督と『哪吒』シリーズが超えてきた壁について紹介していきます。
※念のため、僕自身は本作の関係者ではありませんが、中国の映画業界で働いている人間として、現地視点も入れながら書いていきたいと思います。
※1人民元=21円で計算しています
『哪吒』シリーズの物語について
まずは、知らない人の為にも、前提となる前作『哪吒之魔童降世』を振り返ります。
天界の元始天尊によって生み出された二つの宝珠――英雄となる運命を持つ「霊珠」と、魔王となる宿命を背負う「魔丸」。元始天尊の弟子である太乙真人は、陳塘関の総兵・李靖とその妻・殷夫人に霊珠を授けるはずだった。だが、ライバルである申公豹の策略により、霊珠は魔丸とすり替えられ、結果として妖の子・哪吒(ナタ)が誕生してしまう。奔放な少年へと成長した哪吒だったが、その力故民衆からは恐れられ、孤独な日々を送っていた。そんなある日、彼は霊珠の転生であり、龍族の末裔でもある敖丙(アオビン)と出会い、唯一の友となる。しかし、やがて哪吒は人間と龍族の対立に巻き込まれ、自らの魔王としての運命と向き合うことを余儀なくされる。果たして、哪吒は宿命に抗い、己の道を切り開くことができるのか――。
当時の予告編は全体的に暗いですが物語前半はコメディ中心。
世界観のベースとなっているのは日本でも知名度のある『封神演義』。また哪吒は中国の神話でも非常に人気の高い少年神で、『羅小黒戦記』や『非人哉』で知っている人も多いはず。
![](https://assets.st-note.com/img/1738692151-ZDAfmFIh6xXM0rUi729gy3kp.png)
![](https://assets.st-note.com/img/1738692269-l6Bzd7JHNX4GPLsqTZ1WFQCp.png?width=1200)
前半は悪ガキで怪力の哪吒がとにかく街で大立ち回りを繰り広げますが、一方で構ってほしくても町の人たちからは嫌われ、愛してくれている両親ですら、本人の力の強さ故、蹴鞠すら一緒に遊べず、孤独を感じている日々も描かれます。後半は「妖」として生まれてきた哪吒が、葛藤しながらも自分の運命を変え、友人の敖丙を助けるため戦っていきます。
ドタバタコメディとしての面白さもあり、中国アニメ業界の全力を集めたド派手なアクションシーンもあり、それに加え、これまでの生まれの逆境を跳ね返し「是魔是仙,我自己说了才算(仙人か魔王か、運命は自分が決めるんだ)」という、生まれの逆境を跳ね返そうとする哪吒のセリフの象徴する、力強いストーリーが大きな話題を生みました。また、奔放で強気な哪吒と優しいイケメン敖丙の2人の関係性はカップリングとして女性ファンも多くつき、多くのファンアートも生まれました。
![](https://assets.st-note.com/img/1738758191-s6MEF2ufiv1zp70UhDmHn9ac.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1738758255-HOaty4IfoYVrKGbZMnj9cvA1.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1738758315-A4IpJYMvm6ZSNreDqKkWBVdf.jpg?width=1200)
そしてこちらが、前作の続きとなる、本作『哪吒之魔童闹海』のあらすじになります
前作最後の戦いの後、哪吒と敖丙の魂はなんとか保たれたものの、肉体は消滅の危機に瀕していた。仙術で二人の肉体を再生しようとする太乙真人だが、その最中、息子の敖丙が死んだと思い込んだ龍王の敖光(アオグァン)が、復讐のために陳塘関へ乗り込んでくる。無用な戦争を避けるため、敖丙はまだ肉体が完全に再生していない状態で姿を現し、龍族を止めるが、それが原因で再び肉体を失ってしまう。太乙真人は、敖丙に哪吒の肉体を共有させることで魂を引き留めるもそれはあくまで7日間の猶予。敖丙の体を取り戻し、怒る龍族から街を守るには、天界で仙人修行の試練を乗り越え、「琼浆玉液」を手に入れなければならない。二人の魂が体に同居する不思議な状況でも意気揚々と天界に向かう哪吒だったが、その裏では様々な陰謀が渦巻いていた。
↑英語版予告編
前作同様、前半は「仙人修行」を送る哪吒と敖丙を中心としたコメディシーンが中心ですが、後半では舞台は大きく広がり、人間界、龍族、天界が三つ巴となる前作以上にスケールの大きなバトルが展開されます。
また、また敖丙の父親である敖光が初登場する他、前回は悪役として描かれた申公豹の息子も登場し、哪吒の両親とともに、家族関係がより深堀りされていきます。
物語後半にはどんでん返しもあり、前作に負けずとも劣らない笑いあり熱血ありのエンタメ作品になっています。
![](https://assets.st-note.com/img/1738764298-NGE0xfCAXe4zc8japFtSUmPl.png?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1738764241-QEinR2SeZ75LN6PCy1OI9WAv.png?width=1200)
中国アニメ夜の時代を生き抜いた「餃子」監督
本作の「餃子」監督(本名楊宇)は1980年、四川省生まれの監督。
![](https://assets.st-note.com/img/1738763665-CSt90l6dQvgWNwB3cJsx8P1z.png)
子供のころから『聖闘士星矢』や『ドラゴンボール』が好きで、夢は漫画家だったものの、病院で働いていた親の影響もあり、医科大の薬学科に進学。そこでも夢を諦められず、大学3年生の時に独学でMAYAを勉強。CGアニメの広告会社に就職した後1年で退職し、2004年より個人作家としてアニメ制作を始めます。
しかし独立後の生活は決して楽ではなく、そのタイミングで父親が死去。1か月1000元の年金で暮らす母親とともに地元から出ずに制作を続ける日々。
そして2008年、3年8か月をかけて一人で制作した短編アニメ「打,打个大西瓜」を発表。自主映画ながら中国内外で大きな話題を呼び、第26回ベルリン国際短編映画祭で審査員特別賞を獲得するに至ります。
ちなみにこの作品はTBSの DigiCon6でも当時金賞を受賞しています。
しかし当時はまだ中国アニメ市場の夜明け前。映画市場も今よりはるかに小さく、アニメスタジオも、ゲームやアメリカや日本等海外作品の下請けが中心。国からの助成金はあったものの、それらはむしろ低品質なテレビアニメの粗製濫造に浪費されており、オリジナル映画を出すなど夢のまた夢の時代でした。結果、実に6年もの間、長編を作る機会は来ないまま時が過ぎていきました。
中国アニメの夜明けの時代、配給会社「光線伝媒」との出会い
そんな中国アニメが夜明けを迎えたのが2010年代後半。まず2015年に田暁鵬監督によるアニメ映画『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』が発表されます。西遊記をテーマにした青少年向けアニメである本作はいきなり9.54億元という巨大ヒットを記録します。
この夜明けの時代に大きな影響を残したのが、大手映画配給会社である光線伝媒(エンライト社)の存在でした。当時制作中だった『紅き大魚の伝説』(2016年公開)に出資したことをきっかけに中国アニメの可能性を信じたエンライトは、2014年にアニメ製作に特化した子会社、彩条屋影業(カラールーム社)を設立。そこでCEOとなったのが若手プロデューサーだった易巧氏でした。
![](https://assets.st-note.com/img/1738768609-2MXxF4aRcHKzOyS0heV19NGs.png)
カラールームの責任者となった易巧氏は全国を回り、有力な若手アニメ監督の発掘をはじめます。そして2015年、成都で餃子監督と出会った易巧氏はその才能を目の当たりに。カラールーム社の後ろ盾を得た餃子監督は新たにアニメスタジオの可可豆動画を立ち上げ、『ナタ~魔童降臨~』の制作を始めます。
2019年『哪吒』第一作の完成と歴史的な興収
こうして始まった制作ですが、そもそも長編自体初の制作となる餃子監督。直しに直した脚本は実に第66稿を数え、丸2年をかけて完成。そこから制作に入るも作品のスケールの大きさから、最終的に20のVFXチーム、60の制作会社、1600人の関わる作品に。作り方から使用ソフトまで違っていたというチームを何とか束ねながら、2019年7月、ついに第一作目が公開されます。
『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』から4年、『紅き大魚の伝説』(5.73億元)や『白蛇・縁起』(4.69億元)等、良作は生まれていたものの『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』を超える興収の作品はなかった中国アニメ。『ナタ~魔童降臨~』は50.35億元という、文字通り桁違いの特大ヒットを記録します。
これは実に当時の中国映画の中で『戦狼 ウルフ・オブ・ウォー(战狼2)』に続く第2位となる記録。『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』によって押し上げられたアニメ映画の興収は、本作をきっかけにまた壁が破られ、中国においてアニメ映画が一気にメインストリームに来ることになりました。
![](https://assets.st-note.com/img/1738775183-c0C5jbrUae7z94gwo8Vu1khO.jpg?width=1200)
ちなみに易巧氏はその後独立し、『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』の田暁鵬監督のスタジオである十月文化の董事長に就任。田監督の最新作である『深海(深海レストラン)』等の制作に関わっています。『哪吒之魔童闹海』にはカラールームの現総裁である王競氏が総プロデューサーとしてクレジットされています。
『哪吒』第二作で進化する映像表現
そんな一作目の続編となる今作。前作と同じく大規模な制作チームで作られた本作は、前作以上に完璧主義者な餃子監督のディレクションが入り、よりディテールに凝ったクリエイティブとなっています。(あまりの完璧主義に関わった他社の離職率がすごいことになったとか)
![](https://assets.st-note.com/img/1738772376-qjxlrAR7MzwbvNfp9oEZeGmJ.png?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1738772449-GWMe4D5TL6s2XjB09tchqn7Z.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1738772462-alh4ejYdgDToVqczFx5PiB6t.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/173286226/picture_pc_edc68b90b66e2d7ab597db1fb7f16316.gif)
wuhu动画人空间の同記事より
5年間の間に中国CGアニメのレベルも更に上がり、その結果として、背景動画もよりハイクオリティに。特に波の描写や、数千体はいそうな怪物たちの描写等、ディテールが鬼気迫るほどに細かく、多く、よく動いており、実際に見た時も最も印象的でした。
![](https://assets.st-note.com/img/1738772823-EM85g7eTpYVvf1wFOBRtdiI6.png?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1738772774-cFEoxBKYkDPezh1MNZufRU3l.png?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1738772794-lY0arGP9LCWZH3kz6J1hjDn5.png?width=1200)
2025年春節映画と『哪吒』の歴史的な快進撃
そんな二作目が投入されたのが、1年で最大の激戦区である春節興行。映画興行にとっても一年で最も盛り上がり、かつ新作映画の配給が基本国産映画の独占となるこの時期は全年齢受けする王道の中国映画(愛国/中国文化・歴史テーマ/家族愛/笑って泣けて熱い「大作感」ある映画)の独壇場となり、その注目度に応えるべく、大玉映画が揃います。
![](https://assets.st-note.com/img/1738665055-xgkYnLVaAHbGzwKq0dop4853.jpg?width=1200)
今年の春節公開映画は上の6作品。この中でも注目度が高かったのが『哪吒』『唐探1900』『封神第二部』『射鵰英雄伝』の4作品でした。どの作品もかつてのヒット作の続編であり、最速でプリセールス1億元(20億元)の大台をたたき出した『射鵰英雄伝』をはじめ、各作品とも非常に注目度は高かったものの、この時点では『哪吒』は他作品に比べて特に突出した注目度ではなかったように感じます。
実際、上映前の盛り上がりのベンチマークとなるプリセールスの売り上げとチケットプラットフォームのブックマーク(想看-見たい)の数は他の主要作品と大差なく、僕が訪れた場所(上海と貴州省)では、映画館の宣材物や街中の広告も『射鵰英雄伝』や『封神』に比べるとむしろ控えめなくらいでした。
![](https://assets.st-note.com/img/1738607445-4ob5mrs28NvlkMDcG0HJpA6e.jpg?width=1200)
この哪吒の勢いに、何だか映画配給の現場が実感として追いついていない気もしている。春節前半は上海、後半は貴州の貴陽、田舎町と何件か映画館を回ったけど現場の宣材物は他の映画の方が目立つし、入場特典にも巡り会えず。グッズもリアルではそこまで無く、でも映画館の上映回数は哪吒がダントツ。 pic.twitter.com/cOMl8ynVjt
— まつ | 中国で映画やる人 (@Kiki_brero) February 2, 2025
しかし蓋を開けてみると、他の作品を突き放し、2日目から一気に興収を伸ばし、他の映画が2日目以降興収を下げる中でぐんぐんペースが上昇。歴代のどの映画も置いていくスピード感で興収が伸び続けています。
![](https://assets.st-note.com/img/1738775213-ONu7XqtD8e2IhfwLFlsAPcTZ.jpg?width=1200)
中国アニメ映画の夜明け前から制作をはじめ、哪吒の主人公のようにその壁を打ち破ってきた餃子監督と『哪吒』。物語もクリエイティブもスケールアップした本作は、アニメの枠を超え、中国映画の歴史をまさに塗り替えています。この勢いはどこまで続いていくのか、そして日本でも早くスクリーンで見れるようになってほしいなと思います。
後編ではそんな『哪吒』を例に上げながら、中国のヒット映画のプロモーションについて具体的に見ていきたいと思います。
※今回、餃子監督の経歴と、制作資料周りで参考にした中国語の記事です。特に2つ目の記事にはより詳しい制作資料も載っているので、興味のある方はぜひ。
上記の記事も出した専門メディア「wuhu动画人空间」の5分間の取材動画。スタジオの様子や3Dアニメの制作過程も見れるため、こちらも興味のある方はぜひ。
![](https://assets.st-note.com/img/1738773613-xM7KbJy1uiZHPNEI2mVXBqST.png?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1738773648-R1xGYNoh4fOdrc59KjAbqM2E.png?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1738773700-2K5VJ96o8nkZ0YLrRbCatcXv.png?width=1200)