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素敵な君はBaby いかれた僕のBaby

真夜中の高速道路、ステレオのボリュームを少しだけあげる。
はやる気持ちを抑えきれず、いつもより重いアクセルを踏み込む。

少しずつ明るくなる視界の先に、雲のかたちがくっきりと見え始めた。
緑色の景色の中を走り抜け、ウインカーを左に出す。

しばらく走ってトンネルを抜けたその先に、色とりどりのテントのお花畑が見えた。
風にはためくフラッグを見て、ああ、ついに来たんや、と感慨深くなった。

 * * * * * * *

朝日がのぼると蒸し風呂状態になるテントから、這い出して流し込む一杯。

身体中に響くリズムにつられるように、早くなる足どり。

胸の奥をぎゅっと掴まれるような、圧倒的な音、音、音の洪水。

隣の人と肩を組んで踊り、思わずハイタッチして、笑い合う瞬間。

雨の後にたちのぼる、森のにおい、草のにおい、土のにおい。

溢れる笑顔と、手拍子と、大合唱と、みんなでひとつになれた感覚。

あっちに行こうか、いやこっちもいいななんて、フラフラしながら新しいものに出逢う歓び。

疲れた身体を芝生にうずめながら見上げた青空と、そのぽっかりとひらけた空に吸い込まれる歓声。

暗闇にきらめくライトと、揺れる大きな人の波。

ふわふわした気持ちと正真正銘の千鳥足でテントに向かい、鳴り止まぬ音を遠くに聴きながら、泥のように眠る日々。

そんな一瞬一瞬を胸いっぱいに吸い込んだら、ようやく深く呼吸できた気がした。

 * * * * * * *

ずっと昔からどこか、自分の人生はうまくいかへんって思いを燻らせ続けて、身体に力を入れて小さく縮こまりながら生きていたあの頃。

誰かに合わせるのではなく、誰かに合わせてもらうのでもなく、自分だけの意思で決めて、知らない人の輪の中にひとりで入っていったのはなにがきっかけだったのか、今となっては思い出せない。

ただ、飛び出した先にあったのは、何も縛られるものなんかなくて、圧倒的に自由で、好きなものに囲まれて、自分の意志だけが尊重される世界だった。

そこに身を置いたとき、すごく息がしやすくなって、いっきに目の前がぱあーーーっと開けた気がした。
身体は引きずるほど重くても、こころはとても軽くなって、強烈に「生きている」感じがした。

大げさに聞こえるかもしれへんけど、あのとき自分の人生を自分の手で切り拓いた、という感覚がたしかにあった。

その世界の中で、わたしはわたしの本当の気持ちを見つけながら、その欠片を少しずつ拾い集めていたのだ。

 * * * * * * *

帰りたいな。

大好きな音と、笑顔が溢れるあの場所に。
気づけば欠かせない存在になっていた、彼女らと。
ときどき忘れそうになる、大切な破片を拾いに。

そんなことを遠くから想いながら、今日はモニターの前でぐびりと缶を傾ける。

※タイトルは大好きなFISHMANSの「いかれたBaby」より抜粋

ここまで読んでくれたあなたは神なのかな。