玉座と森の魔女(2/2)
「ねぇ、まだぁ? 私、疲れちゃった」
「もう目の前にあるぞ? 全然見えないのか?」
「うん、見えない……あっ、見えたわ!」
魔女の館の正面に辿り着いた瞬間、ようやくサキュバスにも館が見えたようだ。
「こんな所にいたのね、森の魔女……」
サキュバスが大きく羽ばたきすると、俺達はフワリと静かに魔女の館の前に着地した。
まだ誰も到着している様子はない。
俺は途中から、チンポとキンタマさえ取り戻せれば良いと思っていたが、玉座を手に入れるチャンスに軽く興奮した。
俺は重厚な魔女の館の扉を開け、その中へと踏み込んだ。
「おめでとう、あなたが一番手よ……あら、お客さんがいるようね」
「森の魔女さん、お久しぶり」
「何年ぶりかしらね、ニア……まさかあなたに再会できるとは思わなかったわ。今日は何をしに来たのかしら?」
「別に用は無いわ……あなたの悪事を邪魔しに来ただけ」
「あらそう、そんなことが出来るかしら?」
あのサキュバスはニアと言う名前らしい、二人の間には何やら険悪なムードが立ち込めている。
しかし俺は彼女達の再会に付き合う余裕など無かった。
俺は自分のチンポとキンタマを取り戻す事を最優先に行動した。
館の広間の床に百本ほどのチンポとキンタマが、あの特大ワイングラスに入ったまま無造作に並べられている。なんともおぞましい光景だ。
「俺のチンポとキンタマは、一体どれだ!?」
いつも見慣れているはずの俺の相棒。しかし、こうやって並べられると、どれが自分のモノなのかさっぱりわからなかった。
それぞれ大きさの違いや個性があるが、これが自分のモノだという確証が得られない。
「森の魔女よ、俺のチンポはどれなんだ?」
「長年連れ添った相棒を忘れたの? 自分でお探しなさい」
森の魔女はソファに座ったままニアと対峙している、ピリピリと張り詰めた空気を感じた。とても俺の相手をする暇は無いようだ。
とにかく俺はじっくりと観察しながら、俺のチンポとキンタマを探すことに専念した……何が悲しくて、他人のチンポをじっくりと観察しなければならないのか。
と、その時。館の扉が大きく開くと、ボロボロになったカインの姿が現れた。
「カイン!」
「スレイ! お前が一番だったのか……畜生」
「ああ、悪いが俺の勝ちだ」
カインはガクリと膝を落とすと、悔しそうに床を拳で殴りつけた。
俺達のやり取りを見ていた森の魔女が怪訝そうな表情で口を開いた。
「黙って聞いていれば……あなた達は何を言っているの? アイテムを取り戻すまでが勝負だと言ったでしょう?」
「えっ!?」
俺とカインはお互い顔を見合すと、血相を変えてチンポを探し始めた。
先に自分のチンポを見つけたほうが勝ち、オルト国王になりフェイリーン王女の愛を受け取る事ができる。
しかし、このような滑稽な戦いで玉座を争う事に少し罪悪感を感じた。
「こんなことなら、チンポに印しを付けていれば良かったな」
「まったくだ」
印し……そう言われて俺は自分のキンタマに2つのホクロがあった事を思い出した。
俺は2つホクロのキンタマを目印にして必死に探した。そして、それはそこにあった。
「あった!!」
「何っ!?」
その形を見た瞬間に相棒の記憶が甦る。それは間違いなく俺のチンポだった。
俺は再会と勝利に歓喜しながら、そのワイングラスへと手を伸ばした。
しかしその瞬間、俺の目の前を大きな黒い影が横切る。
(バサッ!)
「何をするんだサキュバス!」
その影の正体はサキュバスのニアだった。ニアは俺のチンポとキンタマの入ったワイングラスを抱えたまま、空中で羽ばたく。
「そっちのカッコイイお兄さん、今のうちよ」
「えっ?……わ、わかった」
カインは急なサキュバスの援護に動揺しながらも、自分のチンポ探しを続けた。
「やめろサキュバス! 俺に何の恨みがあるんだよ、チンポを返せ!」
「別に恨みは無いわよ、ただ邪魔をしてるだけ〜」
俺のチンポを抱えたサキュバスを攻撃する事もできず、俺は森の魔女に助けを求めた。
「森の魔女よ、邪魔をやめさせてくれ」
「知らないわ、自分で何とかしなさい……それに、そっちの子の方がフェイリーンの好みに合うのよね、フフフッ」
「そんな!」
俺は歯軋りをしながらサキュバスに向かって剣を構える、しかし何も出来ない……ただ、時間だけが過ぎて行く。
「あった! あったぞ俺のチンポが!」
とうとうカインが自分のチンポを見つけてしまった。俺は国王になり家族を裕福にしたいという希望を断たれ、その場に跪いた。
「この金色のリングは何だ?」
グラスからチンポとキンタマを取り出したカインが森の魔女に訪ねた。
確かに、その断面の部分には金色のブレスレットのような装飾リングが取り付けられていた。
「それは魔法のリングよ、一度切り離したモノがポンと簡単にくっつくわけがないでしょう?」
「なるほど、しかし……」
「イチイチ細かいことを気にするのね、とにかく付けてみたらいいわ。絶対に素敵だから」
「うーむ、わかった」
カインはズボンと下着を下ろすと、ゆっくりとリングの部分を平らになった股間にある断面へとへと押し当てた。
そして、ゆっくりと手を離す。次の瞬間、チンポは血色を取り戻し、ビクンと一気に起ち上がった。なかなかの逸物だ。
「キャッ、素敵なチンポね〜」
宙に舞ったままサキュバスがカインのチンポに興味を示した。そのままカインを吸い尽くしてくれ……俺はそう思った。
その瞬間、また目の前に黒い影が横切った。その正体は森の魔女だ。
森の魔女はカインの前に立ち、妖しい瞳でニアを睨み付けた。
「ニア、新たなオルト国王には手を出させないわよ」
森の魔女は全身から噴出す黒いオーラでニアを牽制した。しかしニアはニコニコと笑みを浮かべたままで戦う意思はないようだ。
「ニア……一体、どういうつもりなの?」
「別に〜。私はこっちのお兄さんが気に入っただけ」
「あ、そういうことね……じゃあ好きにすれば良いわ」
森の魔女とニアは俺の意思を無視して勝手に話を進めた。そうしていると、館の扉が開き、ボロボロになった幾人かの男達が駆け込んできた。
その瞬間、ニアは大きく羽ばたくと、俺のチンポとキンタマを抱えたまま館の外へと飛び出した。
「あっ!? ちょっと待てっ!!」
俺は慌ててニアを追いかけ館の外へと飛び出した。しかし、ニアの姿ははるか彼方の空にあった。
俺は玉座どころか、チンポとキンタマまで失ってしまうのか?
俺は必死にニアが飛ぶ方向へと向かった。いつもなら苦戦する魔獣を一撃で倒しながらニアを追跡する。俺は必死だった。
■ニアとニナ
気が付くとそこは今朝集まっていた魔女の森の入り口だった。
どの方向の空を見てもサキュバスの姿は見えない。俺は完全にニアを見失ってしまったようだ。
「スレイお兄ちゃん……おかえり」
俺はニナの声を聞き、驚いて振り返った。
「!?」
しかし、その声の方向に立っていたのはニナではなく、サキュバスのニアだった。
その可愛らしい声は間違いなくニナだ、先ほどまでの色っぽいニアの声とは少し違う。
「ニア……何の悪ふざけだ」
「ふざけてなんかいないわ、スレイお兄ちゃん」
ニアの声は先ほどまでの声に戻っていた。よく見ると、その顔かたちはニナに良く似ている……ニアはニナなのか?
全く予想外の出来事に俺は少し混乱した。
「私はニナのサキュバス面……森の魔女の魔法で封印されていたもう一人のニナ」
「もう一人のニナ?」
「私のこと……忘れちゃった?」
ニアはそう言いながら俺の前に歩み寄ると、そのままキスをした。その瞬間、昔の記憶が甦った。
「サキュバスの……女の子」
「思い出してくれた? 一緒に遊んだよね、懐かしいねっ」
間違いない。ニアは俺がまだ幼かった頃にこの場所でよく遊んでいた女の子だ。
まだ子供だった俺は、その黒い翼も黒い尻尾も全然気にせず、ニアと毎日のように無邪気に遊んでいた。
しかし、通りすがりの大人たちがニアを見つける度に、鬼の形相でニアを追い払った。
「どうしてあの子と遊んじゃいけないの?」
俺はニアと遊ばせてくれるように父親に必死に懇願した。しかし、その願いは叶わずニアは森の魔女によって追い払われたのだった。
「どうして、こんなことに……」
「私ね、森の魔女にお願いしたの……お願いだから人間の女の子にしてって。スレイお兄ちゃんと一緒に居させてって」
「それで人間になって俺と父の前に……そこまでして俺のことを」
「うん、私もすっかり忘れてたけどね……ニナの命に危機が迫って封印が解けちゃったみたい」
「危機!?」
「ニナは、お兄ちゃんのチンポとキンタマを返してもらう為に、一人で魔女の森に入ったの」
「そんな無茶な!」
「ええ、無茶よ……それだけ愛しているの、一人の女として……一途なのはサキュバスとしては劣等生だけど」
ニナが俺の事を愛している……兄妹愛ではなく、普通の男女として。どうして俺は気付いてやれなかったのだろう、そう悔やんだ。
「でね、ニナが魔獣に襲われかけたとき、封印されていたサキュバスの私、ニアが甦ったわけ」
「そんな! 大丈夫だったのか?」
「心配してくれるのね、嬉しい……もちろん大丈夫よ、飛んで逃げたから」
ニナの代わりに甦ったニア。彼女はニナの意思を継いで、俺がフェイリーン王女と一緒になるのを邪魔したと言う。
「そういう事だったのか……すまなかった、ニナ……いや、ニア」
「フフフッ、ニアとニナのどちらも私……ほら、日没までにチンポとキンタマくっつけないと、溶けて消えちゃうから」
「溶けて消える!?」
「ええ、森の魔女って怖い女なんだから」
俺はズボンと下着を下ろすと、ニアはワイングラスから俺のチンポとキンタマをそっと手に取り、くっつける準備をした。
「キャッ……初めて直に触っちゃったね、お兄ちゃんのチンポとキンタマ」
「いつもズボンの上から握るクセって……もしかしてニアの人格じゃないのか?」
「さぁ、どうかしらね〜」
「チンポとキンタマが付いて無い男ってなんか変ね〜、まるでお人形みたい、フフッ」
「わ、笑うなよ……」
「じゃあ、くっつけるね……スレイお兄ちゃん」
「ああ……ニナ、いや、ニア」
「フフフッ……ニナの方が好きなのね〜」
「……」
ニアが両手でそっと金色のリングを目印にして断面を押し付けると、キュッと吸い付く感触と共にチンポの感覚が甦った。
久しぶりの感覚に俺の心が刺激されて、チンポは一気に起ち上がった。
立派になりビクビクと脈打つチンポを目の前にしてニアがニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる。
「やっぱりスレイお兄ちゃんのチンポの方が素敵だよ、あのカインお兄ちゃんよりも」
「そ、そうか? ありがとう」
「フフフッ……さぁ、大好きなお兄ちゃんを吸い尽くしちゃうといけないから、私は消えるね」
「ニア!」
「なぁに?」
「……ありがとう」
「うん、私も会えてよかった……もしニナを泣かせたら、またニアになってキンタマ吸い尽くしちゃうからね!」
「ああ、約束するよ……ニア」
「スレイお兄ちゃん……好きだよ」
(チュ)
ニアは俺と抱き合い、キスをするとそのまま意識を失った。そして、見慣れたニナの姿でそこに横たわる。
ニナを抱えて家に帰る途中、俺は涙が止まらなかった……。
■ニナと共に
「スレイお兄ちゃん! 早くしないと遅れちゃうよっ!」
俺は早朝からニナに叩き起こされ、納品の為に隣町へと向かう準備をした。
あの日以来、俺は少しでもニナの傍にいようと思い、剣士をやめて実家の武器屋を継ぐ事にした。
そして先日、俺はニナとささやかながら結婚式を挙げ、皆に祝福されることになった。
俺とニナの結婚で両親もすっかり安心して、ゆっくりと自分達の時間を楽しむようになってくれた。
「じゃあ行って来るよ、ニナ」
「待って、行く前にする事があるでしょ?」
「……どうしても?」
「どうしても!」
ニナは意地悪そうな笑みを浮かべると、俺のズボンと下着を下ろしてチンポを露にさせる。
「ヤァン……いやらしいチンポ」
その小さな口にチンポの先端を含み、指先も使い執拗に愛撫をすると俺のチンポは大きく起ち上がる。
結婚してからのニナは少しニアのように積極的になり、時々、全ての精力を吸い尽くされるような不安に襲われる事もある。
一頻り舌先で俺のチンポを楽しんだ後、ニナは言いなれた呪文を口にする。
「removal」
(ポンッ)
軽快な音と共に、金色のリングから先のチンポとキンタマが綺麗に切り離される。そして、ニナが起ったままのそれを大切そうに抱える。
「クスクスッ……悪い女の子に出会うといけないから、私と一緒にお留守番しましょうね〜、チンポお兄ちゃん」
「参ったなぁ……用を足すのに困るんだよ」
「そんなの、茂みで座ってすればいいのっ」
「ハイハイ、わかったよ」
「スレイお兄ちゃんの為なんだからね、じゃあ行ってらっしゃい」
「もう結婚したんだから、お兄ちゃんはやめ……」
(チュッ)
「……行って来るよ」
「行ってらっしゃい!」
俺はニナのキスで見送られると、武器や色々なアイテムを積んだ馬車を走らせた。
あの金色のリングには「removal」「erect」「small」「tight」の4つの呪文が彫刻されていた。
「removal」はチンポとキンタマが取り外される。
「erect」はどんなに疲れていてもチンポが起ち上がる。
「small」はどんなに性欲が沸いてもチンポが萎えてしまう。
そして「tight」は金色のリングが小指ほどの太さまで縮み、チンポとキンタマをギュウウウっと締め付ける恐ろしい呪文だ。
もしパーティの女性客に見とれていると、ニナは容赦なくその呪文を唱え、俺はそこを締め付けられた激痛で蹲る事になる。
森の魔女のせいで、俺はニナに頭が上がらない男になってしまった……それでも俺はニナを愛している。
森の魔女のおかげで、俺はごく身近にあった溢れるほどの愛を知る事が出来た。それは感謝している。
■カインとフェイリーン王女
あの日から一年ほど経ったある日、カイン……否、オルト国王が単身で俺の元を訪ねて来た。
突然の国王訪問に驚きながら、俺とニナは跪いて彼を迎え入れた。
「このような身分の低い者の家に国王自らおいでいただき、大変有難うございます」
「やめてくれ、スレイ……今日は普通に話がしたいんだ」
「じゃあ、お言葉に甘えて。一体どうしたんだ?」
「このままだと、俺は死んでしまう!」
悲壮な表情でそう訴えるカイン。確かに顔は細り、やつれているような気もした。
「死んでしまうなんて、穏やかじゃないな」
「フェイリーンは、あいつはまるでサキュバスだ!」
「ええっ!?」
俺とニナは顔を見合わせて驚いた。あの美しく気品あるフェイリーン王女がまるでサキュバスのようだと言われても半信半疑だった。
「あの日から毎朝、昼、晩と休むまもなく俺は吸い取られているんだぞ!」
「あのフェイリーン王女が朝から……想像したくないな。お前も国王なんだから、少しは断ったらどうだ?」
「スレイは知らないだろうがな、あのリングは呪文でチンポとキンタマを締め上げられるんだ! しかも鞭まで持ち出して……ああ、思い出すだけで胸が苦しくなる」
「いや、俺も知って……痛たたたたっ……な、何でもない」
俺は口を滑らしそうになり、小声で呪文を唱えたニナに締め上げられてしまった。
鞭まで振るうと言うフェイリーン王女の本性には驚いた。そんな王女にすっかり怯える情けないカインの姿を見て、俺は少し同情した。
例え最高位の地位を手に入れても、これでは不幸だ……あの時、俺がチンポをすぐに見つけていたら、もしニアが現れなかったら、そう思うとゾっとした。
「スレイ! 俺をどこか遠くへ連れて行ってくれ!」
「そんなの、森の魔女に見つかって連れ戻されるのがオチだぞ?」
「そうよ、彼の言うとおり無駄なことよ」
「もっ、森の魔女!?」
突然、部屋の中に森の魔女が現れると、そのままカインの背後へと回りこんだ。
「オルト国王はご乱心ゆえ、この事は他言無用。わかったかしら?」
「しかし、いくらなんでもカインが可哀想では?」
「あら、あなたも可哀想なようだけど? そのチンポとキンタマを完全に消し去ってあげようかしら?」
「嫌っ! やめてっ!」
森の魔女の威圧でニナが心を乱している、このままではニアが現れてしまうかもしれない。
俺は幼馴染でありライバルであった友人よりも、愛する女性を取る決断をした……。
「わかった、なんでもない……オルト国王はご乱心だ」
「フフフッ、いい子ね。お幸せに……」
「嫌だ! スレイ! 俺を助けてくれ!」
(ヒュッ)
森の魔女はそういい残すと、風のようにカインと共に部屋から消え去った。
「ニナ、大丈夫か?」
「……うん、大丈夫」
「そうか、良かった」
「カインお兄ちゃん、大丈夫かな?」
「ああ、あいつはタフだからな……きっと大丈夫さ」
この時、フェイリーン王女が10人もの子供を授かることになるとは知る善しもなかった。
カインはタフガイとしてフェイリーン王女の性欲に打ち勝ったのだろうか?
あるいは、新たな何かに目覚めて性欲に溺れていったのだろうか? その答えは定かではない。
「ねえ、スレイお兄ちゃん……」
「どうしたんだ?」
「私と結婚できて嬉しい?」
「もちろん嬉しいさ」
「王女様のようにチンポとキンタマをギュッとしても?」
「……それは、嬉しくないけど……ニナとの結婚は嬉しいよ」
「本当に? カインお兄ちゃんみたいに逃げ出さない?」
「ああ、逃げ出さない」
「良かった、スレイお兄ちゃん大好き」
ニナはそう言うと甘えるように俺に抱きつき、耳元で囁いた。
「もし逃げようとしたら……吸い尽くしちゃうからね、フフフッ」
(END)