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韓国へ旅立った人に「お帰りなさい」と言いたくなった

「お帰り、Aちゃん」これは、わたしの心の声である。

Aちゃん、というのは、家族でもないし、友達でもない。アイドルだ。

名前を出して書いてもいいのだけど、これから繰り広げるわたしの空想を読んだファンの方が「ちがうよーー!」って嫌な気持ちになったら嫌なので、名前をあえて隠して書きます。

彼女は10代前半から日本でアイドル活動をして、数年後に韓国のアイドルグループでデビュー、その後また日本で活躍していた。

そして、この秋、再び韓国でデビューした。

それを見たわたしは「おかえり」と思ったのだ。

ところで、Aちゃんは日本から韓国へ旅立っていったはず。

韓国から日本に戻ってきたわけではない。

それなのに、なぜ「おかえり」なんて言いたくなったんだろう?

韓国アイドルを見過ぎて、自分は韓国に住んでいるとでも思っているのだろうか?

さすがに違う。日本に住んでる自覚はある。

これは、「韓国アイドルという職業」へのおかえりなんだ。


ここで、先日読んだ記事に、印象に残っている話があるので聞いてほしい。

この記事は、東京藝術大学の方が浪人生の頃を振り返って書いたもの。

たくさん絵を描いたり作品作ったりしなきゃいけないし、人と比べられるし、お金もかかるし、厳しい浪人生活。

藝大を目指してると知ったバイト先の人から「絵を描くのが好きなんだね」と言われて、わけがわからなくなって泣いてしまうというシーンがあった。

『藝大受験をしているという話をしたら、「そうなんだ、すごいね。絵を描くのが好きなの?」と聞かれました。

何故かなんて答えればいいのか分からなくて、泣き出してしまいました。』

「そうして僕は大学を辞め、東京藝術大学を目指した。」より引用

これを読んで、自分を重ね合わせていた。

わたしは絵こそ描かないが、書道や合唱、バレエに演劇と、形を変えながらも表現に携わり続けていた。これは表現が好きだからだろう

ただ、表現する手段があると、どうしても自分の人生が削られていく感覚がある。というか、削らないと、人にあげるものが何もないから、自ら削るしかないのだ。

たとえば、わかりやすいところで言うと、授業中にずっと「あのシーンに入れるBGMは何がいいかな?」と考えて単位を落としまくったり、食事や睡眠時間を削って精神や体調を崩したり。

伝わってるか不安になるところでいうと、自分のこれまで経験してきた受験勉強の苦しみと、なんとなく片思いで終わった恋と、今まで見てきた両親の姿を全部ミキサーに入れて、ガーってして、「結婚して2年後に妻を亡くした主人公は、こういう辛い気持ちになると思う。だから、このBGMを入れる」みたいなことをする。ゆえに、毎回「お前の人生はどんなもんだ?」と問われているような怖さがある。

だから、就職する時に「安定した仕事と、ほどほどの趣味を」というキャッチフレーズを掲げて、表現をすっぱり辞めた。

辞めた、、、

つもりだったのに、表現する場がなかったら、水の中に潜ってるみたいに息ができない。

苦しい。

就職して1か月後、気づけばこのアカウントを作り、窓ぎわ体育座りにスマホで、感じたことを言葉にするようになった。

友達から「表現者として生きるのは苦しいから、やめたら?」って言われたけど、苦しいからって辞められるものじゃないんだよこれは。ばーか。(暴言ごめん)

だからわたしも、「表現が好きなんだね」って言われたら、なんて答えたらいいかわからなくなって泣く可能性が、20%くらいある。

そして、なんとなくだけど、Aちゃんもこういうことなんじゃないかなって、思った。

というのも、彼女は1回目の韓国デビュー後、どんどん痩せていく。わたしは「痩せすぎでは?」「ムリしてるんじゃない?」「コントロールできなくなってるんじゃない?」と心配になっていた。(事実は知りません。その頃のわたしは摂食障害から抜け出そうとしてたので、勝手に自分と重ねてるだけかもしれないです)

もともとストイックな性格だと言われているが、その上に人間離れしたスタイルを求めてくる韓国アイドルの世界を乗っけてしまって、大丈夫なのか?

そんなになるなら、ただ日本のアイドルやっていたっていいんだし、芸能活動をせずに、ふつうに10代を楽しんだっていいじゃんって。

同じ日本人として、勝手にお姉ちゃんマインドを装着してるわたしは、誠に勝手ながら妹に苦しんでほしくなかったんだと思う。

自分の意思でやってることだし、ぜんぜん知らない誰かの心配は迷惑かもしれないけどさ。

だから、韓国でのグループ活動が終わって、日本のテレビに出るようになって、これで安心って思ってたところがあった。

だけど、また韓国でデビューするんだね。

彼女の心の中に何があったのか、本当のことを知ることはできない。

韓国でアイドルしてた頃のことも、日本で活動していた頃のことも、そしてまた韓国でデビューすることに決めた時のことも。

表に語られる「また挑戦したい」というきれいな言葉が、もしかしたら本心の可能性だって十分にあり得る。

でも、「韓国でのアイドル活動が好きなんだね」って言われたら良くわからなくて泣いてしまうような、だけどそこに戻ることで呼吸ができるようになる、そんな何かがあったのかもしれない。



彼女にとって、そこが帰る場所なのかも。


そう思えてくるくらい、画面の中で歌って踊る姿に吸い込まれている。


天職って、時に「好きなんだね」って言われたら、良くわからなくて泣いてしまうようなものだったりするのだろうか。もしそうだったら、残酷だな。

それでも、わたしは「Aちゃん、おかえり」って言いたい。

あのときよりも、少し穏やかな目で笑っているのは、表面だけ作られたものじゃないって、信じてもいいよね。

少なくともわたしは、前よりも良く食べて、良く寝て、それでも文章は書けてるから。


末永く幸せに活動してくれることを祈っています。


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おちよ|快適な{家としごと}の自由研究者
いただいたお金は、動画編集ソフト買ってもっと見やすい動画作るとか、マイク買って耳に優しいラジオを作るとか、そういうことに使わせていただきます!てか、こんなところまで読んでくれて、ありがとうございます!!