『白鹿亭奇譚』レビュー
『白鹿亭奇譚』
アーサー・C・クラーク (著) / 平井 イサク (訳)
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ご存じ、『2001年宇宙の旅』の原作者(というか、かのスタンリー・キューブリックと共同で制作、脚本を担当した)アーサー・Ⅽ・クラークのSF法螺話です。
クラーク先生といえば『2001年』。なのですが、それだけじゃありません、静止衛星という概念を考案して、衛星通信の基礎をつくったり、スリランカの位置をすこしばかり南に動かして軌道エレベーターを建造したり(『楽園の泉』の中のネタ)、大英帝国勲章を得てナイトの爵位ももっていたりする(これは本当)すごい人です。ナイトですからね、頭にサーをつけて、サー・アーサー・チャールズ・クラーク(Sir Arthur Charles Clarke)というのが正しい呼び方なのです。
アイザック・アシモフやロバート・A・ハインラインと共にSF界の「ビッグ・スリー」なんて称されていた方でもあります。
さてさて、そんなばりばり正統派、王道ど真ん中のクラーク大先生の書かれたこの本、さぞやハードなSFなんだろうとひも解いてみたら、これがなんと全部が全部法螺話のオンパレード。
ロンドンの片隅にある酒場〈白鹿亭〉に集う、科学者や新聞記者、作家等といった、ちょいと知的(と自分たちは思っている)飲兵衛たちが酒の肴に繰り広げる、なんともトンデモない、でももしかしたらこれ本当かも? とちょっぴり思わせる、嘘八百の大法螺話がぎっしり詰まった短編集であります。
まあ、SFってのはそもそも法螺話ですからね。と眉につばつけて読み始めてみると、これがなかなかどうして、ちょっとだまされてみたくなっちゃう巧妙な語りが素晴らしいのです。
自称、科学者で、なんだかいろんなものの専門家で、世界中に友人がたくさんいる法螺吹き男ハリー・パーヴィスが、〈白鹿亭〉でビールを片手に得意の語りで酒場の常連たちをけむに巻く、ちょっと知的で科学的っぽいかんじだけれどもなんだか変なお話たち。
集う皆も、どうにかして彼のしっぽをつかんでやろうと、毎回話を聞きながら検証しようとするのですが、だいたいにおいてハリーのほうが一枚上手、うまいことけむに巻かれてしまうわけですねw
そんな語りを同じ常連客の「私」が聞いたまま文章にしていく。という構成。「私」が誰かは当初語られていませんが、後半でハリーから『君の本にあった比喩を一つ拝借したいんだがね、アーサー』と話しかけられているので、少なくとも科学的な本を書いている作家のアーサーさんだということは判明します。ばればれですねw
もちろん、そのアーサー先生もけむに巻かれてしまう一人であるところがまた面白いところなのですがw
そんなかんじで、かのSFの大先生の筆による、もしかしたら大先生みずからもけむに巻かれている(かもしれない)空想科学法螺話。今読んでも十分おもしろい短編集です。上に貼った写真は新書版、ハヤカワ・SF・シリーズのいわゆる銀背本ですが、普通に最近の文庫でも再販されて……
いるのかと思ったら絶版みたいですね><
古本か図書館ででもぜひ読んでみてくださいませ。おもしろいですよー☆