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『精霊の木』レビュー

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『精霊の木』

上橋菜穂子(著)

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《守り人》シリーズで有名な上橋菜穂子さんのデビュー作、ずっと入手困難でしたが30年ぶりに再販・文庫化されました。
作家生活30周年ということで、この本には、30年前の「初版あとがき」、15年前の「新装版あとがき」、そしてこの本用の「文庫版あとがき」の3本のあとがき、それに加えて《守り人》シリーズの担当編集者である偕成社の別府章子さんによる解説までが付いてきます。上橋菜穂子さんの歴史を知る上でとってもお得な重要資料となっていますw

さて、お話のほうは、

舞台は未来世界。環境破壊の結果地球は生存に適さない死の星となっていました。人類はその代わりに多くの惑星に植民しています。
そんなある星のお話。
人類側にとっては植民ですが、在来人種(いたのです)にとっては侵略です。大地と木々と精霊と交流し生きていた先住民を、侵略者である人類は、いとも簡単に虐殺します。科学力に劣る愚かな異星生物として。
それから数百年の時が流れ、征服者側の倫理・価値観で生活していた先住民の子孫(科学実験のため(!)に人類と混血させられた子孫は生きながらえていました)が、封印された忌まわしい歴史を解き明かしていく……。

そんなお話です。

お話の中でも、地球のアメリカ先住民と白人の間に起こった出来事が引き合いにだされていますが、まさにアレの宇宙版。
主人公の少年と少女も、嘘で塗り固めた地球人側の理屈、「先住民はおろかで野蛮だった。種としての寿命も迎えていたのだろう。地球人側も保護に手を尽くしたが残念ながら絶滅してしまった」という話を教育されていて、最初は頭から信じています。
そんな中、先祖返り的に夢で種の記憶に触れられる能力が発現した少女の話から、教え込まれている自分たちの歴史に疑問を持った二人は、歴史の隠蔽をもくろむ人類側〈惑星開発局〉の魔の手から逃れつつ、この星の真実の歴史を知ろうとします。

蹂躙された先住民の視点、夢による過去と現代の交感や、精霊の木とその種子など、上橋菜穂子さんワールドの原石ともいうべきビジョンとテーマが満載です。
とくに人類側の感覚では夢物語や妄想としか理解できない原住民側の過去の事情と、現代の世界が文字通り重なり合う時のファンタジックさがすてきに見事。
先住民の苦難と主人公の少年少女に訪れる危機、タイムリミットに向けた焦燥感など、冒険ものとしても読みどころ満載の、ちょっとSFっぽいファンタジーでありました。

冒頭に書いたように、上橋菜穂子さんファンなら必須。そうでない方でも自然と人間、他民族との共存等に興味のある方にはぜひ。
上橋さんが学生のころにかかれたお話だそう、ちょっと強引に急ぎすぎじゃんとか児童文学枠では扱いにくいかも? というところはありますが、いま読んでもまったく問題ありません。
おすすめファンタジーです♪

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