
『マーダーボット・ダイアリー』レビュー
『マーダーボット・ダイアリー』(上・下)
マーサ・ウェルズ(著/文), 中原 尚哉(翻訳)
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お仕事されてる人は自分の会社のことをよく「弊社」って言いますよね。
弊社とは、自分の属する社の謙称のこと。 自分の会社のことを示す際に使用するへりくだった表現、謙譲語である。 弊社の語は、相手の会社に対して自社が格下であるというニュアンスを含んでおり、社外の人間に対して「我々の会社」と言いたい時に使用する表現である。(Weblio辞書より)
と、あるとおり、相手の会社よりへりくだって自分の会社のことを言うわけです。
で。この本の主人公である警備ユニットさんは、自分のことを「弊機」と謙称します。
兵器じゃないですよ。弊機です。
めっちゃへりくだってる。そう、喋る相手(たいていは人間)をつねに上において、とっても礼儀正しくしゃべります。それも、なんとも屈折した語り口で。
まあ屈折するのもわからなくもないのですが……。(理由は後述)
そもそもこの警備ユニットの扱いがなんともヒドイ。
人体のクローンから作られた有機組織と、機械である非有機組織のハイブリッド。いうなれば合成サイボーグなのです。
もともと意思のある人間の一部を機械に改造した機械化人は強化人間というやつで、彼らは人として扱われ、「弊機」ら警備ユニットは「モノ」としてあつかわれます。
モノですから当然人権なんてありゃしません。所有者の命ずるまま、どんなダーティな仕事も、危険な仕事もやらされます。戦闘においては盾代わり、捨て駒もあたりまえ。という世界です。
さらに、この「弊機」さん、自らを(頭の内では)「マーダーボット」と呼んでいます。
どうやらかつて、大量殺戮を働いた。らしい……、のです。普通ならそんな機械は分解処分なのでしょうが、「弊機」を所有する保険会社はとても「ケチ」なため、事件後いったん回収して記憶を消去して再稼働というえぐい処置をします。
本来「警備ユニット」ですから、人間を守ることが仕事と基本プログラムされているのに、なぜ殺戮行為をしてしまったのか、なぜ暴走してしまったのか、その理由が消去されているので、「弊機」には何があったのかさっぱりわかりません。
なので、もしかしたらまた「暴走」して、守るべき人間を襲ってしまうかもしれない。そんな恐怖から、「弊機」は、自分の中の行動を決定する「統制モジュール」を自らハッキングし、会社や顧客からの命令をそのまま受け取るのではなく、いったん考えなおしてから行動するよう自己を再プログラミングします。(もちろん、会社にはバレないように、基本的には命令をそのまま実行しているフリをして)
当然、勝手な自己改造ですから会社にばれたらまた記憶を消去されてしまうでしょうし、こんどこそ分解処分は確実でしょう。また、そんなことをすることこそが「暴走」のゆえんなのかもしれず……。と、つねに怯えながら仕事をする「弊機」。
うっかり殺しちゃうかもしれない守るべき人間。人嫌いなのもそれゆえでしょう。そして、じつは大量殺戮犯だったなんて過去があったのならばまあ当然屈折しますわねw
そんな「弊機」の唯一の楽しみは、待機時間にネットワークから大量にダウンロードした連続ドラマのムービーをこっそりと視聴すること。というのだからなんだかかわいくなってきます。
さて、そんな「弊機」に与えられた、惑星調査隊を護衛するミッションでは、安全だったはずの場所に人間を襲うモンスターがいたり、データに欠落があったり、第三者による妨害があったり……と、なんだかめんどうなトラブルが立て続けに発生。おちおち大好きなドラマも見ていられません。本当なら、何もせずに機材倉庫でひたすらドラマに耽溺していたいのに……。
というかんじでこのなんとも愚痴っぽい愛すべき「弊機」が巻き込まれていくトラブルと冒険がスリリングにテンポよく描かれて行きます。人間を守りながら戦うアクションもすごい(えぐい)し、対コンピュータのハッキング戦なんかもとても良く書けていて、テクノ・サスペンス・アクションとしても楽しめます。
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ちなみに警備ユニットには性別はありません。なので、「弊機」さんも彼なのか彼女なのか作中では一見よくわからない。
アクションがすごいのでてっきり男性的な機体だと最初思いながら読んでいました。(それはそれでかっこいいです)
ですが、後半にほんのちょぴっとだけ女性っぽい描写があり、そこから改めて最初にもどって女の子だと思って読み直すとこれがまた楽しくてかわいいw やっぱり生体部のクローン素体は女の子なのかなー?(女子にこんなえぐい戦闘させないでよとおもいますケドw)
もちろん、無性ですからどっちだと思って読んでも構わないとおもいますが、両方の性別の視点で、お好みの声優さんの声とかで読んで見ると、もともと面白い上にさらに二倍は面白いお話になりますのでおすすめですw
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そしてそして、
人間がとにかく苦手で、隙あらば脳内保存した連続ドラマに耽溺しようとする人型警備ユニット“弊機”が主人公の、マーサ・ウェルズ『ネットワーク・エフェクト マーダーボット・ダイアリー』。発売まであと5日!https://t.co/fnBYcKay3M #弊機
— 東京創元社 (@tokyosogensha) October 7, 2021
↑さらに続編がもうじき出るそうです!! やったー!(∩´∀`)∩☆
いまからなら続けて読めますね!! 続編も超たのしみです!!
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続編もレビューしましたー☆彡
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