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『 失われたものたちの本 』レビュー
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『失われたものたちの本』
ジョン・コナリー(著/文) 田内志文(翻訳)
📚
第二次大戦下のイギリス。本好きな12歳の少年デイヴィッドが主人公。
彼は、母親を亡くした孤独から本に埋もれて過ごし、いつしか本達が交わす言葉、本のささやきすら聴こえるようになっていました。
そんな少年の深い悲しみをよそに、父親は新たな女性と再婚します。父親視点ではデイヴィッド少年にこそ新しい母親が必要と考えたのでしょうが、亡き母を愛するデイヴィッドにとって父親のその行為は重大な裏切りでした。
やがて、新しい母親から腹違いの弟が生まれます。
かつては亡き母と、父親から十分に与えられ、そそがれていたはずの彼への愛情は、新たに生まれた弟に向けられいき、必然的に自分の重要性を感じられなくなっていくデイヴィッド少年。(いらない子状態ですね)
同時に、少年を取り巻く大人の世界、戦争も厳しさをましていきます。
孤独を募らせ、いろいろとこじらせたデイヴィッド少年は、ある晩、死んだはずの母親の声に導かれ、書かれなかったはずの物語、失われたものたちの棲む異世界へ迷い込んでしまいます。
そこは、書かれなかった童話や失われた物語のキャラクターたちが跋扈する恐怖に満ちた世界なのでした。
デイヴィッド少年は、死んだはずの母親をその世界で探し、ともに現実世界へ帰るべく、危険に満ちた冒険の旅に出るのです。
とまあ、このようなストーリー。
冒頭からデイヴィッド少年の内面。悲しみと心の傷が克明に切々と描かれ、読んでいてこちらもつらくなってきます><
異世界の旅も同様につらく厳しく、ゆがみまくった童話や物語が次々と語られ、まるでダークファンタジーやホラーを読んでいる気分……。
な・の・で・す・が !
この、変容した童話たちによって語られる異世界の真実に気が付くと、霧に包まれていた情景が一気にクリヤになるのです。
そうだったのか! という一種のアハ体験が味わえます。私は気が付いてからまた冒頭に戻って読み直しちゃいました。
そして、知っている童話が異世界でどのように変容しているのか、それを読むのもまた楽しくなってくる不思議。
初読の時はなんかいやーな感じがしたんですけどねえ。読み直すとぜんぜん印象が変わるのもおもしろいです。
行間を読む、という言葉がありますが、変容した物語の語り手の心象を読む……、気持ちを汲み取るような、そんな、深い読書体験ができる高度なファンタジーでした。
これ、すんごいことやってますよ。全米図書館協会アレックス賞受賞というのもうなづけます。
ちなみに、登場する主な童話たちは、現実世界ではこれらのタイトルで知られています。
赤ずきん
ヘンゼルとグレーテル
ルンペルシュティルツヒェン
白雪姫と七人の小人
ゴルディロックスと三匹のくま
三人の軍医さん
ガチョウ番の女
眠れる森の美女
三びきのやぎのがらがらどん
美女と野獣
などなど。
このあたりを読んでおくと、より深く楽しめると思います。(もちろん読んでなくてもOKです)
※もしかしたら、よく語られている童話からの変容っぷりが耐えられない方がおられるかもしれません。文庫版には本の最後に『シンデレラ(Aバージョン)』というバージョン違いの有名なお話も収録されています。まずこちらを読んで、楽しめると思ったら本文のほうを読まれたほうがいいかもしれません。
まあ実際のところ、童話とかって結構エグイお話がおおいので、大丈夫だとおもいますがw
※もひとつちなみに、この本、なんだか今話題の宮崎駿監督の『 君たちはどう生きるか 』の原作? 下敷き? になった話なのだそうです。
バリバリのファンタジーのくせに、ドイツ軍のユンカース Ju88 爆撃機が落ちてきたり、ぴかぴかのマークV戦車が現れたりするもんだからコレは確かに宮崎さん好きそうだわーなんて思ってたのですが、どうやらここら辺は描かれていないようですw
私もまだ未見なので、アニメみるの楽しみです(どうなっていることやらw)
文庫版:
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