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『サはサイエンスのサ 〔完全版〕』レビュー

表紙(イラストは氏の盟友でもあった「とり・みき」さん)

『サはサイエンスのサ 〔完全版〕』
鹿野 司 (著)

コンピュータ界隈な人には、雑誌ログインに(これまた長期に)連載していた『オールザットウルトラ科学』の人。といえば通じるかも?

本書は、素人にもわかりやすく親しみやすい語り口で、科学すること、SFすること(?)の面白さを伝えてくれていたサイエンス・ライター鹿野司さんが、2022年に63歳の若さでご逝去されるまでの、およそ30年間にわたってSFマガジンで連載していた、オールザットでウルトラな(それは他紙)サイエンス・エッセイです。

ワタクシ的に氏は日本を代表するサイエンス・ライターのおひとりであると勝手に思っておりますが、いわゆる権威筋の方々にはその親しみやすい語り口と2ちゃんワードや顔文字をつかわれたりする文章のイージーさによってかあんまり認められていなかったようです。残念。

この本の前身として、SFマガジンに連載された氏の膨大なエッセイの中から代表的なものをピックアップした単行本『サはサイエンスのサ』が2010年に出版され、翌2011年の星雲賞のノンフィクション部門を受賞しました。
本書は〔完全版〕ということで、単行本に収録できなかったものやそれ以降のものも含め、SFマガジン連載の全てのエッセイを完全収録したとのこと。
(紙の本はSFマガジンの記事と同様のレイアウトになっており、三段組の細かい字で膨大な情報量がぎっしりつまった468ページとなっています。電子版は段組みがなくなっていて読みやすいですが、Kindle版ページ数換算ではなんと1350ページ以上!)

まじで、読んでも読んでも終わらない。無限とも思える大量の知的好奇心。
どのページから読んでもおkで、いつまでも続く至福の科学読書体験ができます。

なにより素晴らしく思うのは、常に科学的で論理的に公平に物事を捉えて、そしてポジティブな面に光をあてて(くりかえしますがわかりやすく)書いてくれるその姿勢です。
例えば科学vs宗教のような一見して対立するものも、どちらの肩も持たないのではなく、どちらの肩ももって、その立場ではこう見えるよね。そりゃそうだよね。ってかんじで、それぞれの立場のメンツを潰さずに書いているんですよね。

単行本版のあとがきで、氏は、
科学を説明しようとすると、どうしても「オレ様が教えてやる」的に権威的で偉そうになってしまうので、あえてイージーな口調にしてとにかく権威的にせず、
かつ、
文章の論理展開のプロセスを、「読んでいる人が自分で思いついている」と感じさせるように書いている。
と語っていました。
そしてそう心がけることで、世の中で起こるいろいろなことについて、あまり読み間違えることがなくなったとのこと。

この姿勢、いいですよね。私も見習っていきたいと思うところです。

さらに

 オレは人類という観点から見れば、人間なんて大差ないと思う。つまり、どこの誰だろうと、オレと同じくらい賢く、オレと同じくらい愚かで、オレと同じくらいナマケモノで、オレと同じくらい理想を持っていて、オレと同じくらいずるくて、オレと同じくらいまじめだと思う。だから、なにか常識外れなことが起きた時、即座にバカにしたりせずに、なんでオレと同じような人がそんな奇妙なことをする羽目に陥ったのかなって考えるようになった。本能的にしがちな、知らない人を安易に即座に見下す行為をしないように、自分を訓練しつづけているのね。まあぐだぐだだけどね。
 この本の背景にはそういうひみつがあるのねん。楽しんでもらえると嬉しいな。

単行本版『サはサイエンスのサ』(二〇一〇年一月二十五日、早川書房刊)あとがきより

なんて氏の文章の「ひみつ」も(この文体で)語ってくれています。

本当に、科学と人類に対して絶大な信頼を寄せていて、科学する未来はきっと明るいと、すなおに信じさせてくれる文章を書く稀有な方だったと思います。

この分断が加速していく時代に、惜しい人を人類は失なってしまったと、あらためて思うのでした。合掌。



#鹿野司 #科学エッセイ #SFマガジン #早川書房 #らせんの本棚

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