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『惑星カレスの魔女』レビュー

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『惑星カレスの魔女』

ジェイムズ・H・シュミッツ(著)/鎌田三平 (訳)

商業宇宙船の船長パウサートが仕事先でうっかり救ってしまった少女奴隷の三姉妹は、謎めいた魔法使い=超能力者ばかりが住むという惑星カレスの生まれ。
いやはや困った娘たちを助けてしまったものだと思いながらも惑星カレスにまで彼女たちを送り届け、その後地元の惑星に帰りついてみれば、なんと船長はすっかりお尋ね者になってしまっていたのでした。
知らなかったこととはいえ、惑星カレスにかかわることは彼の所属する《帝国》ではかなりきわどいラインの違法行為。その上、娘たちを救ってくれたお礼にとカレスの人々がごっそり船に積んでくれた品々は、わざと用意したかのようにすべてがご禁制の品ばかり。
申し開きも受け付けられない状況に追い込まれた船長と船を救ったのは、故郷のカレスに送り届けたのに、なぜかくっついて密航してきた次女のゴス。彼女の持つ強力なテレポート能力で、船ごと長距離を「跳んで」逃げ出したのでした。
そのテレポート能力はシーウォッシュ・ドライブと呼ばれる《帝国》にとっては未知の新技術。痕跡も残さず瞬間移動できる夢のワープ技術は、もちろん誰にとっても魅力的。したがって、さまざまな罪を着せられた上にその技術を狙った各方面から付け狙われ、しつこい追跡をうけることとなってしまったのでした……。

とまあ、このような、いわゆる「巻き込まれ主人公」型の定番ともいうべき導入を経て、息もつかせぬ展開の数々、そして、坂道を転がり落ちるように(?)どっぷりとトラブルの沼にハマり、巻き込まれつづけるパウサート船長(笑)
もっとも、魔女っ娘のゴスちゃんが目を付けただけあってただのぼんくらではない船長は、だんだんと自分の能力を発揮して、巻き込まれまくった状況を変えていきます。

そしてついに、惑星カレスと、人類の危機まで救ってしまうことになるのですが、一体どうやってかについてはぜひ本書をよんでくださいませ♪

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先日紹介した『テルジーの冒険』と同じ宇宙のお話ですが、テルジーよりはかなり前の話のようです。この時代ではサイキック能力はまだ一般的ではなく、惑星カレスの特産品(?)だったようで、一般の人々は魔術と区別ができず、根拠なく恐れています。(その理由も本書では語られています)

ワタシがこの本に出合ったのはだいぶ前で、ご多分に漏れず新潮文庫版を宮崎駿さんの表紙に魅かれて購入。即読んで見て「おもしろかった~♪」という感想のまま長年本棚に突っ込みっぱなしになっていました。

最近、創元推理文庫で再販されたのを知り、もしや表紙が変わっちゃっているんじゃと心配したのですが、ちゃんと宮崎駿さんのままで(ロゴは変わっていますが)安心しました。やっぱこの絵じゃないとね!

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↑読む用・保存用・布教用の3冊w
真ん中が創元推理文庫、両脇が新潮文庫版です。

昔、単に「おもしろかった~♪」で終わっていた感想ですが、いま改めて読み直してみると、やっぱり相当丹念に考えて練り込まれた、良質のエンターテインメント小説であることがわかります。

巻き込まれ主人公の船長を襲い続けるトラブルの数々は、終盤になるにつれ大きな展開とかっちり種明かし回収される伏線になっていますし、王道のストーリー展開は読者を安心させつつ飽きさせません。ただ定番をなぞっているだけではこの安心感は出せないでしょうし、読みやすさと読者の気持ちのけん引する力もさすが。

そして何より、キャラクターの魅力。三姉妹の魔女っ娘たち、とくに船長にくっついてくるゴスは女性視点からも頼もしくて可愛くて嬉しくなりますw

英国のSF批評家ジョン・クルートは次のように語っています。

シュミッツは、その作家歴を通じ、(SFと言う)この男性中心主義のジャンルには珍しいほど自由な態度を持って、女性の主人公を活躍させてきたことで知られている。
彼が描く女性たちは、性的なロール・プレイングの定石(つまり、ただ可憐なだけのヒロイン役)から完全に解放された形で、能動的な役割を演じる。このシュミッツの特徴が、とりわけ注目されて良い理由は、彼の作品の傾向が、伝統的なテーマと、悪玉と、プロットを持った、銀河系を馳せめぐる勇壮なスペース・オペラだからである。これはSFと言うジャンルの中でも、一番極端に女性を戯画化しがちな分野なのだ。(訳者・鎌田三平氏の解説より)

当時のSF(スペース・オペラ)って、たぶんちょっと前の少年漫画のようなジャンルだったのでしょう。冒険や戦いがお話の中心で、そこに出てくるステレオタイプなヒロインは、ただ美人だったり、ただ可愛いだけの、いわゆる「お色気担当パンチラ要員」に過ぎなかったのでしょうね。

そんな中、しっかりと自我を持って能動的に動いている女性が主役としてぐいぐい物語を引っ張っていく。そんな作風が新しかったのだと思います。

そして、ジョン・クルートも指摘しているように、やっぱり王道ど真ん中のスペース・オペラなのですよ、これが!

テルジーと違って今回は残念ながら(?)男性の船長が主人公ですが、魔女っ娘のゴスもばっちり主役級。幼くもしっかりヒロインしていますし、船長ともよいコンビネーションを見せてくれます。

そういえば、日本のアニメでは『風の谷のナウシカ』あたりから女性が主人公を張る(少女漫画のアニメ化でない)物語が増えたと聞いたことがあります。この本の表紙に宮崎駿さんを起用した経緯まではわかりませんが、世界観をとても良く活かした良い表紙だとおもいます。ただ、残念なことにシュミッツさんは日本語版が出版された昭和62年の6年前、1982年に亡くなっておられるので、この表紙はご生前には見ることができなかったと思われますね。(ご冥福をお祈りいたします)
宮崎さんはちょうどナウシカ描かれているころだったのでしょうね。見るからにナウシカとクロトワさんにそっくりですw

まるでナウシカのように芯のしっかりした女性(少女)が主役を張るスペース・オペラです。いま読んでも全然古く感じません。もしかしたらいまはある意味普通になって受け入れられやすくなっているのかも? トニカクオモシロイです。 
女性主人公好きにも、普通のスペース・オペラ好きにも、ただ面白いお話好きにも、みなさんにおすすめです☆


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