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『コロンブスの図書館』レビュー

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『コロンブスの図書館』

エドワード ウィルソン リー (著), 五十嵐 加奈子 (翻訳)

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クリストファー・コロンブス。誰もが知っている、アメリカ大陸を発見した歴史的英雄です。
しかし、その息子、エルナンド・コロンを知っている人はまずいないでしょう。歴史の表舞台には現れず、ずっと裏方だった彼。
じつはこの本、『コロンブスの図書館』は、その、コロンブスの息子、エルナンド・コロンの生涯を描いた本なのです。

コロンブス自身はいろいろな逸話や伝説が残っていますが、その元ネタのほとんどは本好き・メモ好き・記録好きだった息子さんが記した『コロンブス提督伝』という偉大な父の伝記がベストセラーになったからなのです。

(ちなみに、コロンブスはイタリアのジェノバ出身で、その時の名前は「コロンボ」(警部みたい!)、後に遠征のスポンサーになってくれるスペインに移り住み、その時に「コロン」に改名したそう。で、「コロンブス」はコロンボの英語読みとのことです)

この本の主役である息子さんのエルナンド・コロンはコロンブスの婚外子でした。キリスト教の影響の強い当時はそうとうな苦労をしたと思われますが、13歳の時にコロンブスの第四回遠征に参加して、父と共に新大陸を冒険、船乗りの経験を積みます。
そのころすでにメモ魔、リスト魔になっていたようで、(それまでいいかげんだった?)コロンブスの航海の記録をしっかりつけるようになったようです。
なんというか、見方によってはペテン師に近いコロンブスを、英雄に祭り上げたのは息子さんのプロデュース能力によるところがすごく大きかったようです。(もちろんそれだけ尊敬&崇拝していたようですが)

その後もヨーロッパ中を旅して見聞を広め、特に書物を大量に買い集めます。おそらく当時世界最高クラスの「本コレクター」でありました。

ただ集めるだけでなく、情報の利用に積極的で、今で言うIT=インフォメーション・テクノロジーの使い手だったようです。後にカール五世の側近を務めるまでになったエルナンドは、ただの本コレクターではなくやっぱりそうとう優秀だったのでしょうね。
きっと、現代でいうところの情報整理術や情報活用能力にとても長けていたのだと思います。
特に、図書館で本を利用するための『題材別目録』や『著者・科目一覧』などを整理して目録(カタログ)を作ることの重要性をいち早く見抜き、そのために人を雇って整備すらしています。
そうして整理された書物は、彼の私設図書館(これもおそらく世界初で、当時最大の)に整頓されて収められるわけです。

驚いたのは、今、私たちが普通に本棚に本を並べていますが、こうした「棚に本を立てて並べる」という陳列を初めてやったのが、彼、エルナンド・コロンなのだそうです。(びっくり)
彼が自分の図書館のために考案した、取り出しやすく整理しやすい仕組みが、今で言う「本棚」だったのですね。

彼が買い占めた膨大な数の本の殆どは今や散逸してしまっていますが、残った物は彼の名(と親の名)を冠した「ビブリオテカ・コロンビーナ」(コロンビーナ図書館・スペインのセビーリャ)に収められているそうです。

敬愛し尊敬した父の業績と共に、自身が生涯にわたって買い集めた本たちが500年前後も残り、伝説と共に図書館になっているというのは、エルナンドさん的にもきっと嬉しいことだとおもいます。(そして、父の名であっても自分の生涯について書かれた本が出るなんて、ね)

私としては、「『本棚』発明してくれてありがとうございます!」と、本好きの超大先輩に大感謝なのでありました。

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