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『窓から逃げた100歳老人』レビュー
『窓から逃げた100歳老人』
ヨナス・ヨナソン(著/文)柳瀬 尚紀(翻訳)
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もしもゴルゴ13が100歳の老人で、ライフル銃ではなくて爆弾の専門家だったら? という感じのお話ですw
スウェーデンの養護老人ホームで100歳の誕生日を迎えるアラン・カールソンおじいさんは、自分の誕生会の直前に窓から逃げ出してしまいます。
お小水のしみ付きのスリッパのままで・・・><
自分の誕生会がどんだけ嫌だったんでしょうって感じですね。
その誕生会には老人ホームの面々とホームの居心地の良さをアピールしたい女所長さんのほか、市長や地元の新聞記者も呼ばれていたものですからさあ大変! ハッピーなハズなのに逃げるなんて許せないと、ただの迷子老人にしたい所長さん、市長は市長で記者さんたちの前で問題解決力を誇示しようとしてイニシアチブを発揮したがり、記者さんたちは市長の問題点をあぶり出したくて手ぐすねを引いています。
いっぽう逃げ出したアランおじいさんはとにかく遠くまで逃げたくて、近くのバス駅から高速バスにもぐりこみます。駅で絡んできたチンピラの持っていたスーツケースを(ついうっかり!)拝借したまま……。
そのスーツケースにはギャングの大事な取引のお金が詰まっているのでした。
血眼になってスーツケースの行方を追うギャングたち、それとは知らずに逃げる老人、市長の連絡で警察や新聞社まで巻き込んで、てんやわんやの大騒ぎです。
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さて、このアランお爺さん、なんせ100歳ですから、20世紀をまるまる生きていたわけで、その過去の物語が現代の追跡劇と交互に語られます。
その過去の話がこれまたものすごいのです。
学校に通ったのは3年だけ。近所のニトログリセリン製造会社の小間使いをしていた少年時代に爆弾の作り方を学び、以後、その専門家として世界中を飛び回り、第一次世界大戦では爆弾作りの腕を買われ、第二次世界大戦の裏側ではあの原子爆弾の製造にもちょっぴり携わり、トルーマン大統領が飲み友達で、毛沢東の妻の命を救ったりチャーチル暗殺計画を阻止したり、スターリンと会食したり、金正日を膝の上にだっこしたりなどなどエトセトラ。
それはもうとんでもなく沢山の歴史的な出来事にかかわってきたお爺さんだったのでありました。
でも、そのほとんどは自分から世界をどうこうしようとか思ったわけではなく、ただただ嫌いな宗教と政治にかかわらないように、たんに旨いお酒(テキーラ)を飲むにはどうしたらよいかと考えて行動したら、ついてきちゃった結果というのが面白いですね。
それだけの経験をしてきた人ですから、持論は「なるようになる」というもの。どんな事態に陥っても「なるようになるだろう」と達観して生きてきたお爺さん。彼が人生でたった一度だけ憤った理由が、本書の最後に語られて、過去の物語と現代の物語がつながるのでした。
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訳者さんのあとがきで「すばらしき出鱈目小説」とあります。出鱈目かもしれませんが、20世紀の歴史の裏側で、こんなことがあったのかな? なんて思いながら読むととっても楽しいほら話なのでした。
最後に、そのあとがきからの一節を紹介しておきます。
出鱈目の語りの術を、作者ヨナス・ヨナソンは祖父から学んだようだ。祖父は杖に寄りかかって、噛み煙草を噛み噛み、孫たちによく「お話」を聞かせたという。「でも…おじいいちゃん、それほんと?」と問うと、祖父はこう答えた。
「ほんとの話しかしない人の話を聞いてもつまらんぞ」
と、いうわけw
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