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『EPUB戦記―― 電子書籍の国際標準化バトル』レビュー

やっぱりこれは電子書籍で読みたいですね。

『EPUB戦記―― 電子書籍の国際標準化バトル』
小林 龍生 (著)

「ユニコード戦記」の続編的なポジションの本です。実際、本書の「まえがき」が「ユニコード戦記」のあとがきと被り、著者の経歴の時系列的にもユニコードでの戦いの終盤戦からこのEPUBの戦いへシームレスにつながっている形になっています。

↑こちらの「ユニコード戦記 文字符号の国際標準化バトル」でもそうだったのですが、著者本人の体験した個々の戦場・戦闘についての戦術的なあらましが群像劇のキャラクターのような視点で語られる…。とともに、
よりずっと大きな、戦局を俯瞰する戦略的な視点・視野で、EPUBという電子書籍のワールドスタンダードとなる規格に「マイナー言語のチャンピオン(本文より)」たる日本語を、漢字かな交じり縦書き表記にルビまでを含んだ文化として正しく導入していく。
そんな闘いの趨勢が、実際の体験談として著者が当時考えていたことや思想なども含めて臨場感たっぷりに語られています。
日本語というとてつもなく身近な話題ということもあって、まさに我がことのように追体験できるようになっているわけです。

ちなみにEPUBとは

EPUB(イーパブ)は、国際電子出版フォーラム(International Digital Publishing Forum, IDPF)が策定した、オープンフォーマットの電子書籍ファイルフォーマット規格である。「EPUB」は"Electronic PUBlication"(電子出版)の意味を持ち「epub」「ePub」などと表記される場合もある。EPUBはXML、XHTML、CSSおよびZIPに基づいた規格であり、対応するハードウェアやアプリケーションソフトウェアは多く、電子書籍ファイルの標準となっている。2020年2月19日にはISOより国際規格"ISO/IEC 23736" として刊行された。

Wikipediaより

というやつ。電子書籍の標準的なフォーマットのことです。
このEPUBのバージョンが3に上がるまで、実は日本語の縦書きやルビなどはサポートされていませんでした。もしも著者らの戦いがなければ、いまだに電子書籍で日本語をまともに読めない世界線だったかもしれないわけです。

個人視点の物語から日本語の「本」や「書」についての文化、執筆・編集・出版、そして読書までを含んだ書記システム環境全般を取り巻く概念にまで踏み込んでいく本書の構成は見事というほかありません。

デジタルなビット情報で表される文字という情報、「文字コード」から始まった標準化バトルが、その文字を無数にまとめ込んで組み上げられる電子書籍の、その標準化バトルへと、ミクロがマクロに継承されていく構造が、この本にまるでそのまま受け継がれているようです。

紙に、いえ、もっと前にはパピルスやら木片やら竹片などに記された文字という人の意志を残す文化を、デジタル化しても残していかなくてはいけない。データ化する際に抜け落ちてしまう情報をすこしでも減らし、可搬性のある情報コードとして、だれにでも扱えるよう標準化していかなくてはいけない……。

我々が何の気なしに利用している、日々触れて扱って書いて読んでいる文字や文書のフォーマットは、先人たちが考え抜き、そして(まさに文字通り)命がけのバトルによって手に入れることができた、本当にかけがえのないものです。
前書「ユニコード戦記」とともに、あらためて感謝の念に堪えません。

なお、本書後半ではEPUBよりもさらに大きな概念であるデジタル化した「書籍」について、ハイパーテキスト論があらためて論考されています。

文字のまとまりが文であり、それがまとまったのが文書である(そしてその文から別の文への参照リンクがあるハイパーテキスト)ぐらいの漠然とした認識は以前から私も持っていましたが、それよりもはるかに深い、そもそも「書物」とは何かについての本質的な論考は一読の価値があります。

著者ら先人たちが策定し、守り育んだ文字・文書の文化を我らが担っていく、なんてとても胸を張るわけにはいきませんけれど、、ごくごく一部でも受け継ぎ利用している私たちが今後作っていくであろう未来の文書への大いなるヒントであり宿題が詰まった本です。

実際に電子書籍を書いている私たちはもちろん、これからのネットワーク化されたデジタル環境で文章を作っていこうという未来の執筆者や編集者の皆さんにぜひぜひ読んでほしい一冊でした。



#小林龍生 #EPUB #電子書籍 #ハイパーテキスト #らせんの本棚

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