『円環宇宙の戦士少女』レビュー
『円環宇宙の戦士少女』
クローディア・グレイ(著) / 中原 尚哉(翻訳)
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いやあー、おんもしろかったー☆
このちょっと微妙な日本語のタイトルで正直最初はどうなのそれ? って思って読み始めたんですが、これがまたツボおさえまくりで一気読み!
ひさしぶりに残りページ数でそわそわしてくる、え? もう終わっちゃうの? まだ読み終わりたくない!ってなるお話でした。
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所は宇宙、時は未来。
緑豊かな惑星ジェネシス。その環境資源を狙い亜空間ゲートを超えて侵攻してくる、怨敵こそは地球軍。
地球は、自然環境の悪化と増えすぎた人口をもはや自力ではまかないきれず、かつて植民し独立したジェネシスを再びわが物にしようと、強大な武力とテクノロジーを背景に攻め込んできます。
対するジェネシスは、環境を破壊するテクノロジーに否定的で長く鎖国状態でした。そのため、地球軍の繰り出す人間そっくりの機械人間《メカ》軍団の侵攻に対抗しきれず、劣勢に追いやられ、そしてとうとう、数百人の命を犠牲にする特攻作戦を立案するところまで追い詰められてしまうのです。
目標は敵が攻め込んでくる亜空間ゲート。
主人公の宇宙戦闘機パイロットで17歳の少女、ノエミは、その特攻作戦に志願しています。
作戦の実行まで、あと三週間。ノエミにのこされた余命はあと20日。
その特攻作戦の演習中、地球の攻撃艦隊がまたゲートを通過してきます。自決作戦の前に戦闘機を駆り、人間を超える運動・反射能力を持つ自動機械に挑むノエミ。
彼女は、帰らない者も多い幾多の戦闘を生きぬき、多くの敵メカを破壊してきた優秀な戦士なのでした。
しかし今回、その戦闘に巻き込まれ偵察班の親友が重傷を負ってしまいます。応急処置のため、戦場を離脱し遺棄されていた地球の船に乗り込むノエミ。
遺棄船の医務室へ急ぐ彼女の前に、30年間その船に閉じ込められていたという機械人間《メカ》アベルが襲い掛かってきます。
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という、めちゃくちゃスリリングでワタシ好みの情報盛りだくさんな冒頭からはじまり、ぐいぐいと読ませてくれます。
主人公ノエミの、死を目前にした「覚悟」がすごい。
そして、敵方(であった)機械人間《メカ》のアベル。これまた美形のイケメンキャラ(まあ機械だしね)なのですが、これが最高級の試作品モデルで、卓越した性能を誇り、人の感情に似た思考まで行います。
実際、この本では、ノエミ視点とアベル視点が交互に書かれ、どうやら主人公クラスのキャラ(機械だけどね)であると読者に予感させてくれます。
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30年間放置されていたメカである彼は、船に乗り込んできた人間である少女ノエミを(当初敵として攻撃したものの)主人と認め、忠誠を誓います。
そして、嘘を言えないようプログラムされているため、いやいやですが亜空間ゲートの秘密の脆弱性を開示するのでした。
人間の自爆攻撃は意味がないこと、しかし、メカである自分が操縦する機体で特攻すれば効果的であること。などを。
以後、惑星ジェネシスを救うため、そして、無駄になるはずの20日後の特攻作戦を阻止するため、敵同士が反目しつつも手を組み、今度は、最終的にメカであるアベルが特攻・自爆する……という目的に向けた冒険の旅がはじまります。
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テクノロジー否定で「心」を大切にする少女・ノエミと、そのテクノロジーの成果であり「心」をもたない「はず」のメカ・アベル。
この両極端で当初敵同士だった二人(?)の関係が徐々に変わっていくところがなんといっても読みどころです。
両者の視点が交互に現れるというのは先に書いた通りですが、最後には自分が特攻兵器として使われるという目的のために協力を強要されるアベルの心境(?)や、彼がもつ「心」に触れて葛藤するノエミの気持ちの変化がぐっときます。
相手をモノとしてしか見ていなかったはずのノエミがだんだんアベルを信頼していくところとか、(性能の低い)人間を完全に見下し馬鹿にしていたアベルの思考が変化していくところなんて、もう、ワタシ的に超大好物w
そして舞台の設定と展開の妙。
いくつかの星系がゲートでつながれて円環をなしている世界なので円環宇宙と言われているんですが、そのゲートを超えて冒険の旅をする中で、危機に次ぐ危機が二人を襲い、障害を乗り越えていくことで生まれる絆がもう読んでて嬉しくなっちゃう。
いやー、もー、スペース・オペラだったらこうじゃなくちゃ! ってぐらい美味しい展開と、エピソードが続き、先へ先へと読ませてくれます。
ほんとに、ページをめくる手がとまりませんでした。
最初に書いたように、終わっちゃうのがもったいない! もっと二人の物語を読んでいたい! そう思わせる逸品なのでした☆
良く知らない作家さんでしたが、表紙(&タイトル)買い、大当たりでした☆
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