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『いさましいちびのトースター』&『いさましいちびのトースター火星へ行く』レビュー
『いさましいちびのトースター』
『いさましいちびのトースター火星へ行く』
トーマス・M. ディッシュ (著) / 浅倉 久志 (翻訳) / 吾妻ひでお(イラスト)
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今回は2本立てのレビューです。
タイトル通り続き物。
そもそもタイトルで出オチ感満載なのですがw
(もちろんグリム童話『いさましいちびの仕立て屋さん』がタイトル元ですね)
グリム童話になぞらえていますが、これがまたしっかりした童話になっています。いちおう、子供向けなのですが、十分オトナが読んでも楽しめます。
1作目の『いさましいちびのトースター』は、田舎の夏別荘に置き去りにされた家電機器たちが、力を合わせて大好きなご主人様「だんなさま」のもとへ大冒険の旅をするお話。
↑よく話題にのぼる吾妻ひでおさんのかわいらしいイラストが素敵。表紙だけでなく中にも随所に挿入されています。
(吾妻先生の魅力って沢山ありますが、この自然な俯瞰力すごい)
力持ちで信頼性抜群(フーバー製)の掃除機と、寒い時にいつでも身体をあたためてくれる電気毛布、小型のAM専用ラジオ、首が自由にまがるスタンドライト、そして、ピカピカに磨き上げられたサンビーム製のトースター。
この五台の電化製品が、毎年夏になると来てくれるはずなのに、もう二年以上姿をあらわしてくれないだんなさまの身を案じて、広い森を抜け、川を越えて町まで大冒険の旅をします。
皆さんご存知の通り、電気機器、特に家電は、人間の見ている前では喋ったり動き回ったりしません。(最近はちがいますけどw)けれど、人が居なくなったときは、けっこうお互いにおしゃべりをして、どうやってご主人様にもっと快適に過ごして頂こうか相談しているものなのだそうです。そして、時にはこのように外にでるようなことも! ただし、一台の力ではそう遠くまではいけません、でも、五台の力を合わせたら! というわけですね。
まるで『ブレーメンの音楽隊』です。(そのパロディ的なシーンもありますw)ただなにしろ主人公が電気機器なので、なんとも今風のファンタジーに仕上がっています。子供向けの本ですから平易で優しい語り口(浅倉久志さんの翻訳がこれまたすばらしい!)ですが、ところどころにある大人向けのメッセージにもけっこうはっとさせられたり面白かったり。
本国では「子供のために買って、大人が読め!」と評伝されたそうですw
英語圏のSF&ファンタジー文学賞であるローカス賞や英国SF協会賞を受賞し、日本では星雲賞の海外短篇部門を受賞しました。
なんでこれがSF? って思われるかもしれません。でも、意外にきっちりSFの文脈にのっとってお話が書かれているんです。電気の説明や各機器のそれっぽい理屈がけっこうおもしろかったりして。
そして、そのSF成分がぐぐぐぐっとアップするのが次作、
『いさましいちびのトースター火星へ行く』です。
(これまた吾妻先生のイラストがすてきかわいいw)
一作目で森の中を進むだけでも大冒険だったのに、今度はなんと火星行きですよ!
二作目でスケールアップするといっても限度があるでしょうってかんじですが、距離だけでなくお話も十分に濃度が増しています。家電たちがなぜ火星へ向かうのか、そして、どうやって? というところもしっかり、ちゃんとSFファンも納得させるロジックで説明してくれているところはさすが!(いやほんとにw)
童話作品で相対性理論の説明があるの初めて読みましたw
ファンタジーと言って逃げちゃってもいいだろうに、かっちりしているなあとおもったら、それがしっかり最後に効いてくるのですよ。
全体のストーリーとして、よくある、単にキャラクターを家電にしてみまましたなんていう安易な構成ではなく、家電である理由があって、だからこそ(一作目から続く)このストーリーであって、童話なのにちゃんとSFしていて、見事なオチにつなげてくれる。うっかり最後うるっとしちゃいましたよー。
そして、タイトル元のオマージュにも実はなってるじゃんこれ。という秀逸な作りがさすがでした。
一作目のほうがそのインパクトの強さゆえか各種の賞にノミネートされていましたが、二作目だって充分そのレベル(いやそれ以上!)じゃないかと、わたし的には思います。
できれば、二作続けて読んでほしい。そしてできれば吾妻ひでお先生の絵のバージョンで読んでほしい、とってもメルヘンなSFなのでありました☆
―――
※なーんでか、(多分版権的な大人の事情なんでしょうけど)最近の文庫版は吾妻さんイラストじゃなくなっているんですよねえ。
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