ボイジャーの旅:電波通信編② すごい技術で伝えます
さてと、今回からはよりつっこんだ技術的なお話をしたいと思います。
よくわからない事柄がでてきたら、途中で参考文献(という元ネタ)を張っておきますので、そちらを参考にしたり、すべて公開情報なので頑張ってググったりしてみてください。
私もちゃんと理解しているか怪しいところがあるので、間違いがあったら教えてくださいましー。いちおう自分のお勉強もかねてまとめていきたいと思います。
まず前回の記事
↑で225億km先とどうやって通信しているのでしょう? と書いたやつですね。
まるで魔法のような技ですが、いくつもの高度な技術の組み合わせで実現しているのですよ。
いきなり元ネタご紹介
ボイジャーの電波通信に関する元ネタはこちらになります。
https://descanso.jpl.nasa.gov/DPSummary/Descanso4--Voyager_ed.pdf
2002年に公開されたボイジャーとの通信に関する詳細ドキュメント。英文ですが61ページにもわたってめちゃくちゃ詳しく書かれています。いやはや、こんなに赤裸々に書いちゃっていいのかなってぐらい詳しいです。興味のある方はぜひ読んで見てください。
さて、その技術とは……?
ポイント1:周波数
ボイジャー1号のダウンリンク周波数は、8.415 GHz、アップリンク周波数は、2.11467 GHzです。
ボイジャー2号は、ダウンリンク:8.420 GHz 、アップリンク 2.11331 GHzと決められています。
実はこの 8.4 GHz 帯というのは、宇宙の通信で最も雑音が少ない帯域なのです。
宇宙にはさまざまな電波の発信源があります。太陽はもちろん、銀河の星々、遠くの星雲などなど。
遠くの星雲等は(宇宙は拡大していっているので)ドップラー効果で本来 GHz 帯で放射されている電波の波長が長くなり(救急車が離れていく時に音下がるでしょ、あれの電波版です)、超短波(VHF)帯に周波数が下がって地球に降り注いでいます。
それから、ビックバンの名残の宇宙の背景放射に、宇宙に普遍的に存在するHなやつ=水素。こやつは励起されると 1.4 GHzの電波を出します。
また、地上で受信するには、水分子が発する 22.2 GHz あたりは使い物になりません。
そうしたさまざまな妨害要素を勘案したうえで、宇宙から降り注ぐノイズが最も少ないのが 8.4GHz 帯 なのです。
ポイント2:パラボラアンテナ最強伝説
↑の図をご覧ください。左にあるのがボイジャーのパラボラアンテナ(直径3.7mもあります)
LGA(Low Gain Antena)と書かれた点線は地球に近いところで使われたアンテナです。パラボラアンテナはものすっごく指向性が強いので、その方向にばっちり向けないといけません。(なので地球のそばではあえてLGAを使って通信したそうです)
少し地球から離れた宙域ではS-Band HGA(High Gain Antena)を使い、さらに離れたら X-Band HGAを使うよう切り替えていったわけですね。
このX-Bandが 8.4 GHz帯に対応していて、波長が短いために、さらにパラボラアンテナの口径が見かけ上大きくなった効果もあるそう。その組み合わせパワーでなんとゲインは 48.2 dB 、ビームの幅は 0.5度 だそうです。
※dB と言うのは、対数表記です。数字が1上がると10倍になります。簡単に言えば増幅や減衰するエネルギー量の差を、小数点の前後の0の数を数えてさらに10倍したものです。なので、0.0001倍になるなら、0は4つなので4、それを10倍して、マイナス40dBと書きます。
で、48.2dBというと、プラス方向に 4.82 コ0が続くx10倍の増幅力があるということですね。このゲインは、電波通信をしている人ならば恐ろしく強力なアンテナだということがわかると思います。
実際、このゲインで増幅すると、実に入力にたいして出力が 66070 倍になります。
ボイジャーの送信機の出力はおよそ 10W(正確には12.3W)です。それが66070倍になったら、660700W = 660kW 相当ということになります。
ちょ! そんな強力な電波を出す放送局なんて、地上にもめったにありませんよ!
※日本では500kW級の超大電力放送ができるのは NHK第二のみだそうです。 http://www.jushin-s.co.jp/michi/download/78_o18.pdf
めたくた凄い奴ですね、ボイジャーって……。
ポイント3:地上だって凄いのよ
先ほど、ボイジャーのパラボラアンテナは直径 3.7m と書きました。よくまあそんなのを打ち上げられたものだと思いますが、地上だって負けてません。
↑カルフォルニアのゴールドストーン深宇宙通信施設(Goldstone Deep Space Communications Complex, GDSCC)
なんと直径70mのパラボラアンテナが地上にはあります。
このアンテナのゲイン数は驚異の 73.7 dB !!
受信した信号を 2344万倍 まで増幅することができるそうです。すごっ!!
パラボラアンテナで超ピンポイントに的をめっちゃくちゃ絞って増幅した電波を、またパラボラアンテナでめちゃくちゃ的を絞って受け取るわけです。ものすごい合わせ技で、何万倍(二千万倍以上!)にも信号が増幅されるわけですね。
ポイント4:それでも宇宙は広くて広い
ここでまた元ネタ(今度は本)を紹介
↑突然ですがこの特集記事すごい! 去年の雑誌ですが、「ボイジャーに学ぶ超長距離ディジタル無線」って、まさに今回の元ネタにちょうど良いじゃん!
というわけで即バックナンバーぽちりましたw https://toragi.cqpub.co.jp/tabid/893/Default.aspx
ありがたやー。(そして今までの数字をこの本を見て書き直しました~w)
で、この本によると、
電波は180憶 km を旅すると 316 dB も減衰する
とあります。
今はもう 225億㌔まで離れちゃってますが、計算面倒なのでこの本に従っていきますねw
つまり、
40 dBm (ボイジャー送信出力)+ 48.2 dB(アンテナのゲイン) -316.0 dB(宇宙での減衰)= -227.8 dBm (地球に届くボイジャーからの電波強度)
ということになります。
マイナス 227.8 dBmって言ったら、1mWの 0.00000000000000000000001倍ぐらいの超微弱な強度。
前回も言ったけど、こんなの絶対ノイズに埋もれちゃうじゃん!!
あれ? でも、前回見つけたボイジャー1から電波強度はもうちょっと強いですね
去年のデータと今のデータで、離れていっているはずなのになんでこんなに差があるのでしょう?
対数の dBmで 70ぐらい差があるのって、実数では7桁違うってことです。おかしいなあ。
( ゚д゚)ハッ!! これは受信アンテナの能力だわ!!
先ほどの計算に地上のアンテナのゲインを足してみましょう。
すなわち、
40 dBm (ボイジャー送信出力)+ 48.2 dB(アンテナのゲイン) -316.0 dB(宇宙での減衰)= -227.8 dBm (地球に届くボイジャーからの電波強度)
+73.7 dB (ゴールドストーンのアンテナのゲイン)
= ー154.1 dBm (地上の70mアンテナで受信した電波の強さ)
となります。
近い値になりましたね!!
前回、そんなのぜったいノイズに埋もれちゃうでしょ! って言っていたのは、それでも 2344万倍 増幅した結果だったのです。。。おそろしい。。。
ポイント5:それでも電波はとどいている
ー154.1 dBm の信号なんて、いったいどうやって増幅しているのでしょう??
普通のアンプ(増幅器)は半導体の中の電子がノイズ源になっていて、(電子の動きがノイズを発している!!)そのノイズはー140 dBm ぐらいの信号レベルだということです。
ー154.1 dBm の信号より全然大きいですよね。。それじゃあノイズに埋もれてしまってどんなに増幅しても有意なデータは取れません。
さてどうしましょう。
頭の良い人がいいました(誰か知らないけどw)
電子が動き回ってノイズが出るなら、動かないようにすればいいじゃん!
と、いうことで、何と、アンテナ直下の初段増幅器は、電子の動きを抑えるべく、液体窒素でー196℃ にまで冷却した特別な LNA(Low Noise Amplifier)というやつを使っているそうです。ここまで低温度なら、温度エネルギーによっての電子の励起が抑えられるため、ノイズ原因にならないそうです。
LNAによって、普通のアンプが増幅できるぐらいまで信号を持ち上げてやって、そこから二段、三段と増幅してデータを取り出すとのことです。
うわあ、そこまでやる!? というか、そこまでやらないと、ボイジャーからの電波を有意なデータにすることができない、というわけなのですね。
うはあ、すっごいのだわ……。
◇
実はまだまだある秘密!
ポイント5まで書いて結構つかれてしまってますがw
まだまだすんごい秘密がたくさんあるんですよぉぉお!
それ以外のすんごい技術については、また機会を改めて書いてみたいとおもいます。
掘れば掘るほどすんごいのですわ。ボイジャーって……。
これが40年以上前の設計なんですよね。おっそろしい……。
オマケ
公開情報だからってどんどん掘り下げていって、
うっかり間違ったところを掘っちゃうと、グレート・ギャラクティック・グールという宇宙のバケモノが出てきて情報を喰われてしまいますので気をつけましょー☆
―――
つづきかきましたー