『ブラックホールの飼い方』レビュー
『ブラックホールの飼い方』
ミシェル・クエヴァス(著) / 杉田 七重(訳)
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なんと、あのブラックホールをペットにしてしまった女の子のお話です。
ブラックホールって、アレですね、極めて高密度で、強い重力のために物質だけでなく光さえ脱出することができない天体。そう、白鳥座X-1とか、我々の天の川銀河の中心にあるのではないかとされている、アレです。
それが、暗い夜道で11歳の科学・天文好きの女の子、ステラの後ろをついてきちゃうのです。
それを、恐ろしがりながらも部屋にあげちゃうってところがまあスゴイのですがw
科学好きの彼女なので、未知の物には好奇心もあったのでしょうけれど、実は、彼女の心にはぽっかりと大きな穴があいていたのです。
この時、大好きだったお父さん(彼女にステラという名前を付けたり、弟にコスモという名をつける、やっぱり科学・天文好きなお父さんなんでしょう)はすでに亡くなっていて、お父さんにかかわるあらゆる楽しかった思い出が喪失感につながり、大好きだった科学する心もしぼんでしまっていました。
そんな彼女の前に突然現れた、きらきらと光る眼をした真っ黒なブラックホール(なぜかその奥に深淵と銀河をたたえているような二つの目をもっています)。
両者(?)はそんなところでも惹かれ合ったのでしょうか。
うまくステラの生活と部屋になじんだブラックホールは、ラリーと名付けられ、ブラックホールの特性を活かして彼女にとって嫌なことや邪魔なモノをなんでも吸い込む(そうでもない大事なモノもどんどん吸い込んじゃうけれど)便利なペットとなったのでした。
言葉は話せないけれど、きらきらの目でなにかを語っているラリーがなんとも愛らしいのです。こんなかわいいブラックホールは初めて見たかも?(そもそも光じゃ見えませんw)
ふしぎなことに、ラリーに吸い込ませた「嫌いなモノ」にまつわる嫌な記憶も、同時に無かったことになっているようです。
それに気が付いたステラは、大好きだった父との思い出の品も飲み込ませ、忘れようとします。とうとう自分の心に開いた大きな穴すらも捨ててしまおうとしたのです。
そんな大事なモノ捨てちゃダメでしょう! という読者の突込みをよそに、11歳の女の子は過去を捨て去る決心をし、実行にうつしてしまうのでした。
さて、その結果……。は、どうぞ本書をご覧くださいw
心の穴を時空の穴で埋める超時空断捨離噺なのかと思いきや、ここからお話は急展開。ファンタジックな冒険の旅が始まります。
そもそもブラックホールを飼っちゃうってどうなの? という奇抜な発想からはじまり、そういう異質なペット飼ったらまあやるよね、と読者の興味を引き付け、急展開して冒険にひっぱりだして素敵で感動的なオチをつける。
とても奇妙なお話に見せつつ、造りとして超王道のファンタジー。これでつまらないわけはないのです。
科学や星空に興味のある子供なら大丈夫、「うそでー!」とかいいながらも最期まで読み進めてきっと心ふるわせ涙することでしょう。
私もブラックホールの可愛さに魅かれて読み進めちゃいましたw
ブラックホール好き(いる?w)、科学好き、そして宇宙が好きなお子様と大人さまにおすすめの良書でした☆
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