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元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜⑳

だが仮に彼女が勇者ではなかったとしても俺は彼女を責め、
「実は貴方こそが本物の勇者なんですよね」
と聞き出そうとは微塵たりとて考えていない。
俺は彼女のことを全面的に信用している。
たとえ嘘をつかれていたとしたも俺にとっては些細な問題だ。
だがそれでもあえて確認する必要があるというのであればひとつしかない。
それは俺自身のプライドを守ることだ。
つまり、俺はこの任務を成功させることによって自分の存在を知らしめてやりたいという想いが強いということだ。
俺は俺を捨てた奴らをギャフンと言わせたいのだ。
そのために今までの自分を全て捨て去るつもりでいる。
だが俺の覚悟はそれだけでは留まらなかった。
なんと俺はまだ彼女の名前を知らなかったのである。
しかも俺はそのことを失念していて、迂闊にも本名を聞いてしまったため、
「あっ私の名前ですか? サラと言います。
よろしくお願いします! ユウト様!!(キラキラ)」
などと言われる羽目になった。
ただそのあとに彼女のフルネームを教えてもらったところ、
彼女の苗字は【ルリ・ラフレ】といい勇者と何らかの関係を持っている可能性があるとのことだ。
ただそれ以上の事は聞けなかった。
というのも、勇者に関する話は極力伏せておくという約束になっていたからである。
「それでどうするんだ?」
「うーんどうすっかなぁ……」
流石に大声を出すことはできないので囁き声でやり取りを続けることになった。
といっても今現在は誰も来ないという保証もないから下手なことは出来ないけどな。
だが仮にここで騒ぎを起こすとして問題はどのように
解決するのかということであるが……正直な所よく分からなかったので
彼女に意見を求める事にしたのだけれど意外な答えが返ってきたのだ。
そうそれは……。
「お前は黙って見ていろ。私が何とかする」
「えっでもそれだとあんたが危険な目に合うんじゃ」
「別に構わんさ。
お前のその命が守られるというならば私は犠牲になろう。
その程度安いものよ。
それにもし奴らに捕まった場合でも恐らく殺されはせんから安心するがいい。
その時は全力をもって貴様に危害を加えた全てのものを殲滅するまでだ……。
もっともその場合は我が身を省みる事無く徹底的に破壊を繰り返すまでだけどな」
と言って、口元を緩め、
「お前の命の恩人である、こいつに感謝しながら大人しく待ってるんだな。なに心配はいらんさ」
という事だ。
だが俺はこの時気が付いていなかった。
目の前にいる女性が本当はどんな存在なのかを。
だがそれでも、この時の俺は彼女の優しさが嬉しかったのであった。
さて、どうしよう?
やはりここは勇者に任せるべきだ。
俺が行ったところでどうせ邪魔者扱いされるだけだし最悪切り捨てられて死ぬ危険性すら存在する。
だから俺は勇者を信ることにした。
だが万が一、何かが起きた時には直ぐに駆けつけようと決めたのである。
65.
そうこうして勇者が単独で行動を開始してからしばらく
経過すると辺り一面の景色は一変していき、
徐々にゴツッ、ゴロ、ガッといったような音が大きく響き渡り始めてきたのである。
その度に何か固いもの同士が激しくぶつかる鈍くて重い音が鳴り響くようになったのだ。
おそらくは巨大な物体同士の激突によるものと推測されるのだが、それに加えて激しい振動が発生する。
まるで地震のような感覚であるのだ。その証拠に立っているのが困難になり体勢を保つのでやっとの状態だ。
そうこうしていた時である。突然、一際大きな衝突の衝撃が発生し大地に大きな地割れが発生した。
それにより地面が沈み込んでしまい俺は身の危険を感じ
すぐさま逃げようとしたが……どうやらとっくに間に合わなかったようで
気が付くと全身がズタボロになっており立つことも困難になってしまったわけなのだから笑えない話なわけだ。
「グギィ」
という断末魔を上げつつ俺は地面に倒れ込んだ。
どうやら俺は運良く即死を免れるようだったが既に体を動かすことが出来ずにいた。
もはやこれまでかと思ったとき不意に体が浮かび上がる感触を覚えると、次の瞬間、
視界に映り込んできた光景が先程とは明らかに異なるものに変わっておりしかもそれが何回も繰り返された。
やがて周囲が静寂を取り戻す頃になってようやく俺は状況を認識できた。
そう俺を抱きかかえる女性の姿がそこにあったのだった。
そこでようやく俺は悟った。自分が助かったのだという事実に。同時に安堵を覚えた。
これで俺の任務は完遂したという満足のいく結末で幕を閉じることができたのだから。
だがその喜びも束の間の出来事に過ぎなかった。
俺を抱え上げた女性は急に慌てる様子を見せ始めたのである。
それも無理もないだろう何故なら今俺は彼女にお姫様抱っこをされている状態だから。
そうすると必然的に視線の高さが、
「くぅ~ん。くぇぃ、くゅく、くくく、んくんく。くふぅ、ひく、ひゃは、はわははあ、あうあああおぉお!?
ななな、何をやっているんだよ、こんな時にそんなことは止めろ!!」
と顔を真っ赤にして抗議してきた。
どうやらこの反応から察すると彼女はこういうことに慣れていなかったらしい。
そういえば俺の知り合いの女性は全員慣れているという感じではないんだよな……むしろ俺が
いつもこういう場面に出くわしたときには慌てていたからな。
俺自身はこんなに可愛い子と出会えてラッキーくらいにしか思ってはいなかったのであるのだ。
その後しばらくして落ち着きを取り戻した彼女と改めて自己紹介を始める。
「わたくしの名前はアルフィスと申しまして勇者と共に行動をしていた者でございます。
今はこうして魔王軍に加担するふりをして勇者の動向を監視する仕事を任されておりましたが、
それがつい最近に露見し逃亡を図ったところを勇者と思しき者に捕らえられてしまい
こうして拘束された次第であります」
と言った具合の説明を受けることになる。
要するに俺は助けに来たものの俺を助けようとしたばかりに一緒に捕らわれの身になってしまって
そのまま脱出の機会を失った挙句に敵のアジトで囚われてしまったということになるようだ。
確かにこれは失態だ。
何しろ本来俺の側にいるべき存在が俺の足を引っ張るような形に
なっているのだから……それにしてもこいつは一体何者なんだ!?
いくらなんでもおかしい。
「なぁ、俺を助けたときに使っていた力はどう考えても人間離れしているだだぞ!?
一体どうして俺を助けることが出来たんだよ。それにあの魔法だって尋常じゃ無かったしさ。
まさかとは思うがお前の正体は……?」
だが俺はそれ以上言葉を紡ぐことが出来なかった。
彼女の表情を見ていたらそんな言葉を口にすることすら出来なくなってしまったのである。
どう見ても彼女の笑顔は偽物のものではなかった。
そして俺には分かった。
この子は自分の正体が露呈してもいいと考えていることを……だからこそ
俺の前では本当の姿を見せてくれるということだろう。
彼女はおもむろにフードを外すと……そこには綺麗な銀色の髪と
美しい顔立ちを持った一人の少女の姿が映し出されたのだった。
だが……それだけじゃない!!
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「ん? 私のことが知りたい? ……だったら少し付き合ってくれるかな?(ニコッ)」
「えっと……それってもしかして」
「そう、君の身体が欲しいんだけどね。嫌かい?(チラッ)」
俺は少しの間考える。そして決断をした!!
まぁ断る理由もないし大丈夫だろうと考えたからだ。
何より俺は男だから当然そういう行為は経験がない。
つまり、俺にとってはこれが初体験になる訳だ。
なので、内心では不安に感じるところもあるが、
俺の気持ちを察してくれた彼女は俺の緊張を和らげるために優しい口調で語り掛けてくれているのが伝わってくる。
そしてついにそのときが訪れたのである。
まずは軽くキスを交わしたのちに彼女の舌先がゆっくりと俺の口の中へ入ってくるのを感じる。
俺は恥ずかしさを覚えつつも、必死でそれを我慢して受け入れたのだった。
「もういいからやめろっ!?」
「フフッ わかったよ。でもまだ君には教えていないこともあるのだよ?」
「な、なんの話をしているんだ……」
「それは私の正体のことさ! でも安心してほしい。
私は絶対に貴方の秘密を守り抜いてみせると約束をするさ」
と言って、今度は俺の顔に向かって自分の鼻を押し付けて来ると匂いを思いっきり吸い込むのを感じた。
「すははは、はは、ははははは。
なんて甘い良い香りなんだろう! は、はは、興奮する。
ううん違う、するするするする、してくるする、するする、くる!!!!(ブシュ)」
と意味不明な事を言って彼女は気絶したのだから、これには流石に驚いてしまったが、
すぐに彼女は目を覚まし再び話しかけてきたのだ。
だが、彼女はまだ余韻が残っているのか頬は紅潮したままだ。
だが俺は特に気にせず彼女のことを観察しているとあることに気が付付くことになる。
彼女が手に持っていたものが剣ではなく鞭だったということに……。
その鞭の先端が蛇のように伸び、そして生き物のごとく動き回り獲物を捉える。
その一撃で魔物は絶命してしまう程の威力を誇っているらしくて非常に危険な代物でもあるそうだ。
しかし彼女にとって一番の脅威はその攻撃力では無い。
実はこの人って、とんでもない変態さんかもしれない……いや、確実にそうなんじゃないかな。
俺はこの日ほど恐怖というものを強く実感したことはなかったのであるからね。
彼女の行動原理は基本的に、全てにおいて俺のためだと断言することができると思う。
例えば……、
「今日は天気が良いからピクニックでもしよう。きっとユウトにとっても有意義な時間となるはずだ。
なぜなら私が常に側についていてあげることができるから」
とか、
「私が食事を作ってきた。美味しいかどうかは分からないけど、それでも一生懸命作ってきた。食べてほしい」
と言って差し出してきて……でも結局俺はそれを食べないわけだけれど、
何故かというと俺は食べることが出来ない。
という風に見せかける必要があるからである。

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一ノ瀬 彩音
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