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【STOP医療崩壊】FDAが緊急使用許可した人工呼吸器を2人で同時に使えるようにする器具の話

少し古い話ですが、ニューヨークで感染者が急増し、人工呼吸器の不足が大きな問題となったときに、米国サウスカロライナ州の Prisma Health(プリズマ・ヘルス)が、人工呼吸器を同時に2人の患者に対して使えるようにする器具に関して、米国食品医薬品局(FDA)から緊急使用許可(EUA)を受けたと2020年3月25日に発表しました。

この器具の名前は、VESper™(ベスパ―)。

この器具は極めてシンプルな構造で、単なるY字管です。これを二つ一組で使います。一台の人工呼吸器からの吸気管を二股に分けて二人の患者に空気を送り、二人の呼気管を別なY字管で一本の管に集約して人工呼吸器に戻すというものです。コロンブスの卵的な発想の器具です。

使用にあたっては、二人の患者の酸素供給量、酸素濃度、空気圧などすべての設定要素が同じで同じ臨床治療を行う場面に限られます。

FDAの緊急使用許可(EUA)を受けたこの器具は、一人一台の人工呼吸器がなく、ほかに患者の命をつなぐための器具や代替手段がない施設などでの使用に限定されています。あくまでも、最終手段です。

3月27日に米国内でニュースとして報道されました。この器具は、同社によって米国内に無料で配布され、3Dプリンタデータも提供されています。

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ニュース動画はこれ。

アメリカでは、4月3日にニューヨーク州のクオモ知事がこの器具について言及しています(2番目の項目)。

この器具による二重化の接続はシンプルです。人工呼吸器の呼気口と吸気口のそれぞれにこのY字管を取り付けるだけです。通常と変わっている点は、各Y字管の先に計4つのフィルター装置(下の写真で丸い円盤上の部品)を接続することです。このフィルターはウイルスやバクテリアが他の患者に感染しないようにするものとのこと。

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マニュアル(全12ページ、動画もあり)には、次のような注意事項が掲載されています。

●人工呼吸器のプレッシャーコントロール設定の完全な知識と理解なしにこの方法を試みないでください。
●ボリュームコントロール設定でこの方法を試さないでください。複数接続した一人の患者のコンプライアンスまたは抵抗の変化は、ボリュームコントロール換気をされているもう一人の患者に深刻な結果をもたらす可能性があります。
●人工呼吸器に複数の接続が追加されている場合、プレッシャーコントロールモードが推奨されます。
●これは緊急使用のための使い捨てのFDA認可デバイスです。

付録には、Greater New York Hospital Associationメンバーが支援し、ニューヨーク・プレスビティリアン病院とコロンビア医科大学院がまとめた、人工呼吸器の二重接続をするためのプロトコルへのリンクが掲載されています(ただし、同病院やサポートをしたGreater New York Hospital Associationからの正式な承認を受けたものではありません)。

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この二重化の方法は、私が見る限りアメリカでは特に大きなムーブメントとはならなかったようです。最大の感染地ニューヨークの患者数のピークは4月初旬であり(今のところ)、全体的に見て人工呼吸器の数が必要とする患者数のピークを越えることがなかったからでしょう。

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Virus Deaths in New York Increase Slightly, Cuomo Says: Live Updates - The New York Times  May 3, 2020より (C)The New York Times

この方法は、感染爆発によって人工呼吸器の数が不足し、命の選択をしなくてはならないというような極限下で、初めて選択肢にあがる方法です。普段の状況なら、人工呼吸器の二重接続などは、本来の使用想定を逸脱したものであるため否定されてしかるべき手段です。

しかし、今後、医療資源が枯渇し、医療機関が野戦病院のような苛酷な状況に陥ったときに、一人でも多くの命を救うという目的のためなら、このような緊急手段も取り得るということを頭の片隅に置いておくのもよいかも知れません。患者は、満足に呼吸できず、溺れ続けているような苦しみの中にいるというのですから、人道的に許されると私は思います。でも、やはり日本では難しいかな・・・。

[補足]同じアイデアを提案・支持している人たち

YouTubeで同じアイデアを披露している医師がいます。

インドの医師が1口を4口に分ける器具を説明している動画もありますね。

日本でもクオモ知事の発言を受けて、同じ提案をしている人がいます。日本の病院にはY字管はいっぱいあるとのことで、それを利用することを提案しています。




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大切な人の命を守る知恵 Raren
一人でも多くの人の命を守る活動を続けたいと思っています。