M&Aニュース 科研薬-AADI社買収 24/12
科研製薬によるAADI社の買収は、希少疾患やがん領域への新たな挑戦として戦略的に意義深いものです。特に、Fyarro®の取得により、未充足医療ニーズに応える革新的な治療法を提供し、患者の生活の質を向上させるとともに、企業の中長期的な成長を支える重要な一手となりました。このM&Aは、企業価値の向上とグローバル展開の基盤を築く成功事例として評価されるでしょう。
1.M&Aの概要
科研製薬株式会社は、2024年11月30日、米国のバイオ医薬品企業AADI Bioscience, Inc.(以下、AADI社)を買収しました。この取引は株式取得方式で実施され、総額は約1,000億円と報じられています。科研製薬は、AADI社の発行済み全株式を取得し、完全子会社化しました。今回のM&Aは、希少疾患やがん領域の治療薬開発を強化し、グローバル市場でのプレゼンスを高めることを目的としています。
⒉対象会社のスナップショット
• 会社名: AADI Bioscience, Inc.
• 設立地: 米国カリフォルニア州ロサンゼルス
• 上場状況: NASDAQに上場していましたが、買収完了後に上場廃止
• 主力製品: Fyarro®(FDA承認済み)
• 事業分野: 希少疾患およびがん治療薬の研究・開発・販売
⒊対象会社の財務情報
• 売上高: 約6,000万ドル(2023年)
• 営業損益: 約▲2,000万ドル(研究開発費用が影響)
• EBITDA: 約▲1,500万ドル
• 純資産: 約5,000万ドル
⒋ AADI社の上市品・パイプライン
主力製品:Fyarro®
• 対象疾患: 悪性PEComa(希少がんの一種)
• 治験フェーズ: FDA承認済み
• 作用機序: mTOR阻害剤として腫瘍の成長を抑制
• 上市成功確率: 100%(承認済み)
その他のパイプライン
• 複数のがんや希少疾患を対象とした治療薬を開発中。
• 治験フェーズ: Phase 1またはPhase 2が中心
• 成功確率:
• Phase 1:平均成功確率10.4%
• Phase 2:平均成功確率6.7%
⒌パイプラインの対象疾患概要とFyrro®️の優位性
悪性PEComa(ペリサイト腫瘍)
• 疾患概要: 極めて希少な軟部肉腫の一種で、進行が早く治療選択肢が限られています。世界的な年間患者数は約1,000人未満と推定されています。
• 標準治療: 現在の標準治療は手術が中心で、進行例に対しては有効な治療法がほとんどありません。
Fyarro®の優位性
• 作用機序: mTORシグナルを阻害し、腫瘍細胞の成長を制御する。
• 競争優位性: 悪性PEComaに対してFDAが承認した初の治療薬であり、患者の生存期間を延長する効果が確認されています。
• マーケットサイズ: 希少疾患の市場規模は小さいものの、未充足医療ニーズを満たす製品として高い期待が寄せられています。
⒍買い手における財務インパクト等
1. 売上の拡大
• Fyarro®の販売地域を米国外へ拡大することで、収益の大幅な成長が見込まれます。特に、日本やアジア市場での承認取得が期待されています。
2. 研究開発力の向上
• AADI社の開発パイプラインを取り込むことで、希少疾患およびがん治療薬分野での研究開発を強化します。
3. 事業ポートフォリオの多様化
• 科研製薬は、これまでの皮膚科や眼科中心の事業領域に加え、希少疾患およびがん領域への参入を果たしました。
4. 中長期的な成長基盤の確立
• 希少疾患市場のニーズに応えることで、グローバルでの存在感を高め、持続的な成長を可能にします。
⒎買収ストラクチャ
A. 買収プロセスのおける特別目的会社(SPC)の活用
科研製薬はこの買収にあたり、米国に特別目的会社(SPC)を設立しました。このSPCは「Kaken Investment Inc.」という名称で、以下の目的で利用されました:
• 税務上の効率化: 米国内の税制に適合させるため。
• 法的リスクの最小化: 買収後のリスク管理を簡略化するため。
• 買収手続きの効率化: 現地法に基づき、株式取得後の統合をスムーズに行う。
B. 株式取得=Share deal
今回のM&Aでは、AADI社の発行済み株式を100%取得する「株式取得(Stock Purchase)」の方法が採用されました。
• 理由:
1. 株式取得により、AADI社が保有する全資産(特許、治験データ、商標)や契約をそのまま引き継ぐことができるため。
2. 事業譲渡では、契約やライセンスを再交渉する必要があり、買収手続きが複雑になる可能性があるため。
C. SPCと対象会社の合併予定
• 合併の有無: 買収後、特別目的会社(Kaken Investment Inc.)とAADI社は「逆さ合併(Reverse Merger)」を実施する予定。
• 逆さ合併の理由:
1. AADI社を存続会社とすることで、FDA承認や治験データの引き継ぎがスムーズになる。
2. AADI社が米国内で持つ契約やライセンスをそのまま維持することが可能。
D.逆さ合併選択の理由
• 順合併(Forward Merger):
買手側(Kaken Investment Inc.)が存続会社となる場合。対象会社の契約やライセンスの再交渉が必要になる可能性が高く、手間が増える。
• 逆さ合併(Reverse Merger):
対象会社(AADI社)が存続会社となるため、FDA承認や既存契約を維持しながら統合を進められる。今回のケースでは、こちらの方法が選ばれました。
まとめ
科研製薬によるAADI社の買収は、特別目的会社を活用した株式取得と逆さ合併という手法を組み合わせることで、法的リスクの軽減と事業統合の効率化を実現しました。この買収ストラクチャは、米国市場での事業拡大と希少疾患治療薬のパイプライン強化という、科研製薬の長期的な戦略に合致したものです。