北海道日記(28)
(前回までのあらすじ)やっぱり名刺は必要でした。
開場したので、劇場内に入りました。今日は奥さんと子どもも観劇します。席の案内をしていた学生さんが会釈をしてくれたので、「子どもの集中力が切れて騒ぐかもしれませんが、多めに見てやってください。」の意味を込めた会釈を返しました。伝わらなかったと思います。
昨日は上手側で見たので、今日は下手側に座りました。客入れの音楽が昨日と違って、大衆居酒屋の有線のような選曲でした。テーマは「雨」です。音響さんも楽しんでくれているのだなあと思いました。
お客さんも昨日より多いようで、後方のつぶした座席を段階的に解放していました。ありがたいことです。
お芝居が始まりました。
子どもが隣でごそごそするので若干そわそわしましたが、昨日よりは落ち着いて観劇できました。やっぱり昨日と同じく、「間」のやりとりでぞくぞくし、中盤から腹の底がふるえるような感覚を味わいました。本公演を迎えるにあたって3割くらい書き換えたのですが、書き換えて正解だったのか、前の方が良かったのかは、いまだによくわかりません。おそらく、良くなった所もあるし、前の方がよかった所もある、というのが本当の所だろうと思います。ただ、今僕が書き換えると、このようになる、という作品を提示させてもらったのだと思います。お客さんには伝わらない程度の誤差かもしれませんが、そんなことを思いながら観劇しました。
終演後、今年度の北海道戯曲賞の授賞式が行われました。の前に、スタッフさんが豆をざっと片付けました。踏むと転ぶからです。池田さんも南出さんも、一言コメントを求められて、とても流暢にコメントを述べていました。僕の時は本当に一言しかしゃべらなかったように記憶しています。見習おうと思いました。そして磯田委員長の「北海道戯曲賞は、全国に開かれた戯曲賞であります。」というお言葉が、強く会場内に響きました。そのおかげで、僕はこの場にいるし、作品を上演する機会を与えていただきました。長く、この戯曲賞が続くことを願います。
授賞式のあと、前田さんとアフタートークをしました。前田さんが「カニ、見えました?」と聞いたので、僕は「はい、見えました。」と答えました。終盤、カニっぽい何かが、隅っこからちょろちょろっと出たのです。なぜなら僕がそういうト書きを書いたからです。「あれ、どうするつもりだったんですか?」と前田さんに聞かれて、「赤い全身タイツを着せた人を出すつもりでした。」と答えたら、「あぁ、やらなくてよかったです。」と言われ、「え、そうですか?」と答えたら、「台無しです。」と言われ、「僕は『やった!』って思いますよ。」と答えたら、「やるとしたら僕か、演出助手の畠山さんっていう、うら若い女性だったので、やらなくてよかったです。」と言われました。たしかに畠山さんに全身タイツは着せられないなと、僕も思いました。
印象に残っているのは、前田さんのおっしゃった、池田さんや南出さんの戯曲には、「お客さんに見せる」という意識が働いている分、作者の本当に書きたいことが影をひそめてしまう。逆に僕の戯曲には、作者の書きたいことしか見えない(お客さんに見せるということが意識できていない)、というような話です。経験を積むと、どうしてもお客さんを意識して書いてしまうのだそうです。僕は、ヘタウマと似たようなことなのかな、と思いました。僕は池田さんや南出さんより、劇作家としての経験が浅いので、現時点では自分のためにしか作品を書けません。しかしそれはそれで大事なことで、経験を積むうちに、お客さんの反応を想定して書くようになってしまう。上手くなってしまう。書きたいものの優先順位が変わってしまう。今後劇作活動を続けて行くにあたって、いかに初期衝動を忘れずに、上手くならずに書き続けられるか。前田さんは、そのようなことを大切に作家活動を続けられているように感じました。
アフタートークが終わって席に戻ると、子どもが寝ていました。退屈だったようです。yhsの南参さんと、去年リーディングにも出演してくれた小林エレキさんが声をかけてくれました。ツイッターには小島達子さんも感想を書いてくれていて、あ、昨日の公演には北海道新聞のNさんもいらっしゃってました。面識のないお客さんも何人か声をかけてくれました。うれしくてたくさん「ありがとうございました。」と言いました。
しばらくして子どもが起きました。夕方から親睦会に参加することになっていて、それまで2時間ほど、みなさんおのおのの時間を過ごすようでした。山谷さんは「銭湯に行く。」と言っていました。
藤原家は再びテレビ塔に行き、子どもにスケートをさせました。僕も奥さんも見学したので、子ども一人で滑ったのですが、30分ほど、延々ぐるぐると氷の上を回っていました。よく飽きないな、と思いました。単純に「滑る」という感触を楽しみ続けているのだと思います。
他と比べたわけではないので、札幌という町がそうなのかどうかはわかりませんが、金髪にしている若者が多いように感じました。雪に金髪は映えるのです。そして地元には色白の方が多いので、似合うのでした。
テレビ塔を見上げると、きれいにライトアップされていました。デジタル時計は17時を回っていて、辺りは徐々に暗くなり始めました。芝居の余韻に浸りながら、ネオンに照らされたスケートリンクをボーッと眺めました。寒かったです。
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