北海道日記(11)

(前回までのあらすじ)昼の公演が終わりました。

楽屋に戻ると、お弁当を用意してもらっていました。ありがたくいただきました。受け付け回りをやってくれている学生さんたちも、同じ楽屋で食べました。僕は座布団を用意したり、お茶を用意したり、楽屋内の暗い所の電気のスイッチをオンしたりして、学生たちのポイントをかせごうとしました。当たり前のことをしただけで、その後は人見知りを発揮して全然しゃべらなかったので、特に慕われませんでした。

お弁当を食べ終わり、学生さんたちは仕事にもどり、島田さんも外出されたので、楽屋内には僕と前田さんだけになりました。僕は、まだ当日パンフの講評を読んでいませんでした。前田さんに、「僕、こわいのでまだ講評を読んでいないのですが、読んでアフタートークに臨んだ方がいいですかね?」と聞きました。表彰式の後、アフタートークがあるのです。前田さんは、「斉藤さんもいらっしゃるので、読んでおいた方が話がすすむんじゃないですか?」と言いました。戯曲の審査をしてくださった斉藤さんも、アフタートークにいらっしゃるのです。僕は、講評を読むことにしました。要は、読みたいけれど、何かしら理由や他人の後押しがないと読む勇気がないだけだったのです。

読みました。どの審査員の方も、戯曲の弱点は弱点として指摘された上で、面白いと思う部分を評価してくださっていて、大変ありがたく思いました。自分の戯曲に関しても、自分で「ここが弱いなあ」と思う部分は、やはり指摘されていました。そういうのは当然、ばれるのだなと思いました。
最終選考の候補作というのは、候補に挙がった時点で、なんらかの基準を満たしているのだと思います。北海道戯曲賞は、最初から受賞作が、演出家によって上演されるのが決まっている戯曲賞です。その点も、審査される際の基準のひとつとなっていました。お話の世界の完成度では、島田さんの「乗組員」の方が、僕のそれよりも優れていると、上演を見て感じました。それでも僕が大賞をいただけたのは、北海道戯曲賞だったからなのだな、と思いました。

しばらくして前田さんが「読みました?」と聞いてきたので、「読みました。」と答えました。僕は前田さんに、「弱点のない戯曲って、あるんですかね?」と聞きました。前田さんは、「ないんじゃないですか? 弱点を補えるくらい強みを持ってるのが、面白い戯曲なんじゃないですか?」と言いました。前田さんは何気なく言ったのかもしれないけれど、この言葉は、ずっと覚えていようと思いました。

斎藤さんが前田さんの楽屋に顔を出されました。僕もごあいさつさせてもらいました。斎藤さんのことは、10年以上前に斎藤さんの「冬のバイエル」という作品をシアタートラムで見たことがあって、一方的に知っていたのです。

夜の公演がはじまるので、タケオキクチの青いジャケットを着て客席に移動しました。受付周りや会場整理で、KさんもHさんも学生さんも動いていました。僕は会釈なのかなんなのかわからない程度の会釈をして、前を通り過ぎました。
客席に、北海道新聞のNさんがいました。Nさんは、事前にわざわざ北九州まで取材に訪れてくれていたのです。軽くあいさつを交わし、記事の載った新聞をいただきました。実家に送ろうと思いました。

「悪い天気」の上演がはじまりました。僕はそわそわして全然集中していませんでした。だから内容もあまり覚えていません(俳優のみなさん、すみません)。比較的後ろの方の座席に座りました。お客さんの反応が気になるからです。なので上演中もきょろきょろしていて、周りのお客さんに迷惑だったかもしれません(周りのお客さん、すみません)。あと、両手を顔の前で組み、ひじの置き場のない碇ゲンドウのような格好で見ていました。なんでそんな格好で見ていたのか、今じゃ全く理解できません(庵野秀明さん、ファンです)。
小道具で傘が登場し、無茶な使い方をするのですが、途中、傘の柄が折れて、「ぎゃっ」と思いました。でも傘をおもに扱う生水さんが冷静に対処してくれました。舞台に立っている生水さんの方が、客席で見てるだけの藤原より全然冷静でした。
お話の終盤でようやく落ち着きました(俺が)。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?