北海道日記(10)

(前回までのあらすじ)楽屋でお昼ごはんを食べました。

昼からは、島田さんの「乗組員」と、粟飯原さんの「あなたとのもの語り」のゲネプロでした。島田さんの作品も粟飯原さんの作品も未見だったので、楽しみでした。

粟飯原さんの「あなたとのもの語り」は、セリフもト書きにあたる部分も、すべて俳優が発話するように書かれていました。ト書きと言うより、小説の地の文のようでした。俳優二人がイスに座って読む、シンプルな演出がなされていて、言葉によって舞台が立ち上がってくる感じがおもしろかったです。俳優は二人なのですが、登場人物は三人以上いるし、状況説明も二人で行うので、言葉が乱反射するというか、錯覚のような目眩のような感覚が起きるのを楽しみました。膨大なセリフ量なのですが、女優の三木さんがまったく噛まず、この人すげえな、と思いました。稽古も含めた3日間で、この方が噛んでる様子を見た記憶がありません。「あなたとのもの語り」は最初の20分程度の上演だったので、最後まで見たいなあと思いました。

島田さんの「乗組員」は、おそらく島田さんの地元付近の、舟で行き来する、小さな島の家、という設定でした。淡々とした会話で、登場人物の心情の機微が描かれていました。家の外では不穏な事件というか、出来事が起こっているのですが、舞台上で激しいアクションが起こることはなく、ただその様子が伝えられます。そして見ている僕は家の外を想像するのでした。島田さんの呼吸というか、生活に根付いた息づかいのようなものが感じられて、この空気は自分には作り出せない、と思いました。途中、島の自治会長さん的な人が登場して、短いシーンなのですが、島の雰囲気だったり、その人の普段の生活が垣間みれる、情報のたくさん詰まったシーンがありました。こういうシーン、書けるようになりたいなあと思いました。メインの役の一人を、宇都宮誠弥(飛ぶ劇場)にどことなく風体が似ていて安心する、yhsの櫻井さんが演じていたのですが、宇都宮誠弥と違ってセリフに抑揚がありました。でも正座が苦手そうな所は宇都宮誠弥と似ていました。安心しました。

ゲネプロが終わり、舞台監督のOさんを中心に、全員で今後の流れを確認して、休憩になりました。
休憩中、Iさんが楽屋にやってきて、「夜公演後の表彰式で、一言コメントをお願いします。」と言いました。急に緊張しはじめました。紙に書いたものを読み上げてやろうかと考えましたが、一言コメントでそれはないだろうと思い、さすがにやめました。一生懸命コメントを考えていたので、他、何をしたのかはまったく覚えていません。

昼の公演がはじまりました。昼は「あなたとのもの語り」と「乗組員」の上演です。ゲネプロと合わせて2回目の観劇なので、より理解できました。「あなたとのもの語り」の、地の文にあたる部分が、なんだか夏目漱石を彷彿とさせました。粟飯原さん、夏目漱石お好きなのかな、と思いました。少し前に個人的に三四郎を読んでいたからそう思ったのかもしれません(関係ありませんが、三四郎と美穪子が家の掃除をするシーンが僕は大好きです)。昼の稽古中に、前田さんが夏目漱石っていうフレーズを出したからそう思ったのかもしれません。忘れました。夏目漱石っぽいフィルターを通して見たのでした。
「あなたとのもの語り」の上演後、転換中に前田さんと粟飯原さんが舞台上でトークを行いました。前田さんも粟飯原さんも、こういう場でしゃべるのは慣れているようでした。後から聞いたのですが、粟飯原さんは国語の先生なのだそうです。納得しました。
「乗組員」には、チロという名前の猫が登場します。あ、登場はしないのですが……難しいな、登場せずに登場します。チロという名前は、僕は犬の名前だと思うのですが、チロという名前の猫でした。昔、コロという名前の犬を僕が飼っていたからかもしれません。たしかに、犬じゃなくて猫じゃないと締まらないなあと思って見ました(北九州に帰ってきてから、チロという名前の猫が登場する話を、たまたまテレビかマンガかDVDかで見て、やっぱり俺の偏見か、と思いました)。
終演後、前田さんと島田さんと出演者のみなさんによるアフタートークがありました。島田さんは、こういう場であまりしゃべり慣れていないようでした。共感しました。サバオという、ちょっとひねくれた役を演じた小山さんが、櫻井さんから「小山はひねくれてるからなあ。」と言われ、「小山じゃねえよサバオだよ。」と返してしたのが印象的でした。「乗組員」は、登場人物に感情移入するというか、演じる俳優と役柄が同化しそうになる作品なのだな、と思ったのでした。

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