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熊本日記(4)

(前回のあらすじ)まだ小倉にいます。

早い昼飯を食ったにも関わらず、乗る予定の電車が来るまでまだ1時間以上あります。とりあえず、あるあるシティをぶらついてみることにしました。が、4階までエスカレーターで上がり、建物をぐるっと一周し、そのままエスカレーターを降りて建物から出てしまいました。全く商品を物色する気にならなかったのです。原因は、リュックの重さとめんべいです。これ以上荷物を増やしたくないという気持ちの方が勝りました。

もう動きたくなくなったので、めっちゃ早かったけど改札をくぐり、ホームの待合室でじっとすることにしました。
ホームへ降りると、乗る予定の電車の、前の便が到着した所でした。ちなみに普通列車で行くので、指定席でも何でもないため、早い便に乗ってしまっても当然行けます。しかし予定外の便に乗った結果、行き先を間違えてとんでもない所に着いても困るし、計画通りにことが運ばないとテンパるタイプなので、調べた通りの電車に乗ろうと、その便はスルーしました。
そして待合室で一人、今度出演する「水曜日の男」のセリフを暗誦しました。自分で書いておいて何ですが、僕の書くセリフは覚えやすいか覚えにくいかで言うと、圧倒的に覚えにくい部類に属するそれで、脈絡のないことを急に言ったり、似たようなことを何度も言ったりするため、忘れると2ページくらい平気で飛びます。なので、定期的にセリフを口と脳になじませておく必要があるのです。
今回、森岡さんに提供した「説明する女」という本もその傾向にあり、7名の作家が書き下ろした短編の中でダントツで覚えにくかったそうです。申し訳ない。が、僕にはそのようにしか、面白いと思えるものが書けないのです。
第三者が待合室でぶつぶつ言っている僕を見た時、これは絶対に近づかないようにしようと思うに違いありません。昨今の状況ではマスクで口元が隠れているため、怪しさの度合いは半減しているものと思われますが、暗誦する声が漏れていると逆に怪しさは倍増、待合室が気まずい空気で満たされてしまいます。卑猥なセリフを発しようものなら通報されかねません。なので音には出さず、金魚のようにぱくぱくして、セリフを口と脳になじませました。本日のノルマクリアです。

発車の15分前、早くも乗る予定の電車が到着しました。小倉が始発駅のため、長く停車するのです。まだホームに列すらできておらず、余裕で座席を確保できました。ここから鳥栖までの約90分は安泰です。

ようやく小倉を出発します。
(続く)

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