見出し画像

Suchmosを振り返る

活動休止にあったSuchmosが2025年の6月にライブを開催し、音楽活動を再開するというニュースがあった。大歓喜。
2010年代の音楽シーンのアイコンとも呼べる存在について改めてこの際振り返りたい。

1. 臭くて汚ねえライブハウスから来ました

これは彼らが2018年の紅白歌合戦に出場した際の発言であり、この発言がネット上での話題となった。まずどうしても彼らはシティポップとか洗練された都会のイメージとリンクされ切り取られがちではあるが、彼らは神奈川湘南生まれのバンドで、不良っぽいというか泥臭いというか洗練されたとは正反対のストリート的要素が大きいバンドである。

YONCE:そうですね。逆に、俺らは後から知ったんですよ。シティ・ポップっていうものが前にあって、山下達郎さんとかの文脈があった上で、そこからのパス回しが俺らのところにも来た、というか。・・・
もともとシティ・ポップが好きな人が聴いたら、「これは違うぞ」ってなるのは一目瞭然だし、「それはそれでいいや」って。文脈とか時系列とはあんまり関係なく、ただ「シティ・ポップ」っていうフレーズがキャッチーだったから、俺らにまでパスが来ちゃった、という感じだと思うんです。

『Roling Stone WEB』   cero・髙城晶平×Suchmos・YONCE、2010年代を切り拓いた両雄の視点

Suchmosは2013年結成。もともとyonceは高校時代に「OLD JOE」とと呼ばれるバンドをしており、ミッシェルやニルヴァーナ等のコピーをしていたが、そんなガレージロック一本だった彼をSuchmosというバンドへ導き、またストリート的要素を生み出したのはブラックミュージックの存在であった。

2.鍵となる2つのバンドと90年代のサンプリング手法

ブラックミュージックと言っても、ジャンルはバラバラである。ポップス寄りのモータウン、STAX、それとファンクやヒップホップなど多種多様な存在だ。
そんな中で、Suchmosの鍵となのが「ディアンジェロ」と「エリカバドゥ」という存在だ。yonceはインタビューの中でこう語る。

一時期までは1960~70年代のものばっかり聴いてたんです。でも、Suchmosのメンバーと知り合って、D'ANGELOとかエリカ・バドゥのライブ映像を一緒に見て、完全に虜になったんですよね。そういう中で、「ボーカルやってくれない?」って話になったので、もう「やるやる!」って感じだったんです。

『CINRA』 Suchmos、男としての生き様をブラックミュージックに込める

はっぴぃえんど系統からくる1970年〜80年「シティポップ」と呼ばれるものについて、これはソフトロックやAORに影響が大きいが、ブラックミュージックの影響も強くそのビート感がメロウで聴きやすい音楽の良いアクセントとなっている。またアイコンとしても永井博のジャケットのような開放感あるイメージだ。(大瀧詠一のロンバケをイメージしてもらいたいが、、、)

こう言ったスムースで都会的なイメージの楽曲は2010年代シティポップスのアーティストの中で受け継がれていく要素もあり、またリバイバルブームまでも引き起こしSuchmosの同世代アーティストと共鳴していくことになるが、上記2つのアーティストについてはこのシティポップのルーツにあるブラックミュージックとは真逆の存在である。

ディアンジェロとエリカバドゥは90年代より活躍し始めたアーティストであり、以前のソウル・ファンク・ヒップホップという個別の枠組みを脱却しそれぞれを組み合わせたよりコンテンポラリーなネオソウルというジャンルを確立した。

音楽性で一番分かりやすいのが、ビートがレイドバックしてくるような独特な浮遊感であり、これは初見だとあんまり身体に馴染んでこないのが正直な感想である。どちらかというと日本の民謡を聴いているような取っつきにくさしかない。(自分はvoodooの良さがわかるのに10年くらいかかった)

また彼らがルーツとして「J・ディラ」を語るように90年代のヒップホップに顕著に見られるサンプリング手法を用いた楽曲作りをしていたことについても非常に意義があるし、モッズからアシッドジャズの流れに呼応する90年代のロンドンや、日本だと渋谷系と呼ばれるような都市型ムーブメントと似たような形で拡散をされていった。


それは渋谷系を代表する「レアグルーブ」と呼ばれる、現在でいう「再評価」文化を植え付けたのもそうだし(個人的には10年代後半のサブスクの発展も大きい)、DIY精神とDJ感覚に基づく意識で音楽を作り始めた背後にカウンター的な要素があった90年代の上記音楽ムーブメントとリンクするものがある。Suchmosは邦楽シーンを巻き込みながら「ネオシティポップ」的な文化を形成し、大衆的な音楽として広がっていった。

まぁいえるのはsuchmosはシティポップという枠組みからは離れた音楽性であり、そのグルーヴ感やカウンター精神を大衆向けに展開できた彼らは奇跡だし、それは従来の音楽シーンからの大きな転換であったことは確かということである。

※ディアンジェロの曲はライブでもコピーしているし、エリカバドゥは曲のサンプリングとしても大胆に引用している。(YMMのアウトロ部分)

3. 2015年の転換点

ということで少し楽曲についても少し触れていきたい。上記のようにコアな音楽ファンしか通らないようなネオソウルやアシッドジャズ、サンプリング手法をベースに作り上げた、2015年発売のファーストアルバム「THE BAY」は商業的な売上げというよりも、現在にいたるこの10年弱の音楽シーンの一部を作り上げたという大きな存在であったことに間違いはない。

The Bayというタイトルや「YMM」(横浜みなとみらいの頭文字)の由来からも、地元神奈川への愛情を感じることができるが、前述したとおりネオソウルをはじめとした様々な音楽のバックグラウンドを詰め込みかつ、1970年代のシティポップのアイコンでもあった「車」「湘南」「海」というイメージも両立させながら、そこに本人たちの意図せずして都会的な情景を植え付けたのも、大きな効果があったのだと思う。

またこの2015年を境に、従来のロッキンノン系統ではなくブラックミュージックのムーブメントと共鳴するような若手ミュージシャンが出てきており、正直結構この手のアーティストは見るが、結局Suchmosを超えるようなバンドが今のところ出ていないのも、その音楽性の難しさということであろう。

4. 「THE ANYMAL」の特異性とバンドの今後

その後順調にリリースを重ねたが、2019年に「The anymal」というアルバム発売。これはかなり異色で個人的にSuchmosの中でも一番好きなのだが、初期衝動は最初にディアンジェロを聞いたような感じで、理解するのに時間がかかった。

というのも、1作目・2作目という感じで順調に本人たちは意図せずとも、ネオ・シティポップス的な枠組みを作っていたが本作については系統が異なり、60年〜70年代ロックやブルースを今の観点で切り口を入れてるような異質な作品だ。

リード曲のin the zooでは「夢も希望もないのか救ってよロックミュージック」と高らかに叫び、HIt me thunderでは「blow me storm the people flies on someday 叫んでよ名もなきブルースマンみたいに」先駆者達が作り上げたミュージックをベースに雷鳴の如く熱い思いを紡ぎあげる。hit me thunder やyou blue iなどライブアレンジになると、雰囲気が良い深くなるのも特徴的だ。もちろん60年〜70年ソウルミュージックのような熱量は今までの曲でも感じることはできたが、本作はよりメッセージ性が強く、聴けば聴くほど良さが分かる一枚である。

ここら辺でバンドの内面的な話になると、一番最初に書いた紅白歌合戦で歌った「VOLT-AGE」の製作が少し前の時期にあり、バンドとしてはこの商業的な姿勢に納得が言っていないというか、自分達のやりたいことをしたいみたいな風潮が見えており

YONCE:「俺たちはこういうの向いてないんだろうな」って、すごく学んだというか(笑)。それまでは、俺たちの周りのパーソナルな出来事だったり、むかついたり、もしくは「これがよかった、美しかった」というものを表すことでしかなかったから、「これが美しいんだと思わせてください」と言われたものに応えるのはすごく難しいし、無責任だとも思った。

Suchmos・YONCEが語る、急激な状況変化が起きた2年間のすべて

本来やりたかった音楽みたいなものを表現した結果がこのアルバムにつながったと感じる。(それ以降その音楽性の違いみたいなところから活動休止への流れになってしまうが・・・)

2020年の活動休止以来、悲しい出来事もありながらメンバーがそれぞれの舞台で活動を継続してきている。世間的なsuchmosのイメージもあると思うが、休止期間を得てより進化した、また新しくてオリジナリティ溢れる曲が聴きたいと思う。

take a life oh easy…



いいなと思ったら応援しよう!