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オタクの妄想が具現化したような作品、ドラゴンクエストモンスターズ+の思い出

皆さんは小学生の時の必殺技は何を使用していましたか?
かめはめ波?アバンストラッシュ?牙突?螺旋丸?それとも今時のキッズはヒノカミ神楽や領域展開だろうか?
僕は「古流剣殺法二文字サマルトリア仕立て」でした。
これは皆さんご存知の通り、ドラゴンクエストモンスターズ+5巻においてサマルトリアの王子が繰り出した技。
今回は僕の中のドラクエという世界観を決定付けた偉大な漫画、ドラゴンクエストモンスターズ+の話をします。
何故なら、未だに色褪せない面白さがあるから。

  • ドラゴンクエストモンスターズ+とは

あのケロロ軍曹の作者である吉崎観音先生が2000年〜2003年まで月間少年ガンガンで連載していた漫画。
ゲームボーイカラーソフト「ドラゴンクエストモンスターズ テリーのワンダーランド」の後日談を描きながら、今までのドラクエシリーズ(特にロト3部作)の内容についても再解釈してクロスオーバーしていくファン大興奮の傑作です。
そもそもテリーのワンダーランドというゲームは、主人公のテリー(Ⅵの仲間キャラクターの幼少期という設定)が異世界のタイジュの国でモンスターマスターというモンスターを仲間にして戦わせる職業になるという、ドラゴンクエストとしては外伝のような立ち位置の作品。
姉のミレーユと再会するため、モンスター同士を配合して強化し、星降る大会という頂上大会での優勝を目指します。

そしてこの漫画は、星降る大会優勝後のタイジュの国が舞台。
つまりクリア後の世界を描いた作品です。
後に明かされるのだが、物語の起点となるシナリオがまた凄い。
テリーのワンダーランドというゲーム、モンスターを配合して時間をかけて滅茶苦茶に強化していくと最終的に魔王を作れます。
そう、あのゾーマやりゅうおう、デスピサロを仲間にできてしまうのです。
そして本作はⅥのラスボスである魔神デスタムーアを作り出してしまったテリーが、逆に精神を邪の波動に支配されてしまうところから始まります。
僕達がプレイしていた時に恐らく誰しもが思っていた疑問「こんなガキんちょが魔王を仲間にできちゃうのヤバくない?」のアンサーとして「やっぱりヤバかったよ」と提示してくるわけです。

新装版2巻134Pより 流石に魔神との精神バトルは勝てないよね


そしてテリーは暴走を始め、邪配合という闇の力で激ヤバモンスターを生み出しつつ失踪してしまいます。
邪配合モンスターによって激ヤバになってしまった世界を救うため、新たにタイジュの国に招かれたモンスターマスターがこの物語の主人公クリオ君です。

  • 魔王を倒した後の勇者は、本当に人間なのか

タイジュの国に招かれたクリオ君は、以前テリーが仲間にしていたスライムのスラおと共に、テリーが狂わせた異世界を冒険し、ボスを倒すことで世界を正常に戻していきます。
2巻からのドラゴンクエストⅠの世界を冒険する章も、ドラゴンクエストのあるあるネタ(敵が1匹ずつしか出ない、街には精霊の加護があり魔物は入れないなど)を拾いながら冒険するのがとてもワクワクします。
何よりⅠの主人公(勇者)が登場し、クリオのスライム達と共にりゅうおうと闘うシーンは、Ⅱ以降の作品のパーティ戦闘への伏線のような構成となっておりメタ的にも非常に良く出来ていて胸が熱くなります。
ドラクエ1の主人公の明るい性格は吉崎先生の流石のキャラクター設計だと思います。孤独な戦いだからこそ明るく爽やか。ドットが常に前向きだった事とかかっているのかもしれません。前向きだけに。

新装版2巻83P あまりに美しすぎる初代パケ絵オマージュ

そして皆さんお察しの通り、僕が最も好きなのは3巻20話より始まるドラゴンクエストⅡのロンダルキア編です。
主人公クリオと仲間のスライム、ドラゴスライム、ぶちキングは邪配合によって生み出されたボスを倒すために新たな世界に旅立ちます。
そして辿り着いたのが、かの悪名高いトラウマ製造エリアロンダルキアへの洞窟を抜けた直後の雪原、ハーゴン軍が待ち構える終盤エリアのロンダルキア台地でした。
案の定ブリザード3体に遭遇したクリオ達は、伝説のトラウマ即死呪文ザラキを食らってしまい、クリオとぶちキング意外が死亡してしまいます。この理不尽な暴力、あまりの原作準拠っぷりに笑ってしまいます。
そこに現れたのはロンダルキアという運命の土地に導かれた1人の剣士。
そう、彼こそは大神官ハーゴンを滅し、破壊神シドーを打倒したローレシアの王子、ロランなのでした。

新装版3巻167P カッコよすぎる勇者の登場

ロランに助けられたクリオは、ロランと共にこの世界のボスを倒すために冒険を続けます。
ハーゴン神殿へ辿り着いたクリオとロランはそこで待ち受けていた魔物と対峙する。
その名はバズズ。
アトラス、ベリアルと共にハーゴン神殿で待ち受けていた中ボスの一体が、テリーの邪配合により復活し、かつて自分を滅ぼしたロランの前に立ち塞がります。

新装版4巻79P 芸術的な見開き。漫画が上手すぎる

ローレシアの王子、ロランはドラゴンクエストⅡの主人公3人の中で、唯一魔法が使えません。MPが0です。
つまり彼は腕力だけで最後まで戦い抜きます。
普通に考えて、化け物ですよね。
このモンスターズ+という作品では、その歪な点に着目し、悪が打倒された後の世界で勇者がどのような扱いを受けたかが描かれています。

新装版4巻135P 破壊神を腕力だけで破壊した男。

曰く、破壊神を破壊した男として、人々に恐れられてしまいます。

新装版4巻158P シドーより強い超人、怖いよね。


今でこそ世界を救った後の勇者達を題材にした作品はたくさんありますし、例えばダイの大冒険でもダイのあまりの人外っぷりに度々魔王討伐後に関して言及されていました。今度アニメも始まる葬送のフリーレンはその究極系の作品の一つだと思います。
ただ、当時ドラクエⅡという起源にして原典である主人公達を用いてここまで直球に彼らの後日談に踏み込んだ作品は、珍しかったのではないかと思います。
それも吉崎観音先生の圧倒的な画力と構成力をもって描かれているのですから。

ロランへの復讐のため邪配合により蘇ってきたバズズ、化け物として恐れられ自ら姿を消した王子ロラン、地獄を見た2人が時空を超えてロンダルキアの地で死闘を繰り広げます。
しかしながらバズズの言葉により、自身が畏怖の対象であり戦闘に勝利した果てに辿り着く結果を自覚したロランは戦闘の意欲を失ってしまいます。何故なら、ロトの血脈は、自らの生のため戦うのではなく、人々と共にあるための命だから……

バズズは邪配合によって取り込んだ破壊神シドーの力によりエビルシドーへと変化し、神の領域であるメラ、ギラ、バギ、ヒャドの4大魔法を同時に使用してロランを殺害します。
バズズはいわゆる中ボスとして、ハーゴンまでの障害物として勇者一行に“処理”された事に対して並々ならぬ思いがあります。ロランを殺害したことで本懐を遂げ、真のラスボスへと化したのでした。バズズ側の中ボスの立場からするとめちゃくちゃエモい演出です。漫画が上手すぎます。

勝ち誇るバズズ改めエビルシドーでしたが、運命に導かれロンダルキアへやってきたのはバズズとロランだけではありませんでした。

  • 3人揃って世界最強の化け物(モンスターズ)

ドラクエⅡは3人パーティのゲームです。
ロラン以外に2人パーティメンバーがいます。
サマルトリアの王子、サトリ。
ムーンブルクの王女、ルーナ。

そのロトの血脈は3人で勇者。
ロランがバズズとの運命によってロンダルキアに導かれていて、この2人が導かれない訳がありません。

サトリのザオリクによって死の淵より復活したロランは、2人に諭されます。

新装版5巻31Pより 1人では耐えられなくても3人なら。

孤独や重責は3人で分かち合っていけばいい。
何故ならドラクエⅡはロラン1人が主人公ではなく、3人とも主人公なのだから!

あまりに良すぎる。
ドラクエⅡファンの超絶クオリティ同人誌か?
ロンダルキア編、まだまだ良い所が無限にあるのですが、とにかくバトルも描写も、裏で展開されているクリオとマルモちゃん(めちゃくちゃ可愛いモンスターマスター)との戦いも良いので、ドラクエ好きには絶対に読んでほしいのですが、冷静に考えてドラクエ好きでこれを読んでいない人はいないので、杞憂でした。

ちなみに冒頭の僕が小学生の時に良く繰り出していた必殺技「古流剣殺法二文字サマルトリア仕立て」はサマルトリアの王子サトリが使用した破壊のはやぶさの剣によるものです。
はかいのつるぎの攻撃力をはやぶさの剣に移植するバグ技のネタまで拾ってるの、細かすぎて伝わらないと思います。
またムーンブルクの王女ルーナが使用したマホトーンですが、僕は未だにそらで詠唱できます。
デウズ・ユーディキュム・ペルフェクティ・プラキドゥム・ドヌームンです。皆さんも覚えてマホトーンを唱えましょう。

残念ながらこのドラゴンクエストモンスターズ+という漫画は、5巻で打ち切りになってしまいました。当時吉崎先生もケロロ軍曹をエースで連載していたらしいので、色々事情があるのだと思います。
とはいえ、この漫画が他のナンバリングシリーズの世界も再解釈してクリオ達に冒険してほしかったという思いはずっとあります。
新装版5巻にはテリーのワンダーランドがリメイクされた時に書き下ろされた漫画も掲載されてます。
これもまた、+の物語を包括した+(プラス)の物語。相変わらず漫画が上手ぇ!
全体を通して、テリーのワンダーランドの後の世界でありながら各ナンバリングタイトルの外伝としても楽しめるオタクの好きな要素でしか構成されていない漫画です。
僕にとって思い出深い作品ですが、今読んでも面白い作品です。
皆さんも機会があれば是非読んでみてください。


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